第21話 ウオタローと指スマ
やや長め。
「ボクも…帰っていいのぉ?」
ボスタローの打診にウオタローは目を輝かせる。
「ノロマ、指スマ、強い!」
「ノロマ、イガイと、カシコイ」
「オレ、指スマ、まだちょっとムズカシイ。教えてクレ!」
リザードマン達はウオタローを囲み、群れへの再加入を歓迎している様子だ。
「オマエ、仲間、認められタ。…戻ってきても、イイ」
ボスタローは顔を少しそむけながらもそう言った。
相変わらずの無愛想っぷりだが、いつものような不機嫌さや攻撃的な感じはない。
なんだかんだウオタローのことが嫌いってわけでもないんだろうな。めんどくせーやつ。
仲間に囲まれたウオタローは、嬉しそうにみんなの顔を見回し…
「ボクもみんなといっしょに沼に帰る~!」
元気いっぱいにそう返事をした。
よかったな、ウオタロー。
ウオタローは仲間と一緒にいたかったんだもんな。
イヤーーーッ!行かないでっ!!
みんなと沼に帰れることになって本当によかった。
イヤーーーッ!帰らないでっ!!
こんな危なっかしい城にずっといるより、故郷で暮らした方がいいに決まっている。
イヤーーーッ!島暮らししよっ!!
俺だって、村に帰れるって言われたらすぐにでも帰りたいと思うし。
イヤーーーッ!ウオタロー行かないでっ!!
ダメだ、心が叫びたがってる。
こんな急に…寂しくなるな…
「ボク、沼に帰るね~」
こちらを向いて、自分が帰ることを報告してくれるウオタロー。
「いがないでっ!!」
と言いたいところだが、魔王軍の待機拠点にいるより故郷に帰った方がいいに決まってるのでグッと飲み込んだ。
「よ…よかっタなウオタロー。みんなト帰れることにナって」
「うん!ひさしぶりに沼で釣りできるよ~」
「はは、ウオタローは本当に釣りガ好きダな」
「ゲッゲッ!ボク、釣りだいすき~!」
正直めちゃくちゃ寂しい。
それにボスタローとうまくやっていけるのかとか、また迷子になって仲間とうまくいかなくなっちゃったりしないかとか、色々心配もある。
…けど、それは出会ったばかりの俺がとやかく言うことではないのだろう。
群れは家族みたいなもんだ。
一緒に帰れるなら、きっとそれが一番だよな…
「…そノ、大丈夫か?何か武器とカ防具とか、持って行った方がいいんじゃナいか?ウオタローだケほぼ丸腰だろ?」
俺は旅立つウオタローの装備を見繕うべく、装備品の山を漁ろうとするが…
「ん~、だいじょうぶ~。魔法使いにくくなるからいらないよ~」
と、本人は特に何も装備せず城を出るつもりのようだ。
「そウ…?ホントに大丈夫カなぁ…?」
「だいじょうぶ~」
他のリザードマン達は武器も盾も持ってるし、金属でできている胸当てみたいなのを着たやつもちらほらいるぞ?
でもウオタローは手ぶらだし、俺や親方みたいに腰ミノ一丁だぞ?鱗取り用の石が入った皮の小袋付きね。
…いや、本当に大丈夫?
あまりにも周りと装備差がありすぎて心配になっちゃうんですけど…
いや余計なお世話ではあるんだけども…!
「…あ、そうだアれは?島に置いてあルやつ。海の盾」
「!…あのウロコがいっぱいのやつぅ?」
よし、食いついた!
「そウそう!ウオタローが釣っタ魚の鱗いっぱい使ってルからさ、ここでの思い出を持ち帰るっていウのも兼ねて、あれだケでも持っていかナいか?ね、親方!」
「ソウダナ。ウオタローガイナケレバ、ツクレナカッタモノ。海ノ盾、ウオタローノモノデモ、アル」
「グケ~ッ!やった~!持ってく~!」
ウオタローは喜んでいる!
