第28話 シャバの空気
ノートとにらめっこしながら宝箱の中身を物色する俺とガイコツ。
けれど…
''髪の色を自由に変えられる首飾り''とか、
''楽しく酒に酔う感覚を皆で味わえる指輪''とか、
そもそも内容が難しくて使い方がわからないようなものとか…
脱出に使えそうなものがなかなか見つけられず、じわじわと気持ちに焦りが出てくる。
くぅ~希望が見えてこねぇ~…!
こんな状況じゃなきゃ、目の前の魔法のオタカラに対してもっと素直に感動できたんだけどな。
…ていうか、冷静に考えてみるとこれって宝泥棒だったりしないだろうか。
なんか別にガイコツのものってわけでもなさそうだもんな。
他に持ち主がいた、誰かの宝箱なのでは…
……いや、今は緊急事態だ。
なりふり構ってはいられない。
ここにあるのは人々から忘れ去られ、再び日の目を見ることを心待ちにしながら地下で眠りについていたオタカラなのだろう。うん、きっとそう。
そう思うことにした。
てかインプマジで戻ってこねーな。
呼び掛けとかあればたぶん聞こえると思うんだけど…俺のこと忘れてるんじゃないだろうな。
………忘れてそう。忘れてメシとか食ってそう。
もうアイツの名前なんてナメプーにしてやる。
ナメてるインプでナメプーだ。
どうだ。間抜けな名前だろう。
って、ここから出られなかったらその名前を呼ぶこともないんですけどね…
『コレなンかどーだ?』
「どれどレ…」
ペラッ…ペラッ…
「お、こレだ。''力の指輪''…力が少しだけ上がる指輪か。シンプルだけど悪くないかモ」
あの斜面は滑るけど、その横の壁は通路と同じで石造りだったはず。
僅かにゴツゴツしてるところを筋肉と根性とこの指輪の力でこう、ボルダリングのように登れたりしないだろうか。
俺は力の指輪を受け取り、指にはめてみる。
本当に力が湧いてくる…気がする!
「よし…いっちょやってみるカ…!」
『お、チャレンジか!』
俺達は最初の地点に戻り、壁登りを試みることにした。
◇◇◇
ズルッ
「のわー!」
ダメでした。
思っていたより石の壁がゴツゴツしていなかった上に、斜めであるのがまた辛い。
何度か試したが、半分も登れなかった。
『厳しいな!』
「厳しいぃ…」
いよいよまずい気がしてきた。
俺マジでここから出られないかも…
本格的に不安が募り始めたその時。
ギィィ…
「!」
上の方から扉が開く音が聞こえてきた。
誰かが暖炉がある部屋に入ってきたようだ。
一瞬あのインプ…ナメプーかと思ったのだが、
タッタッタッタッタッ…
と小走り気味の足音が近づいてくる。
ナメプーはパタパタと飛んでいたので、たぶん別の誰か…
も、もしかして…!
「ユビターーー!」
「お…親方~~~~~ッ!!」
来てくれたのは親方だった。
その声はかなり近く、暖炉の中の通り道を発見した上で地下に向かって呼び掛けているようだ。
「!ユビタ、ソコニイルノカ!」
「います!ユビタいます!」
「動ケルカ!」
「動けます!でもこの坂がツルツルで、自力で上がれません!」
「ワカッタ!島カラ、丈夫ソウナツタ、持ッテクル!待ッテロ!」
「あ゛りがとうございま゛す~~~!!」
タッタッタッタッタッ…
親方の足音が一度遠ざかっていく。
けれどナメプーが去っていった時と違い、絶対に戻って来るという安心感が半端ない。
てかすごいな。
どうやってここがわかったんだ…?
『助かりそうか?』
「おかげさまで助かりそウ!色々面倒見てくれてあリがとね」
『ケケケ!いいッてことよ!そら、餞別だ!』
ガイコツはどこにしまっていたのか、金貨を3枚俺に持たせてくれた。
『それがあればいつでも暇が潰せるゾ!』
「あ、ありがとウ」
あくまで暇潰しアイテム扱いなんだな、金貨…。
「…キミは、どウするの?一緒にここを出る?」
『ン~、出られるなら出てみたいなァ。なんてッたッてココは暇だからな!やることもなけりャ話し相手もいない!ケケケ…ケケ…ケ…』
「ガイコツ…」
『あ、いやある。やることある!』
「え!?」
『オレサマやッぱり全部の指に指輪がついてないと落ち着かねー!慣れッて恐ろしい!だから新しい指輪を探すぜ!』
「そ、そウ?それならこれ、返そうか?あとこの力の指輪も…」
俺は手にしている指輪一式を返そうとしたが、ガイコツはNo!と言わんばかりに手を突き出した。
『いや!それはもうオマエのものだ!今日は生まれて初めて誰かと出会ッた記念すべき日…記念日と言えば指輪だ!オマエにも、オレサマのこの解放されし親指と小指にも、新たな指輪との出会いが必要なのだッ!』
と訳の分からないことを言いながらガイコツはくるりと俺に背を向けたかと思うと、そのまま来た道をカシャカシャと走って戻っていく。
「あ、ちょ、ガイコツさんヤ~い!?部屋戻るの~!?オレたぶんもウ行っちゃうよ~!?」
『おう!また会おうぜ~!』
なんてあっさりかつフリーダムなんだ…
と思いつつその背骨を見送っていると、ガイコツ曲がり角前で急に足を止めた。
「ん…?なんだ…?どしター?」
少し距離が離れているので、声を大きめにしてそう聞いてみた。
するとガイコツがぐるんと振り返る。
『オマエ名前は~?』
