第25話 秘密の入り口
2026/3/17追記:ツッコミが長いところを一部削りました。
インプに引っ張られて連れてこられたのは、大きな暖炉がある広い部屋だった。
立派なソファーやテーブル…だったであろうもの達がひしゃげて部屋の隅に追いやられている。
魔物にとっては邪魔でしかなかったんだろうねぇ…勿体無い。
元は客間とか応接室とかそんな感じの部屋だったように見える。
この部屋の前の通路が糞が落ちている場所だったことを覚えている。
恐らく、今は魔王軍の待機部屋のひとつとして使われている場所なのだろう。
「ヨシヨシ、誰もいねーナ。調べるゾ!」
インプは壁やら床やらに手をあてては次、手をあてては次と部屋の中を調べていった。
何かを感じ取ろうとしているみたいだ。
魔力とかかな?
「こ、これオレいるカなぁ…?」
「ムム…ムムム…」
聞いてねーなこりゃ。
なんか集中しちゃってるよ。
ていうかまずいって~…
早く帰らないと親方を心配させちゃうだろうが!
負担を減らしたくてやったことなのに、増やしてどうすんだよ!
しかもこれで本当に隠し部屋があった日には抜け駆けじゃねーか。
インディセ様から隠し部屋の話が出た時、親方の目がちょっとデカくなったの俺見逃してないからね。
何気にちょいちょい一緒に隠し部屋探しもしてるんだからね!
親方は意外と好奇心旺盛なんだからねっ!
「ん~どこだぁ~?…ヨシ、あの中調べてみるゾ!」
インプは埃を被った暖炉を指差しながら、その近くまで俺を引っ張っていく。
「イテテっ!いや、オレはそろそろ戻らなイと…」
なんて俺の声はお構い無し。
パタパタと暖炉の中に入っていくインプに引っ張られて、俺も少し腰を落として中に潜る。
なんでこんな頑なに俺の腕を離さないの…?
ひとり怖いって言ってたし、心細いのかな。
「ムム…!ココ、すげぇヘンだゾ!」
「変…?」
インプは暖炉の奥をコンコンと叩きながら訝しげな顔をしている。
普通の暖炉に見えるけどな…いや暖炉の中とかあんま見たことないけども。
「シシシ!ゴブリンには解んねぇよナ~。魔法だヨ魔法。このごちゃごちゃしたカンジ、術式を使ったフクザツで長持ちするヤツに違いねぇ。しかもちょっと隠す魔法もかかってんゾ。ただの壁にここまでするなんて、めちゃくちゃヘンだ!」
「すご…本当にそういウのが分かるんだ…!魔法のプロじゃん!」
「キシシ!そうダ!オイラはプロだ!だからここには絶対何かあるって解んのサ!」
そう言って、インプは壁をコンコンしまくる。
コンコン、コンコン…
ガタッ…
「!」
「キキッ!?この壁動くゾ!」
壁の一部がズレて、動かせそうであることが分かる。
そのズレによって僅かに生まれた隙間にインプが手を突っ込み、B3用紙くらいのそれを一気に取り外した。
「お、重い…ゴブリン…」
「はいハい…」
俺は取り外された分厚いフェイクの壁を暖炉内の端に立て掛けておき、外した場所をインプと共に確認してみる。
そこには何やら謎解きっぽいカラクリ…いや、入力装置?があった。
タイプライターのキーのようなボタンが5×5で並んでいて、その横にはガラスっぽい半透明の小さな珠が5つある。これは上下にスライドできそうだ。
動かせそうな珠は赤、水色、黄色、黄緑、茶色と並んでいて、みんな違ってみんな綺麗だねぇ。
「うげっ…なんだこの弱いのにフクザツな魔法。こーゆーのがイチバンめんどくせーんだよナー…ニンゲンくせー仕掛け。おいゴブリン、なんとかしろ」
インプは壁のタイプライターみたいなボタンをカチカチとつつきながら、俺に問題を丸投げしてきた。
「んな無茶ナ…」
インプ曰く魔法も使われているみたいだし、すごく手の込んだカラクリに違いない。
魔法のプロが分からないなら、俺にはもっと分からないのでは…?
とはいえ、こんなところにこんな怪しいものがあるということは間違いなく何かあるわけで、正直めちゃくちゃ気にはなる。
このカラクリも色々いじってみたいし。
でも…それは今日でなくたっていい。
俺は今、大事なおつかいの途中なんだ。
マジでそろそろ帰らないと。
インプには悪いが、流石に今日の探検はここで切り上げさせてもらう。
「…ねぇ、そろソろメシの時間なんじゃない?」
「ん?そう言えばそうだな…腹減っタ~…」
よし…メシの時間は俺達と同じくらいのようだな。
「ここを調べるのはまた明日にしよウよ。お腹が空いてると頭も回りニくいし。ね?」
「ムム…オイラの手柄なのに…他のヤツに見つかっちまうじゃねーカ」
「元通りにしておケばバレないさ。いっぱい食べて、いっぱい寝て、また明日調べに来たらいいじゃナい」
「うーん…そういやキッチンのヤツらにスープを作らせたんだっタ。早く取りに行かないとメシの時間が終わっちまうゾ…」
なんか思ってたよりいいもの食ってんな…
上の階の魔物ってそんなちゃんと調理したもの食べてるの?
