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魔王軍に指スマを教えたらやたらと流行ってしまった件について ~異世界転生したのはいいけどただのゴブリンだったので大人しく余生を謳歌するくらいのつもりだった~  作者: ロイヤルミルク麦茶
第二章 とある魔物部隊と指スマ

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エルフの隠れ里襲撃作戦 -後編-

やや長め。

事もあろうに、ダークエルフであり魔王軍幹部でもあるメニケをエルフ族と勘違いして向かってくるオーク達。

これまでの度重なるストレスもあり、メニケはいよいよ堪忍袋の緒がキレそうになる。


「今すぐ丸焼きにしてやろうか…っ!!」


しかし、思いとどまる。

ここで取り乱してしまえば、作戦の要(かなめ)である【虚無ノ嘆キ】に影響を及ぼしかねない。

それだけは何がなんでもあってはならないのだ。

勝ち目がなくなるから。


全ては''打倒エルフ族''という悲願の為…

なんとか、なんとか理性を保とうと深呼吸を繰り返すメニケ。


「スゥ~…ハァ~~~…」


もう一度。


「スゥ~~…ハァ~~~~~~~~~…」


少しだけ落ち着くことに成功したメニケは、己の喉に微量の魔力を通わせてから再び息を深く吸う。

そして…


「''グォオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!''」


恐ろしい魔物のような咆哮を上げた。

それは、あらゆる者に一瞬だけ自身を''強いの魔物''だと錯覚させることができる【地獄ノ咆哮】という技だった。

僅かな魔力があれば狂戦士(バーサーカー)なども使用できるちょっとした小技である。


「!!」


オーク部隊は咆哮に驚き、メニケの前で足を止めた。

戦闘による興奮状態から少しは覚めたようで、対話が可能な状態となる。


「全く…この馬鹿どもが!私は魔王軍幹部だぞ!目上の者と敵の区別もつかないのか!?」


「グォ…」


メニケの言葉に戸惑うオーク達。

この状況に混乱しているようだ。


「エルフ、オソエ、イワレタ…」


オークは困惑した様子でそう答えた。


「そうだ!''エルフ''を襲うのだ。私がエルフに見えるか?」


オーク達は仲間と目を見合わせ、そしてコクリと一同に頷いた。

メニケのこめかみにまたもや血管が走る…!


「殺すわよ愚図ども…!エルフとダークエルフは全くの別物だ!!」


「エ…デモ、ミミ、トガッテル…」


「ミミ、トガッテル、エルフ…」


「耳しか見ていないのかお前達は!?オーラが全然違うでしょ!オーラが!!」


「オ、オーラ…?」


更に困惑するオーク達。

すると一匹のオークが、恐る恐る上空を指を差す。

その先には、トロールの攻撃を回避しながら空中で応戦しているダークエルフの少女の姿があった。


「…アレ、エルフ?」


「アレは…まぁ、ダークエルフだけれども…アレはアレで攻撃しろ!」


「マァ、ダークエルフ、ダケレドモ、アレハ、コウゲキ…」


複雑な指示にますます困惑するオーク達。


「オレタチ、エルフ、オソウ…」


「そうよ」


「オマエ、マオーグン、カンブサマ?」


「そうよ!…次お前って言ったら殺すわよ」


「グォ…」


オーク達はひそひそフゴフゴと相談し合った。

たくさん悩み、考え、鼻を鳴らし、

そうして出した答えは…


「オレタチ、オマエ、シラナイ」


「は?」


「オマエ、ミミ、トガッテル」


「オマエ、カンブサマ、ウソ」


「オマエ、ヤッパリエルフ」


「オレタチ、エルフ、オソウ!グォオオオオオ!」


オーク達は武器を振り上げ、メニケに再び襲いかかる!


