第19話 おひらき
食事中の方は少々注意回
翌日。
まずは掃除に使う道具の調達から始めた。
シャベルとか手押し車とかあるとすんごいラクなんだけど、そんなものどこにあるのか…
というかそもそもあるのかすら分からなかったので、とりあえずシャベルの代わりに錆びた斧を使うことにした。
この斧もまさか、糞をすくい上げる道具として使われることになるとは思っていなかっただろうな…「Ohノー!」つってね!たはっ!
ごめん。二重の意味でごめん。
手押し車の代わりになるものは見当たらなかったので、リル島で木を集めて、並べて、両端をツタで括って…イカダみたいなものを作って持ってきた。
これに斧ですくった糞を乗せて、担架みたいに二匹がかりで持ち上げて城の外まで運んでいく。
最初は外の地面に運び出すだけでいいかなと思っていたんだけど、やっぱり穴を掘って埋めていくことにした。
ついでに元から外にあったやつもできるだけ一緒に埋めていく。
そのまま転がってるだけなのと、土を被っているのとでは、においも土に還る早さも全然違うだろうからね。
ひたすら糞を集めては埋める作業を、黙々とこなす俺と親方。
ゴブリンはねぇ、人間ほどばっちぃものに抵抗ないもんなんだよ。
全くないと言えば嘘になるけど。
でもこの作業で城が綺麗になるならまぁやるかなって感じ。
ずっとあるとずっと気になるからね。
あっという間に夜が更けていく…
「…キョウハ、コノクライニシテオコウ」
「ふー…メシの前に海で体洗いマすか」
「ダナ」
糞に直接触れることはなかったが、一応作業後は島の海水で軽く体をすすいだ。
仲間の糞だとあんまり気にならなかったんだけど、他種族の糞はなんかにおいが気になるんだよな。
臭くて嫌っ!というより、そわそわして落ち着かない感覚だ。
魔物の本能とかから来るものなのかな。
水浴びを終えたら砂浴びもする。
これやらないとベタつくからね。
夜更けの砂浜で、蟹を殻ごと齧る砂まみれの俺と親方。
今日はいつもと違う仕事の初日だったのもあって、焚き火用の乾いた木を用意できていない。
よって火はなし。蟹も生である。
ウオタローがいれば、多少湿気ってる木でも魔法で強引に火をつけられるのだが…
ここ数日、ウオタローはこの時間帯島にいない。
「ウオタローは今日もリザードマン達のところに行ってルのか…」
「群レノ仲間ダカラナ。モドレルナラ、ソノホウガイイダロウ」
「そう…カ…そうですヨね…」
ウオタローがあの大部屋に行くのは、''出掛けている''というより''帰っている''と言った方が正しいのかもしれない。
でもちょっと心配だなぁ…
元はといえば、群れの仲間に''メシでも集めてろ!''って置いてかれて一匹ぼっちになってたわけだし。
いやウオタローの奔放さも大分起因してそうではあったけども。
…関係が良くなったなら、それに越したことはないんだろうけどさ。
◇◇◇
翌日。
やることはもちろん昨日の続き。
糞の掃除である。
糞をすくい糞を運び、
糞を落とし糞を埋める。
いろんな魔物が滞在していたからか、糞にもいろんなのがあって…いや、この話はそこまで詳しく語るべきではない気がする。
うん、この話はやめよう。
とまぁそんなこんなで、俺と親方が外で埋め立て作業していると…
バサッ!バサッ!バサッ!
「ん…?」
何や上空から魔物の気配と羽音がどんどん近づいて来るではないか。
しかもとんでもなく強そうな魔物の気配。
嘘でしょ。やだ。
あの飛んでる魔物達、ここまで降りてくんの…!?
