エルフの隠れ里襲撃作戦 -前編-
一方その頃話。前編、中編、後編あります。
2026/10/14追記:長台詞が多いのもあって敵対するキャラの台詞のみ間を空けるようにしていましたが、読みづらいので全て空けるようにしました。
古城でリザードマン達が群れのボスと異端児による熱い指スマ対決に夢中になっていた頃。
「はぁ~~~!?なんで来ないのよ~~~っ!!」
彼らが出撃予定の地…
西の大陸にある秘境『神秘の森』の上空で、一人の闇の魔法使いが人知れずブチ切れていた。
魔王軍幹部、秘呪師メニケである。
現在、メニケ率いる魔王軍は森の奥深くにあるエルフの隠れ里にて襲撃作戦の真っ最中。
ここまで予定していた手順を順調に実行し、次は追い打ち要員であるリザードマン部隊を召喚する手筈だったのだが…来ない。
魔方陣をチカ、チカと2回光らせても、
チカ!チカ!チカ!と3回強く光らせても、
誰一匹としてその姿を現さないではないか。
(ほんの少し出撃時間を早めたくらいで来られないことある!?こちとら魔力カツカツの中、転移の魔方陣を起動してやってんのに…!)
そう。
リザードマン部隊の呼び出しは予定よりも少し早かった。
若干の想定外が起きていた為、早めに呼んでおきたかったのだ。
何も別に、大きなトラブルが起きたわけではない。
優勢なのはどう見ても魔王軍だ。
里を守っていた複雑怪奇な結界は、禁術【絶対解錠命令】によって強制解除に成功。
また呪術【魔法形成妨害:虚無ノ嘆キ】を森一帯に展開し、エルフ達の誇りである魔法を大幅に弱体化することにも成功。
更に闇魔法【慟哭ノ空】によって闇の気配を纏った雨を降らせ、エルフ達の視界や動きは勿論、感知能力をも妨害。
メニケ自身は【防御+認識阻害結界】及び【浮遊魔法】を展開。
結界により誰に気取られることもなく、雨に濡れることもなく、この戦況を上空から見下ろしている。
作戦開始と同時に召喚したオーク部隊とトロール部隊は現在も交戦中。
地上では、弱体化を受けたエルフ達が魔物相手に必死の抵抗を続けている…
全てがメニケの想定通りではあったものの、しかし、よく見ると小さな違和感があった。
オークの数が徐々に減っているのだ。
エルフ達は剣を扱える者を中心とし、他の者は簡単な攻撃魔法と強化魔法なしの弓矢で援護に回るという連携を取って応戦している。
そうしてようやく、オークを一匹仕留められるかどうかだった。
しかも、エルフ達の敵はオークだけではない。
森の木よりも大きなトロール部隊が、踏みつけや丸太を棍棒のように振り回すといった規模の大きい攻撃を容赦なく繰り広げている。
今の彼らでは巨大なトロールを倒すことはできない為、攻撃をひたすら躱すしかない。
その上で、オークと戦う必要があるのだ。
まともに戦うことはほぼ不可能。
そのはずだった。
だが実際は動けるオークの数が徐々に減り続け、一方でエルフ達は未だ誰一人として倒れていない。
大して気にするようなことではないかもしれない。
自分が想定していたよりオーク部隊の質が悪かっただけかもしれない。
しかし、なんだか嫌な予感がした。
この状況をただ静観していてはいけないような気がしたのだ。
そこでメニケは予定を少し早めることにした。
トドメ用のリザードマン部隊をさっさと召喚して、無駄に抵抗するエルフ達を阿鼻叫喚させてやろうとついさきほど転移の魔方陣を起動したところだった。
なのにその肝心のリザードマン部隊が来ない。
全くもって来る気配がない。
(ダメだ来ない…これ以上起動していても魔力の無駄だ。少し時間を置いてからまた呼び出すか…あーもう!使えないわね!!)
メニケは苛立ちながら転移の魔方陣への魔力供給を一旦止めた。
大魔法をいくつも展開・維持している今の彼女にとって、無駄な魔力と集中力の消耗は何よりも抑えたいものだったからだ。
つまりは、とってもギリギリなのである。
けれど、ギリギリなのはメニケだけではない。
雨に打たれ、泥に足を取られ、魔物に追われ…
決して多くはないエルフの体力もまた、徐々に限界に近づいていた。
それでもエルフ達は屈することなく抗い続けている。
その瞳はまだ、希望の光を失っていない様子だった。
メニケはそれが物凄く癪に障る。
(あ~~腹立つ!なんなの!?あの''私達は絶対に負けたりしない!キリッ!''みたいな顔!もっと情けない顔しながらみっともなく逃げ回りなさいよ!!ほんっとエルフって何から何までムカつ…)
「見つけた!あそこだ!!」
「えっ!?」
エルフの数人が顔を見上げ、メニケがいる位置を的確に指差していた。
苛立ちながら魔方陣を光らせた際の乱れた魔力でも辿ったのだろうか。
姿までを認識できているわけではなさそうだが…
(ちょ…なんで!?【虚無ノ嘆キ】による妨害は維持できている…結界にも異常はない。認識阻害を貫通するほどの高度な探知魔法なんて、この術中でエルフが使えるはず…ん?)