キッチンってどこだよ。
ちょっと使わせて欲しいんだけど。
…といかんいかん。
話を広げたらまた帰りが遅くなる。
さっさとこの壁を戻して島に帰ろう。
「じゃ、まタ明日だね」
「キ~…明日、ゼッタイ来いヨ!」
「来る来る。じゃ、蓋しちゃウね~……ん?」
手に取ったフェイクの壁の裏側に、何やらメモ紙みたいなものが貼ってある…。
''○⑤○⑦○''
○○○○④
⑥○○①○
○○⑧○○
''○③②○○''
「……」
もう一枚貼ってある…
''火 水 雷 風 土''
○ | | | |
| | ○ ○ |
| ○ | | ○
''これで開くよ!''
「……………」
それはどう見ても、目の前にあるカラクリの正しい解き方…答えそのものであった。
これは…あれかな?
金庫の裏に暗証番号貼っちゃってるご老人みたいな…
あらゆるパスワードがメモしてある紙をスマホカバーの内ポケットに入れちゃってた部長みたいな、そういう…
いやセキュリティがガバガバすぎるやろがい!!
まずい。
インプに気づかれる前に、さっさとこの壁を戻さないと…
「あ!なんだこの絵!なんか…このカラクリと似てねぇカ!?」
ダメだ見つかったわ。
「ふむふむ…石はこう!こうダ!」
ガコッ!ガコッ!
インプは早速、小さな珠達を図の通りになるよう動かし始めた。
「カチカチの方は…印が書いてあるやつを押せばいいのカ?うりゃ!うりゃ!」
インプはカチカチと数字が振ってあるボタンを上から順に押していく。
しかしそれは、メモ紙にある順番とは違っていた。
「ありゃ…?違うのカ…?」
あーこれ、たぶん数字が読めないんだな…
数字を数えられるのと数字が読めるのは別なのか。
でもこれで''また明日''って流れに戻せそうだな。
危なかった~。
「うーん…」
カチカチ、カチカチ…
「なんでだぁ…?」
カチカチ…カチカチ…
インプは不思議そうにボタンをカチカチし続ける。
「あと少しなのに…」
カチカチ…カチカチ…
少し押す順番を変えてみては、何度も何度もボタンの入力を試みるインプ。
しかしなかなか正解にたどり着けないでいる。
「うーん…うーん…」
「………」
俺の視界には今、一生懸命頑張る小さな背中が困っている姿が映っている…
「…………これから押してみタら?」
「ん?コレか?」
カチッ
「そんで、次はこレとこれで…」
「ふんふん…」
カチッカチッ
「こレと、これかな?」
「コレか」
カチッカチッ
「で、これ、これ、これ…の順カも?」
「コレ、コレ、コレだな…」
カチッカチッカチッ
ゴゴゴゴゴゴゴ…!
「キキッ!?」
「お…おぉぉ…!」
大きな音と振動。
暖炉の中の壁が下がり始め、ゆっくりと床に沈んでゆく…!
ゴゴゴゴゴ…ゴ…ガタンっ!
振動が止まる頃には暖炉の壁は完全になくなっており、地下へと繋がる謎の空間が姿を現していた。
「す…すげぇ!開いた!オイラ天才ダ!」
インプは現れた空間を早速覗き込んだ。
よかったねぇ。
そんでやっちゃったねぇ俺はねぇ。
もどかしくてつい答えを教えてしまった。
なんだかんだ色々と目星をつけてカラクリまで見つけたのはこのインプだし、ここまで来たらもうコイツに解かせてあげたくなっちゃったんだよ。
できれば親方にもこの瞬間を見せてあげたかったけども…
「ん~…?気配がないナ。やっぱ気のせいだったのカナ…」
「気配…?」
俺も少しだけ覗いてみる。
角度のエグいすべり台みたいになっていて、それがかなり下まで続いているようだ。
なんだか小学生時代の避難訓練を思い出すな。
「結構急だね~…下には何があルんだろ…ま、それを調べるのはまた明日ってことで
「ヨシ!見てこいゴブリン!」
「え」
ドカッ
「うわっ!?」
突然の背中への衝撃。
いつの間にか尻尾から解放されていた片腕。
両足が床から離れ、その浮遊感に''しまった''と一瞬で血の気が引く。
そして次の瞬間には、俺の体は角度際どめの斜面を転がり始めていた。
ゴンゴロゴロゴロゴロ…!
「あ~れ~~~~~!」
俺は数分前の自分の行いを猛烈に悔いながら、急激な斜面を転がり落ちていくのだった…。




