第26話 隠し通路の住人
ゴンゴロゴロゴロゴロゴロ…
ドシャッ!
「んギゃっ!」
角度エグめの斜面を転がり続けた俺の体が、地面に打ち付けられる形でようやく着地した。
「いってぇ~…魔物じゃなカったら死んでるぞ…」
魔物同士だからこういう扱いなのかもしれないけど…にしたって荒すぎるだろ!
とりあえず起き上がって周囲に目を向けてみる。
石っぽい壁に湿った土の地面。
部屋というよりは道…通路のような場所だった。
少し先には道が別れているのが見える。
結構入り組んでる感じ…?
やみくもに探索すると迷子になりそうで怖いな。
「下はどんな感じダ~?」
上の方から、インプの呑気な声が響いてくる。
「どんな感じダ~?じゃないよモ~…身体中が痛いよ!あと暗いよ!」
「なんか動いてるヤツとかいるカ~?」
「こ、怖いこと言ウなよ!いないよ!」
「いないィ?ふ~ん…」
なんだその意外そうな反応は…
何かいると思って俺を行かせたのか?シバくぞ。
ゴゴゴ…
「「!?」」
通路の奥の方から、重い音ものが動くような聞こえた。
本当に何かいる…!?
「な、なんか音したよ!?」
「出てきタ…!魔力の塊が出てきタ!やっぱり隠れてたんダっ!」
「魔力の塊が隠れてたって何!?どゆこと!?よくないやつ!?ねぇよくないやつだよねその感じね!?ちょ、やだ…一旦そっち戻るっ!」
俺はついさっき転がり落ちてきた斜面を急いで登ろうとした。
しかし…
ツルンッ
「のわ~!」
角度が急すぎる上にツルツルとやたらと滑ってうまく上がれない…!
カシャ…カシャ…
「ひっ…!?」
一方で、不気味な気配が音を立てながらこちらに近づいてくるではないか。
こ…怖くて振り向けない…!!
「な、なんか、なんか来てるっ!!」
上に戻ろうと必死に足掻く俺。
しかし足掻けば足掻くほど滑ってしまって登れない。
そんな俺をインプは放置したまま、何やらブツブツと独り言を呟いている。
「この感じ…闇の魔力じゃないのカ…?ケド城の地下にいるエレメント体なんて絶対アンデッドに決まってル…!」
「なんてー!?もっと大きな声でちゃんと全部俺にも共有してー!?泣くよー!?てか助けてくれてもよくない!?キミ飛べるよね!?落としたなら最後まで責任取ってよ!!''オイラがついてる''ってアナタ言ったじゃないっ!!」
「ヨシ、ゴブリン!」
「はい!!」
「それが上に上がって来ないようにしろ!」
「は!?」
「オイラは地下にアンデッドがいるって、デーモンに報告してくルー!」
「ア…ァアンデッドぉ!?なんだそれ怖すぎだろ!!ちょ、行かないでっ!!マジで助け…
パタパタパタ…
インプの羽音は無慈悲にも遠退いていった…
「は…薄情者がーーーーーっ!!」
カシャ…カシャ…カシャ…
そうこうしているうちに、音と気配はどんどん近づいてくる…!
ガタガタガタガタ…!
俺の震えのギアも上がってきましたよ!
「マジかぁ…これマジかぁ…!!」
すんません親方…
俺はここまでのようです。
俺は簡単なクエストもこなせないうんこゴブリンです…
うんこと一緒に埋めといてください…
カシャ…カシャ…
トントン
「ひっ…!!?」
肩を軽く指で叩かれるような感触がした。
今、俺の背後には間違いなく…''何か''がいる。
意を決し、恐る恐る振り返ってみると…
暗闇の中にあっても、俺の魔物の目がハッキリとそれを捉えた。
ゆらりと動く、白く…骸骨の存在を。
『よッ!』
「イヤァーーーーーーーーー!?」
俺はその場で腰を抜かしてしまった。
逃げ道がない、助けもない。
為すすべがない。
頭はもう恐怖と絶望でいっぱいだった。
怖い怖い怖い怖い怖い怖い…!!
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…っ!」
目を閉じて手を合わせ、自分の知る限り最もアンデッドに効きそうなワードをひたすらに唱えた。
『ナム…なンだ?それ』
「どうか安らかに成仏してください呪わないで下さい成仏してください…っ!!」
『よくわかンねーケド…元気出せ!オレサマがついてる!』
「すっごいデジャヴ…!もうその台詞には騙されないよアタシャ!!」
『落ち着け大丈夫だ!オマエはひとりじャない!ひとりよりふたり!ふたりよりひとり!』
「どっち!?」
『ひとりにもふたりにもそれぞれの良さがあるさ!ふたりの良さは話し合えること!さァ、何があッたのかこのオレサマに話してみろ!』
「やだカッコいい…って、ん…?」
なんか…
普通に話せそうじゃないか?