慌てて空を見上げてみると、丸々とした白銀の怪鳥が徐々に高度を下げている様子が見えた。
「あレは…インディセ様だ!」
羽音の正体はインディセ様だった。
その巨体が近づいてくるほど、この間までうろついていた魔王軍のおっかない魔物達とは比較にならない圧倒的な強者の気配がビリビリと伝わってくる。
魔物としての格の違いを改めて思い知る…
でも…やっぱちょっと可愛いな…
スマートスタイルも可愛かったけど、元のサイズもよく見たら可愛いな…むしろ可愛いな。
一度可愛いと認識してしまうともう全部可愛く見えてしまう。
ふわふわモフモフした生命体を可愛いと思わないことは難しいからね。
仕方ない。こればっかりは人間の業。
インディセ様は城壁の上にドシィィンと降り立ち、こちらを見下ろしながら脳に直接語りかけてきた。
『ホォ~糞を集めて土に埋めているグェか。賢いグェな~、やはり連れてきて正解だったグェ。その調子で励むグェ~!』
「あ、ありがたキお言葉ーーー!!がんばりまーーす!!」
城壁の上にいるインディセ様と、地面にいる俺達の間にはかなりの距離がある。
もちろんこちらは念話なんていう芸当毛頭できないので、全力で大声を出すしかないのである。
『うむうむ、苦しゅうないグェ。大半の魔物部隊が何かしらの作戦に出撃したゆえグェ、キサマラも動きやすかろう。今のうちにできる仕事を済ませておくとよいグェ』
「は…はーーイ!がんばリまーーす!!」
やっぱりそうなんだ~…
大半の魔物部隊が何かしらの作戦に出撃しちゃったんだ~…へ~…
俺が顔をひきつらせていると、タタタタタッ…と誰かが駆けてくる足音が近づいてくる。
「インディセサマ!」
駆け足で外に出てきたのはボスタローだった。
そうだ、インディセ様は魔王軍の偉い人じゃないか。
リザードマン達の出撃について何か話があるはず…ボスタローもそう思って駆けつけたのだろう。
『おぉ、リザードマン部隊の部隊長か。わざわざ挨拶しに来るとは、よい心掛けグェ~!』
インディセ様は「コケーコッコ!」と上向きで笑い、ご満悦のご様子。
しかし、すぐに顔の向きを戻す。
『…ん?確かリザードマン部隊の出撃日は、オーク部隊やトロール部隊と同じだったはず…そしてその二部隊はもうここにはいないグェ。何故キサマラだけ出撃していないグェ?』
ありゃ、インディセ様も今回の件に関してあまり把握していないみたいだ。
本当に何があったんだろう…
状況もよくわからない中、それでも一週間近く真面目に待機していたリザードマン部隊が怒られるようなことにはなって欲しくないな…
「それが…夜、来ても、魔方陣、光らなかったデス。オレたち、今も、出撃できないまま、デス」
『なんと…そういえばアヤツからの報告もないグェな。ムゥ…』
インディセ様は首をすくめ、少し考え込んでいる様子だった。
アヤツって誰だろう…?
それはそうと、別に大声を出さなくても会話が成立することに若干の衝撃を受ける俺。
インディセ様って耳がいいんだな。
となると俺の大声はうるさかったまであるんじゃないだろうか。すみません。
『…うむ。現時点をもって、出撃は中止とする!リザードマン部隊は帰還してヨシ!解散、撤退、おひらきグェ!』
「!」
え、おひらき…?
マジ?いいの?
『しっかりと殺気を磨き、次の召集に備えておくように!』
「グケェエエエエエッ!!」
ボスタローはインディセ様の言葉に応えるように、持っていた槍を掲げながら勇ましい鳴き声を上げた。
あんま磨かないで欲しいけどな。
でもよかった…
あぁ、俺は本当にダメな魔物だな。
こんなにホッとしてしまうなんて。
知り合った魔物がやられたり、人間と無益な…って言っちゃいけないかもしれないけど、戦ったりするのはやっぱり嫌だ。
正直、なんの揉め事もなく出撃の中止が宣言されて安心した。
『さて、我輩は用が出来たゆえグェもう行くグェ。キサマラ!今日も明日も明後日も、未来永劫、魔王様の為によぉ~く働くグェ~!』
そう言うと、インディセ様はバサッ!バサッ!と翼を羽ばたかせて城壁から浮上し始めた。
「うっ…!」
ちょっと力んどかないと飛ばされそうなくらいの強い風圧が、地面にまで伝わってくる。
俺も親方もボスタローも、その場で少し屈んで風圧に負けないよう堪えながらインディセ様を見送った。
…下から見るインディセ様、胸毛がこんもりモフモフでデカ可愛かったな。埋まりたい。
絶対できないけど。
「………」
ボスタローは何か思うところがあるのか、険しい顔をしたままその場から動かなかった。
…出撃なしって、魔王軍の魔物的にはあんまり嬉しいことじゃないのかな。
そりゃそうか。やる気満々だった仕事が''急になしになりました''なんていい気分しないよな。
うーん、難しい…
魔物の幸せはやはり暴れることにあるのだろうか…
若干の心配や同情もあって、ついボスタローの方を見ていると、突然ギロリと睨まれる。
「…チッ。見てんナ、ザコが」
心底蔑むように俺を見下ろし、不機嫌全開で城の中に戻っていった。
…やっぱアイツ感じ悪ぅ~!早く帰れ!
出撃なしサイコー!ビバ平和!一生出撃なんかすんな!
家でクソして寝てろバーカ!
と言ってやりたいところだが、
そんなこと言ったら串刺しにされそうだし俺が串刺しにされそうになると親方が戦うことになっちゃうので、黙って歯をギリギリすることしかできない無力な俺なのであった。
「…ウオタロー、シラセルカ」
「!そうデすね」
まだ夜もそんなに深くない。
きっと今頃、ウオタローは島で釣りをしていることだろう。
リザードマン部隊がおひらきになったことをウオタローにも伝えるべく、俺と親方は一度作業を切り上げてワープ部屋へ向かうことにした。