''ブチッ…''


ここまで必死に持ち堪えていた、最後の何かが…キレた。


「ふ…ふふ…ふふふ…!!よぉ~く分かったわ。お前達が…救いようのない愚か者だということがなァ!!」


ついに怒りで我を失うメニケ。

ぐわっと開いた片手から、漆黒の炎を出現させ…


「【暗黒ノ炎(ダークフレイム)】!!!」


「アグァァアアッ!?」


自分に牙を向いたオーク達を渾身の攻撃魔法で容赦なく焼き払った。

辺りは燃え盛る漆黒の炎に包まれ、無慈悲にも美味しいお肉の焼ける匂いが広がってゆく…


その、次の瞬間。


キィィィイン――


「うっ…!?」


いくつもの光の輪によって、メニケは拘束された。

それはただ動きを封じるだけでなく、魔法の使用も制限する封印魔法だった。

漆黒の炎が一瞬にして消え去り、エルフ達がメニケを取り囲む。


「そこまでです、秘呪師メニケ!大人しく観念なさい!」


「クソ…小癪な…っ!」


メニケが怒りに任せてオークを一掃した際に、魔力と集中力が分散して【虚無ノ嘆キ】が緩んでしまったのだ。

魔法形成妨害が僅かに弱まったその一瞬の隙に、エルフの数人が可能な限りの封印魔法を構築してメニケを拘束した。

そしてこの封印により、メニケの妨害魔法は更に不安定なものになろうとしている…


「誰が…観念するものかァアアアアア!!」


メニケは持てる魔力の全てを放出し、無理矢理【虚無ノ嘆キ】を維持しようとする。


「ぐっ…!闇の魔力で封印を無理矢理押し返す気か!」


「悪足掻きを…!」


「そうはさせません!」


更に数人のエルフがメニケに手をかざし、封印魔法を重ねがけする。


「ぐぇ…!か、重ね過ぎだろ…っ!!こんのぉ…!!」


メニケの妨害魔法とエルフ達の封印魔法が互いを邪魔し合い、拮抗する。

そして、先に大きく揺らいだのは…


「クソッ…嫌…ああ!」


メニケの妨害魔法【虚無ノ嘆キ】だった。

彼女はとうとう魔力切れを起こしてしまったのだ。

抵抗も虚しく、辺りを支配していた闇の魔法がみるみる薄まっていく…


「っ…トロールども!!どこまで行くつもりだ!?ここでお前達のボスが捕まっているぞ!!戻ってこいこのバカどもがーーーっ!!」


魔法が使えなくなったメニケは、最後の悪足掻きにトロール部隊を大声で呼び寄せる。

その声に反応し、ダークエルフの少女や他のエルフ数人が遠くで引き付けていたトロール達が一斉に振り向いた。


「グォオオオオオオオ!!」


咆哮と共に体の向きを変え、あちこちに散らばっていたトロール達が

ドシィィン…ドシィィン…

とメニケの方へ進行を開始する。


メニケを囲んでいたエルフ達は、すぐにその場から離れた。

闇の妨害魔法が消え、魔法がまともに使えるようになった今、エルフ達は飛ぶこともワープすることも容易であった。


残されたのは、拘束されたメニケのみ。


しかし…

ドシィィン…ドシィィン…!

と、トロール達はそのままメニケの方に向かってくる。


「う…嘘でしょ…お前達まで敵と味方の区別がつかないわけ…!?く、来るな…こっちじゃない!!」


ドシィィン…!ドシィィン…!

トロール達の進軍は止まらない。

彼らはメニケの命令に従っていたのではない。

ただ大きな声や音に反応し、そこにいる獲物を狙う…それを繰り返していただけに過ぎなかった。


このままでは踏み潰される。

メニケは必死に逃げようとするが、光の輪に上半身を拘束され、足場はぬかるんでいる上にヒールの高いブーツでは走ることもままならない。

当然、魔法も使えない。


ドシィィン…!!ドシィィン…!!


「違う…こっちじゃない…来るな…来るなってば…!」


ドシィィン!!ドシィィン!!


「く…来るなバカどもがァアアアアアっ!!」


メニケが悲鳴にも近い叫び声を上げたその時。

離れたところから静観していたエルフの一人が静かに杖を掲げ、一言唱える。


「【天罰雷槍《ライトニング・ジャッジメント》】」


すると、次の瞬間。


ピシャァァア…!!


空から数多の紫電が轟き落ち、トロール達に直撃する。


「グォオオオオオオ…ォ…ッ!?」


強烈な雷魔法を浴びせられたその巨体は、黒い煙をあげながらゆっくりと傾き…


ドシィィィィン…!