「あ、オレはね、ユビター!」
『ユビタかー!オレサマの名前は~?なンかつけてくれ~!』
「急だな!」
ガイコツの名前…名前…
俺はとりあえず最初に思い浮かんだ名を叫んでみた。
「ホネスケとカどうかな~!」
『お~!わかりやすくていいな!じャ、オレサマは今日からホネスケだ!よろしくなユビタ!そンでもッてまたなーユビター!』
ガイコツ改めてホネスケは手を振りながら、今度こそ通路の角を曲がって去って行った。
「ま、またねー!」
本当に行っちゃった…なんて自由なアンデッドなんだ。
でもいいやつだったな。
会えてよかった。
◇◇◇
それから少しして、親方がウオタローを連れて戻ってきた。
二重に編んであるツタを地下まで垂らしてくれたのでそれに掴まり、ふたりに引っ張りあげてもらう形で無事救出された。
◇◇◇
「シャバや…シャバの空気やぁ…!」
「ユビタ釣れた~!」
「ふたりともあリがとう…!でもどウやってここが?」
「ニオイ、辿ッテキタ。ゴブリン、気合イ入レテニオイ嗅ゲバ、仲間見ツケル、ナントカナル」
「すげぇ…ゴブリンに生まれてよカった…」
「ナニガアッタ」
俺はインプに手を引かれてここに来たこと、
そいつの調査につい付き合ってしまったら地下に突き落とされて上に戻れなくなったこと等…
事の顛末をざっくりと話した。
「インプカ…イカニモ、ヨケイナコトヲシソウナ魔物ニ絡マレタナ」
「島スライムのことばっカ警戒して、城の魔物への警戒心が緩んでました…すんません…」
「向コウモ、オマエガヒトリノトコロ、ワザワザ狙ッテ話シカケタンダロウ。ヤハリ、城ハ危険ダ…インプ、戻ッテキテモ困ル。早クココヲ出ヨウ」
「ですね…って、ウオタロ~?あんまリ覗くと落ちちゃうよ~?」
ウオタローは地下が気になるのか、俺が親方に事情を話している間も暖炉に潜って下を覗き込んでいた。
俯せになって前のめりで覗き込んでいるその姿は、頭隠して尻隠さず状態である。
尻尾もゆらゆらしてて可愛いおちりだね。
…いかん。つい爬虫類を見る目になってしまった。
俺は仲間になんて目を…でも爬虫類って可愛いよね。
ウオタローは暖炉から出てきたものの、まだ下の様子が気になっているようだ。
「下になんかいるよ~」
「下ニ…?オレ、気配、ワカラナイ。ウオタローダケガワカル気配…魔法カ?」
「地下にホネスケっていう、魔法の指輪をたくさんつけたアンデッドがいルんですよ」
「アンデッド…!?」「あんでっとぉ?」
「え、あ、いや…」
しまった、思っていた以上に親方の眉間にシワが寄ってしまった。
親方の反応からして、アンデッドの存在は魔物からしてもあまりよろしくないみたいだ…
そりゃまぁごりごりに人間の骨だったしよろしいわけがないんだろうけども。
「す、少し話した分にハいいやつだと思ったんですけど…あんまリよくない感じの魔物なんですカね?」
「アンデッドガ…話ス…?」
え、そこからおかしいの?
そりゃまぁちょっと変わったやつではあったけども…
「…オレノ知ッテルアンデッド、言葉、ホトンド話サナイ。ブキミナ、魔物モドキ。魔法ヲ使ウ強イ魔物ガ、操ッテイルコトモアル」
「へぇ~」
「強い魔物に操られてイることもある、魔物もどき…」
ホネスケが言っていた''お告げの声''は、操ろうとした誰かの声だった…のか?
「お告げ…声がしたけど、ついていくことができなカったって言ってました。今は魔法の指輪で助かってルらしいです。操られそうだったけど、なんかの魔法で助かったってことなんですカね?」
「魔法カ…魔法ハ、ヨクワカラナイナ…」
「オレが地上に戻る方法を一緒に探してくれたんでス。お喋りでめっちゃいいやつデしたよ。お土産モもらっちゃいました」
俺はホネスケからもらった指輪と金貨をふたりに見せた。
「アンデッドカラノ、ミヤゲ…」
明らかに怪訝そうな顔をする親方。
そりゃそうか…ホネスケのフリーダム陽キャ具合を見てないと呪いのオタカラみたいで怖いよな。
…大変失礼かつ今更なんだけど、違うよね?
そういうんじゃないよね?
「この輪っかちっちゃいねぇ~。ふしぎなカンジがギュッとしてる~」
「こレは指輪だよ。指にはめて使ウ魔法の指輪さ」
「へぇ~」
「…ウオタローガ悪イ気配ヲ感ジナイナラ、大丈夫…ナノカモシレナイ」
「悪くないよ~」
「やった~!」
ウオタロー先生のお墨付きを頂いたので、たぶん大丈夫だ。よかった。
その後、部屋の中で一番重量がありそうなソファー…だったものを暖炉の近くまで移動させ、そこにツタを括って地下まで垂らしておいた。
これでうっかりまた落ちても自力で上がってこれるだろうし、ホネスケもその気があれば地上に出てこられる…かな?
とりあえず今日のところは帰って、また今度様子を見に来よう。
「今日は本当にすみまセんでした…手間も心配もかけさせちゃって…」
「イヤ…」
親方は何かを言いかけたように見えたが…
「…マズハ、島ニ戻ロウ。話、ソレカラ」
とだけ言った。
「帰ってみんなで魚食べよ~!」
「うん…帰ウ!」
何を言おうとしたのか気になったけど…
親方の言う通り、まずは落ち着いて話せる島に帰らないとな。
俺達は暖炉の部屋を後にし、ワープ部屋へ向かった。