俺は勇気を出して閉ざした瞼を開き、もう一度ガイコツのことを見てみた。
紛うことなきガイコツ。
至近距離ガイコツ。
普通にチビりそうなほど怖い。
…けど、へたりこんだ俺に目線を合わせるようにしてしゃがんでくれているし、ガイコツであるということを除けば普通に親切そうな人に思える。
…人?魔物?
「ア、アナタは…人…ですカ?」
『ン~~?…わかンネ!』
「わかんないカぁ…」
『イヤ~オレサマ生まれて初めて人と喋ッたぜ!よく来たな!ゆッくりしてケ!ケケケ!』
ガイコツはそう言って、ケタケタと骨を鳴らしながら笑っている。
オバケらしからぬ陽の気…陽キャの波動を感じる…!
「いや…それがあまりゆっくりはしてラれなくて…」
『そうなのか?』
俺はガイコツに事の経緯を簡単に話してみた。
そしてすぐに帰らねばならない旨も伝えた。
『おつかいかァ~そりャ早く帰らねェとな。…ココから上には行けないのか?』
ガイコツは俺が何度も転げ落ちた斜面を指差した。
確かに、ここから上に戻れたら話が一番早いんだよな。
さっきは慌てていたのモあるし、落ち着いて登ればなんとかなる…かも?
「…もっかいやってみマす」
『お、やッてみろやッてみろ!チャレンジは大事だ!』
「よ~シ…!」
今度は慎重に斜面を上がっていく。
ゆっくりと手を置いて、足を置いて、その比重の置き方に気をつけて…
慎重に上がって…
上がって…
あが…
ツルンッ
「のわ~!」
やっぱり上がれない…!
テンパってたからうまく登れなかっただけなのではという淡い希望を抱いていたのだが、慌てていようが落ち着いていようが全くもって登れないくらいには角度が急だしツルツルだった。
しかも意外と横幅が広くて、両サイドの壁に手足をついて登っていく的なこともできそうにない。
これって…
地下からは城に侵入できないよう、わざとそういう造りになってたりする?よくできてるねぇ。
……え、詰んでない?
「あ、あの~…ここ以外に出入リ口ってありますカね?」
『出入り口かァ…オレサマも外に出られたことがないからあンまわかんネェな~』
しれっと怖いこと言ってるような…
もしかして、ここから出られなくてガイコツに…?
俺もそうなる感じ…!?
『あ!そういやココから右右左前右左に進ンだところに、上に続いてそうな場所があッたゾ』
「マジですか!」
なんか格ゲーみたいな道のり…!
よかった、ちょっと遠そうだけど他に脱出経路がないわけでもなさそうだ。
と、思ったのだが…
よくよく話を聞いてみると、その''上がれそうな場所''というのははしごは壊れてるわよじ登っても天井にある蓋が重いわで、少なくともガイコツが試した時は外に出られなかったとのことだった。
「うーん…」
『困ッてるのか?困ッた時はオタカラを漁ッてみるといいゾ』
「困っタ時にオタカラ…でスか?」
『そうだ!オレサマはオタカラで助かッたからな!オマエも助かるかもしれないゾ?』
ガイコツはそう言いながら手を肋骨の前でクロスさせ、指をひらひらと動かして自分が付けている指輪を見せてきた。
よく見ると、全ての指になかなかゴージャスな指輪がはめられている。海賊みがすごい。
でも指輪で''助かった''って…どゆこと?
『オタカラ部屋はコッチだ!すぐソコだ!』
ガイコツはカシャカシャと通路の分かれ道まで駆けていき、右の通路を指差した。
俺をそのオタカラ部屋まで案内しようとしてくれているみたいだ。
めっちゃいい人じゃん…
爪の垢を煎じてインプに飲ませたいくらいだ。
もしかして、ガイコツがつけてる指輪は魔法のアイテム的な何かだったりするのだろうか。
インディセ様も隠し部屋には貴重な魔道具?があるかもグェ~みたいなこと言ってたし。
オタカラ…魔法のアイテムの中に、ここから脱出するのに使えるものがあるかもしれないとあのガイコツは考えているようだ。
インプが戻って来る保証もないし、すぐそこならちょっと行ってみようかな。
「ちょっとだけ…見てこウかなぁ?」
『見てケ見てケ!』
とはいえ助けが来る可能性もなくはないので、ここから離れすぎない範囲で慎重に…
俺は自力で地上に戻るすべを探すべく、ガイコツと共にこの地下通路を少しだけ歩いてみることにした。