すると、俺達の会話をすぐ横で聞いていたボスタローが口を開く。
「…オレたち、正門にいル。装備、終わったらオマエも来い」
「わかった~」
ウオタローがそう返事をすると、ボスタローは「グケッ!ゲッ!」と全体に向けて何か指示するような鳴き声を発してのしのしと城の出入口に向かっていった。
すると、周りにいたリザードマン達もその後にぞろぞろと続いてロビーを離れていく。
本当に統率が取れてるな…
「…さて、ササッと行って盾取ってキちゃうか!」
俺が急いでワープ部屋に向かおうとすると、親方がスッと手を出してそれを制止した。
「オレダケデ、トッテクル。オマエタチ、ココデ、指スマデモシテ、マッテロ」
「え、今…指スマですカ?」
どゆこと??
いくらなんでも指スマ好きすぎない??
「オマエ、ズットウオタロー、キニシテイタ。…アソボーデキル、サイゴカモシレナイ。一戦カ二戦クライナラ、デキルダロウ」
「!親方…」
どうやら親方は、ここ数日ウオタローとほとんど会えなかった上にいきなりお別れすることになってしょげているであろう俺を気遣ってくれているようだ。
最後にウオタローと遊ぶ時間を…思い出作りをする機会を与えようとしてくれているのかもしれない。
「オヤカタは指スマしないの~?」
「フッ…ゼンインデヤッテイタラ、盾、トリニイケナイ」
「そっかぁ~。じゃあ、あとでやろぉ~!」
「ソウダナ。…後デナ」
親方はそのまま単独でワープ部屋に向かっていき、ロビーには俺とウオタローだけが残った。
1階から魔王軍がいなくなった今、城の中がえらく静かに感じる。
この閑散とした空気がおひらき感というか、本当にお別れなんだという実感をより強くして…ちょっと泣きそう。
「どうしたのぉ~…?おなか空いてるのぉ?」
気づくと、ウオタローが少し屈んで俺の顔を覗き込んでいた。
その手には魚が構えられている。
恐らく俺の口に突っ込もうとしている。
いかん…ウオタローを不安にさせてしまった。
「いヤ…メシは後デ大丈夫だよ。あリがとな」
「そうなの~…?」
何やってんだ俺は。
最後かもしれないっていうのに、メソメソしてたら困らせちゃうよな。
ウオタローはこれから仲間と一緒に故郷へ帰るんだ。
ハッピーなことじゃないか。
そこにケチつけるような真似はしたくない。
最後の思い出は悲しいよりも、楽しい方がいいに決まってる。
「よし…やるカ、指スマ!」
「ゲッゲッ!やろ~やろ~!」
俺達は親方が戻ってくるまでの短い間だけ、指スマをすることにした。
せっかく作ってもらった時間だ。
楽しく遊んで、笑顔で見送ろう…!
「オレかラいくぞ~!」
――――――――――
d レッツ、指スマ!b
――――――――――
―俺のターン―
「いっセーの、''1''!」
do ob…計2ユビ
「ほウほう…」
「フムフム…」
まずはお互い様子見だ。
ウオタローはただ不規則に指を上げるだけじゃなく、策を練ってくる手練れだからな。
久しぶりのウオタローとの1v1、しかもこれが最後になるかもしれないんだ…心して挑まねば!
―ウオタローのターン―
「いっせーのぉ、''にぃ''!」
do oo…計1ユビ
「はいハいはい…」
「ふんふんふん…」
出たな、ウオタローの''相手の指だけでヒットを狙う作戦''。
1v1である時、これをやるだけで''0~4''の5つの選択肢が''0~2''の3つにまで絞れるというなかなか強力な作戦だ。
どのくらい強力かというと、しりとりで鳥、毬、槍…と尻の文字を意図的に同じにするくらいには強力である。
ならば俺は…
―俺のターン―
「いっセーの、''2''っ!」
do oo…計1ユビ
「!……んふふ」
お…気づいたか。
なら、次は…
―ウオタローのターン―
「いっせーの、''いち''っ!」
oo oo…計0ユビ
「あれ~…?」
「フふふ…」
やはり''1''を宣言してきたな。
俺がずっと指を1本だけ上げ続けていることに気づいて、次も同じだと踏んでヒットを狙ってきたわけだ。
だが、悪いなウオタロー。
これはキミの思考を誘導する為の罠だ。
―俺のターン―
「いっセーの、''4''っ!」
db db…計4ユビ【俺Hit!】
「あ~~~!」
「ヨしよしよし…!」
ウオタローは自分の中で処理している情報が多いと、両指の動きがセットになりやすいんだよな。相手のターンの時に上げる指数が、''0か2''のどちらかになりやすい。
もっと言えば、気を取られている要素が多ければ多いだけ''2''を出してきやすい印象がある。
さっきの俺の行動が意図的なものだと察して、どういう作戦なのか考えるのに集中力を持っていかれたのだろう。
考えることができちゃったから、しっかりといつもの癖が出た。
ふふふ…ちょっと小賢しい手かもしれないが、ウオタローは侮れないからな。出し惜しみはなしだ。
―ウオタローのターン―
「いっせーのぉ…''に''っ!」
b do…計2ユビ【ウオタローHit!】
「あ!?」
「んふふ~」
しまった、俺も一本取られた。
偶然か?それとも…
自分の出す指数に偏りがあること、そしてそれを俺が利用していることに気づいてもう直してきた…?