その全てが森の大地に伏した。

中心にいたメニケは、青白い小さな守りの結界に包まれていた為無事だった。

無論、それはメニケの発動したものではない。

エルフの誰かが施したものだ。


「っ……」


体から力が抜け、その場にへたり込むメニケ。

その震えは恐怖からか、屈辱からか…


森を包んでいた暗雲は消え、夜更けの月明かりが辺りを仄かに照らす。

それはエルフ達が闇の魔法に打ち勝ったことを意味し、メニケに敗北を知らしめる。


守りの結界が役目を終えて消えると共に、再びエルフ達がメニケを囲うようにして集まってきた。


「秘呪師メニケ。お前には魔王及び魔王軍に関して知りうる全ての事を話してもらう必要があります。ここで死なせるわけにはいきません」


「………」


メニケは項垂れたまま何も言わない。


里の最年長であるエルフ男性が静かに一歩前に出て、問いかける。


「秘呪師メニケ、何故この里を襲撃した。かつて魔王討伐に力添えをしたことへの報復か?それとも勇者探しの一環か?」


「そんなことはどうだっていい…私はただ、驕り高ぶる貴様らエルフに知らしめてやりたかっただけだ。ダークエルフの魔法使いこそが…私こそが、この世で最も優れた魔法使いであるということをな!」


顔を上げてそう答えたメニケの目には、反省の色など微塵もなかった。


「なんと傲慢な…お前がしていることは、危うい存在の力に頼り、力不足を補う為に他者から何かを奪っては補填しているだけではないか。それは、お前自身の力ではない」


「違う」


メニケはエルフの言葉をはっきりと否定し、よろめきながらおもむろに立ち上がる。


「力があるからこそ、凡人には扱いきれない存在の力を利用できる。力があるからこそ、多くのものを奪って己の糧とすることができる。全ては私の魔法が優れているからこそ成せた事…それは紛うことなく私の力だ!!」


相手のエルフを睨みつけながら、メニケは力強くそう答えた。


「なんと愚かで傲慢な…救いようのない魔女だ」


年長のエルフ男性が呆れていると、もう一人、気品あるエルフの女性も一歩前に出てメニケを告げる。


「秘呪師メニケ。夜が明け次第、お前を王都レイセントヴェールへ連行します。大聖堂にて魔王の力を浄化し、その後法のもとに裁きを受けてもらいます。お前のあらゆる非道は負の歴史として刻まれ、その身は封印監獄に収監されることでしょう」


「ふざけるな…!せっかく手に入れた能力(スキル)を失うなんて、冗談じゃない!!」


「お前が与えられた能力(それ)は、恐らく魔王の呪いでもあります。浄化を受ければ邪悪な力が体から消え、己の罪も少しは理解できるようになるやもしれません」


「嫌よ…絶対に嫌!!クソ…っ!!なんでこんなことに…」


メニケは敗北を受け入れられず、この事態を招いた原因全てに文句を言ってやりたかった。

しかし、オークは自身で燃やしてしまった。

トロールはエルフに討たれた。

リザードマンはそもそもこの場に来てすらいない。


今、ここに生きて残っている唯一の''原因''は…


険しい顔で辺りをギョロギョロと見回し、そして見つけた。

少し離れたところでエルフの女性に回復魔法を施してもらっている、ダークエルフの少女の姿を。


「小娘ェ…っ!!」


メニケが大きな声を出すと、少女は顔を上げる。


「お前…自分が何をしたか分かっているの?ダークエルフ族の魔法使いがエルフ族に勝利するという歴史的瞬間に泥を塗ったのよ!同盟か何か知らないけど、お前は今に後悔するわ。ダークエルフのことを良く思っている種族なんていないのだから。お前は他種族にいいように使われ、そして同族の魔法使いの邪魔をした…裏切り者の大罪人よ!!」


つらつらと恨み節をぶつけるメニケ。

少女はメニケを真っ直ぐと見返し、口を開く。


「例え、他種族に信頼してもらうことが難しくても、仲良くなることが叶わなくても…それでも私は、この世界の平和を守りたい。だから後悔はしない」


「平和平和と生温いことばかり…!闇の種族に生まれておきながら、その力の探求を放棄した半端者が!恥を知りなさい!!」


「平和を求めることと、闇の力の探求を放棄することは同義じゃない。ダークエルフは光と闇の狭間で多くを知り得ることができる唯一無二の種族。私はこれからも研鑽を積み、そしてその力を人々を守る為に使いたい。私達は邪悪な闇の種族ではなく、闇を恐れる者、光に疲弊した者、そのどちらにも寄り添うことができる…そんな、黄昏の種族だと思うから」