先導する一人のエルフの手元をよく見ると、小さな球体の何かが光っていた。
球体の中には羅針盤が組み込まれており、その針はメニケがいる方角を、球体の内側にあるリングが傾くことで高さを指し示している。
それが古の魔導具『導きの羅針盤』であることは、長年魔法に携わってきたメニケにもすぐに分かった。
(ふん…妖精の加護を受けている魔導具か。また随分と古臭いガラクタを引っ張り出してきたものね)
メニケはエルフ達が自分を追えている理由が分かったことで、落ち着きを取り戻す。
現在メニケが発動している【虚無ノ嘆キ】は、あくまでも''魔法が形成される過程''に不純物を纏わりつかせることによって、魔法が正しく構築されることを妨害する呪術である。
その為、同質である闇の力や、元より他の力による干渉を受けにくいとされる妖精の力などには妨害効果が薄いという弱点があった。
けれど、メニケは自分が優位であることを疑わなかった。
(ささやかな妖精の贈り物が使えたからって…何?状況は何一つ変わっていないじゃない。導きの羅針盤にできることは''使用者が探しているものの在処を指し示す''…ただそれだけ。位置だけ分かったところで、私の姿が見えているわけでも、ヤツらの攻撃がここまで届くわけでもない。アイツらに出来ることなんて、何一つないわ!)
そう高を括っていたその時。
ザクッ!
「ん?」
自身の結界に違和感を感じ、振り向く。
そこには一本のナイフが刺さっていた。
己の限界ギリギリまで魔力と集中力を酷使し、あまつさえ魔導具を使用しているエルフ達に気を取られていたメニケは、死角から飛んできたそのナイフが結界に刺さるまで反応できなかった。
そして慢心もあった。
それが大抵の物理攻撃や魔法ならば十分防げるはずの高度な結界だったからだ。
闇魔法ではない定番の守護魔法だが、エルフ族に解析・分解されにくいようわざわざ闇の魔力を用いることで独自性も高めておいた。
今この場に、この結界を破れる者などいない。
そんな傲りがメニケの警戒心を疎かにした。
しかし、結界には確かにナイフが突き刺さっている。
魔術式が刻まれている、漆黒のナイフが。
「こ…これって…!!」
メニケは事態をすぐさま理解する。
だが対処するよりも先にそれは発動された。
「【相殺】」
ナイフを媒介とし、何者かの魔力がメニケの結界へ一気に注ぎ込まれる。
三角錐の結界は一瞬にして形を歪ませ…
パンッ!
とシャボン玉のように弾け、霧散した。
結界がなくなったことで、メニケの姿を誰もが認識できるようになる。
「見えた!やはりダークエルフの魔法使い…お前が秘呪師メニケだな!人の身でありながら魔王に下った悪魔め!」
「このような卑劣な真似をして、許されると思っているのですか!」
メニケは雨の中、怒りで全身を震わせた。
下にいるエルフ達の言葉など彼女の耳には入っていない。
それどころではない。
投げつけられたナイフに組み込まれていたのは、魔法に使用されているのと同質同量の魔力を注ぎ込むことで相殺する''魔法を打ち消す魔法''。
メニケの魔法を相殺できる性質の魔力はただひとつ…
「闇の魔力…っ!!」
すぐさまナイフに注がれた魔力の痕跡を辿り、己の結界を相殺した術者がいるであろう空中に向けて杖を構える。
「そこにいるのは''解って''いるわ。殺されたくなければ、大人しく姿を見せなさい!」
メニケが憤慨しながらそう言うと、魔方陣を足場に滞空していた術者は姿消しの術を解き、雨の中姿を現す。
それは、フード付きの黒いマントに身を包んでいた。
「顔も見せなさい!分かっているのよ…
お前が''ダークエルフ''だということは!!」
「………」
黒いマントの人物は、言われた通りにフードを脱いで顔を見せる。
パサ…
露になったその顔は、鋭さの中にも僅かなあどけなさが残る少女のそれだった。
アシンメトリーかつ複雑に編み込まれた髪は白く、瞳は血のように紅く、肌は闇に溶けるような灰色…
メニケの予想通り、少女はダークエルフだった。