このウオタローの笑み…
きっとそうだ。
これは偶然なんかじゃない。
戦いの中で尚も成長しているんだ!
やはりウオタローは強い…!
「流石…やルなぁウオタロー!」
「ふふ、負けないよ~!」
これは長い戦いになりそうだぞ…!
◇◇◇
その後も俺とウオタローの熱い指スマ勝負が続いた。
しかし、なかなか決着はつかず…
◇◇◇
「いっセーの、''2''っ!」
b o…計1ユビ
「「あ~!」」
「いっせーのぉ…''に''っ!」
o b…計1ユビ
「「わ~!」」
「いっセーの、''1''っ!」
o o…計0ユビ
「「あぁ~~~!」」
「いっせーのぉ…''ぜろぉ''!」
b o…計1ユビ
「「あぁぁ~~~!」」
ずっとこんな調子である。
でも楽しいな…
手応えがある相手っていうのはもちろんだけど、友達と遊んでる感じがすごく心地いい。
思えばこの世界に生まれてから、村のゴブリン以外とこんなに仲良くなったのはウオタローが初めてだ。
けれどウオタローはもうすぐ帰ってしまう。
もっと一緒にいたかったな…
そんなことを思いながら、再び俺のターンになった時。
ギィィ…
「!」
ワープ部屋の扉が開く音がした。
島に盾を取りに行ってくれていた親方が戻ってきたのだ。
そんなに長く遊んでたのかな?
楽しい時間ってあっという間だな…
「ン…スコシ、ハヤカッタカ」
「イやぁ、軽く一戦だけやルつもりがなかナか勝負が決まラなくて…」
ゲームはまだ終わってないけれど、リザードマン達は早く城を出立したい中ウオタローの装備支度を待ってくれているわけで…
必要以上に待たせるわけにもいかない。
「でもモう、行かナいとですよね。あまりリザードマン達を待たセても悪いし」
「ナラ、サイゴニイッカイズツ、ヤッタラドウダ。ソレデ勝負、キマルカモシレナイ」
「そうしよ~!」
「一騎討ちカ…よし!やろウ!」
親方の提案で、俺とウオタローは最後に1ターンだけやることにした。
――――――――――
d レッツ、指スマ!b
――――――――――
―俺のターン―
「ん~~いっセーの''2ぃ''!!」
o b…計0ユビ
「「ん~~~!」」
―ウオタローのターン―
「いっせーの~~…''いちぃ~''!」
b b …計2ユビ
「「んん~~~~~!」」
―しかし、やはり勝敗は決まらなかった…―
「オォ…ホントウニキマラナイナ…」
「そうなんでスよ…激アツなんでスよ…」
「ドキドキするよ~!たのしいね~!」
「そうだなぁ…でも、流石に時間切れカな」
俺は指スマの構えを解いた。
「今回ばカりは引き分ケだ。ウオタローはもう行かないト」
「う~ん、ひきわけかぁ~…」
消化不良な結果にウオタローは残念そうだったが、俯きかけた顔をすぐに上げて言う。
「また今度やろ~!」
「!」
''また今度''…そうだよな。
これが今生の別れになるとは限らないんだ。
また会える可能性だって、全然あるよな!