少女は迷いのない瞳でそう答えた。


「なんなの…?その気持ち悪いくらい甘ったるくてキラキラした思想は…まるで勇者の戯れ言みたいだわ」


「そう。これは勇者からの受け売り。私は彼の言葉に背中を押されて今、ここにいる」


「はっ…全ては勇者様のお導きってことかしら?馬鹿馬鹿しい!たかが十数年しか生きていないような人間に感化されて、恥ずかしくないのか!」


「恥ずかしくない。勇者はいつだってまっすぐで、優しくて、強くて、多くを救ってきた立派な人だ。太陽みたいに人々を照らして、勇気と希望を与えてくれる…だから私は影として、あの人の力になりたい」


「ははっ!下らない…まるで勇者に惚れ込んでるみたいだわ。何?好きなの?勇者様のこと」


メニケは少女の覚悟を冷やかすつもりでそう嘲笑った。

しかし…


「……」


「……ん?」


「……////」


少女は頬を染めながらもじもじしている!

どうやら本当に勇者のことが好きなようだ。


「……はぁ~~~~~!!?」


メニケは憤怒した。

打倒エルフという夢だけを胸に恋もせず遊びもせずひたすら勉学と修練に打ち込んできた彼女は、色恋にうつつを抜かす奴はこの世で最も間抜けな阿呆だと思っていた。

そのこの世で最も間抜けな阿呆に長年の野望を邪魔されたのだと思うと怒りが収まらなかった。


「あれだけ詭弁を並べておいて、結局は惚れた男の為にやってただけってこと!?私の長年の夢をよくもそんな下らない理由で妨害してくれたなバカ女!!」


怒りで興奮したメニケが少女に近づこうとすると…


「動くな!」


エルフ達に光の拘束を強められる。


「ぐっ…!!」


思わず足を止め、その場でふらつくメニケ。


回復を施していたエルフ女性が、ポン、と少女の両肩に手を置いて味方をするように寄り添う。


「下らなくなんかないわ。愛することはとても尊いことよ。お前の人を踏み躙る傲慢な夢とは比べ物にならないほどにね」


他のエルフ達も彼女に同調する。


「この子はとってもいい子なんだ。勇者のお嫁さんになることが夢で、最近は料理の勉強にも励んでいる」


「は?」


「勇者に栄養満天のおいしい手料理を作ってあげたくて頑張っているのよね」


「……うん////」


「し…知るかーーー!!どうでもいい!!心っっっ底どうでもいい!!もじもじすんな腹立つ!!」


怒りが、怒りが収まらない。

あまりにも納得がいかない。

こんな下らない連中に負けたのか…?

メニケは疲労も相まって強烈な眩暈に見舞われる。


「…皆、戦いで疲弊しているだろう。少し休むとしよう」


「そうですね…詳しい聴取は王都で行われることでしょうし、今無理に全てを聞き出す必要もないでしょう」


「秘呪師メニケ。己の罪を悔いながら、外で過ごす最後の夜を享受なさい」


「嫌…絶対嫌…こんなの絶対認めない…!こんな、こんな下らない形で私の悲願が…!こんなの何かの間違いよ…っ!!」


敗北した秘呪師の嘆きが、空に虚しく溶けていく…


◇◇◇


こうして、邪悪な野望がひとつ潰えた。


メニケの予想外だった出来事は、

エルフの里にダークエルフの暗器使い(アサシン)がいたこと。

魔王軍の魔物が幹部である自分の顔を全くもって覚えていなかったこと。

そして、リザードマン部隊が現れなかったこと。


どれかひとつでも欠けていれば、

魔王軍が敗北する未来はなかっただろう。


勇者の言葉と少女の想い。

日頃のコミュニケーション不足。

一匹のゴブリンが魔物の世界に持ち込んだ、とある''遊び''…

いくつもの要因が交差することで悪しき目論見は少しずつ軋み、擦れ、瓦解した。


それは、ほんの僅かな運命の綻び。

しかしその綻びから、この世界に新たな可能性の糸が紡がれる。

自身の起こした小さな風が、大いなる破滅の運命に嵐を齎(もたら)し始めていることを…

異世界より訪れし魂はまだ知らない――。

ダークエルフの少女の名前はヴィオラ

287歳(人間でいう14歳くらい)


ちなみにメニケは586歳

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