「…うん、またやろウ!また…会おうね、ウオタロー」
「うん!またね~。あ、これあげる~」
ウオタローはそう言って、足元に置いていた魚を俺と親方に持たせてくれた。
「いいのか?群れの仲間にあげナくて」
「今日はこっちの仲間にあげる~!」
「ウオタロー…ありがトうな。仲間からもらった魚、大事に食べルよ!」
「んふふ~」
ウオタローも俺達を仲間だと思ってくれていたことに胸が熱くなる。
過ごした時間は多くなかったかもしれないけど、
同じ釜の飯…ではなく海の幸を食べて、
一緒に寝て、時々遊んだりもして、
楽しく過ごした時間は本物だ。
俺達は間違いなく、仲間だ。
きっとまた…会えるよな。
「ウケトレ」
「わぁ~!ウロコの盾だ~!」
親方からウオタローへ海の盾が手渡された。
島の海の幸がふんだんに使われている盾は、海みたいに青い釣り好きのウオタローにピッタリだ。
「ウオタローらしくて似合っテる!」
「ほんとぉ?んふふ~」
親方の持って帰ってきた海の盾は、この間ウオタローが群れの仲間の為に釣った''すっごくおっきな魚''の鱗をふんだんに使った最新のものだった。
それは今ある盾の中で一番いい盾でもある。
親方もウオタローのことを大事に思っていることが見てとれる…
「…短い間だったケど、一緒にいラれて楽しかったよ。魚もらっタり、魔物に囲まれた時に助けてモらったり…ウオタローには本当に世話になってばっカりだった。ありがとうな。会えてよカった」
「ボクも会えてよかった~!海とぉ、キミとぉ、オヤカタ!新しい仲間がいっぱいできたよ~!ゲッゲッ!」
「フッ…」
俺達は外に出るまでの短い時間も会話をし、一緒にいられる時間を大切に噛み締めた。
◇◇◇
城の外に出ると、正門らしき場所にリザードマン達が集まっている姿がすぐに見えた。
ウオタローは嬉しそうに「グゲ~!」と鳴き声をあげながら群れの元へトタトタと駆けていく。
「!ノロマ、来た」
「オレタチ、待ちくたびれた!」
「おまたせ~!」
赤いリザードマン達の中にいる青いウオタローはよく目立つ。
けれど、不思議と溶け込めているように見えた。
きっとこの数日間、ウオタローは仲間とたくさん遊んだんだろうな。
そっか…ウオタローはちゃんと群れのやつらと仲良くなれたんだ。
「オレタチ、盾もらって、海の魚食って、指スマしたダケ」
「オレタチ、ヨク寝た」
「沼、帰って、狩りと指スマ!スル!」
「ボクも釣りと指スマする~!」
「スル!スル!ゲッ!ゲッ!」
星空の下で和気あいあいとしているリザードマン部隊とウオタロー。
その姿は少しだけ、平和な村のゴブリン達と重なって見えた。
「…タノシソウダ」
「ですね」
俺と親方はその様子を少し離れたところから見守った。両手に魚を一尾ずつ持ちながら。計4尾である。
「ん…?ノロマの盾、魚クサイ」
「海のにおいだよ~。ボクこの盾だいすき~!」
ウオタローは嬉しそうに海の盾を自慢している。
気に入ってくれたようで何よりだ。
似合ってるぞ、ウオタロー。
「……行くゾ」
ボスタローが一言そう言って歩き出すと、ウオタローを含めリザードマン達全員がそれについていく。
ああ…とうとう行ってしまう…
てか帰り徒歩なんだ…無事に帰れますように。
「ウオタロ~!元気でね~!」
俺が魚を持った手をブンブン振ると、ウオタローが振り向いて手を振り返してくれた。
「げんきんでね~!」
うん、惜しい。
リザードマン部隊は長い石造りの階段を下りてゆき、城を旅立っていった。
俺達は丘の上の正門からその様子を見届けた。
姿が遠く見えなくなっても、両手を塞いでいるこの魚の重みが確かな絆を感じさせてくれる。
離れていても…俺達は仲間だ!ドン!!




