第17話 ライバルと指スマ
2026/1/2追記:一部修正・加筆しました。
リーダーのリザードマンに指スマの説明をしていると、部屋の奥にいたリザードマン達も一部様子を見に寄って来た。
彼らは指スマに興味があるというより、群れのリーダーがこれから何をするのかが気になっているようだ。
その視線のほとんどがルール説明をしている俺と親方ではなく、リーダーとウオタローの方に向いている。
ひと通り説明し終えたものの、リーダーのリザードマンはまだピンと来ないのかしかめっ面のままだった。
「……オマエは、指スマ、わかっているのカ」
リーダーのリザードマンがそう問うと、
「わかるよ~」
と軽く答えるウオタロー。
確かに、意外とルールを覚えるの早かったんだよな。
「…よかったら、もウ一度説明聞いときマす?」
「………いい。コイツが分かるなら、オレも分かル」
くぅ~!意地張るねぇ~~!
軽んじているとか侮っているというよりかは、張り合ってちょっと無理しているのが声音から伝わってくる…ような気がする。
本当にライバル視してるんだなぁ…
他のリザードマン達はウオタローのことをマイペースでどんくさいやつくらいにしか思ってなさそうだったけど(差し入れと指スマの強さで見直されたけど!)、ある意味コイツは対抗意識を持つほどすごいやつだと認めているんだな。
親方に煽られたのもあるとはいえ、指スマ対決に乗ってきたところを見ると単に魔法の力にだけ対抗心を燃やしているわけでもなさそうだ。
肝が据わってたり、興味があることには結構頭が回ったり、一度決めたことは曲げなかったり…ウオタローって意外と大物なとこあるもんな。
そういうところがなんというか、余裕があるように見えてライバル心を刺激してしまうのだろうか。
「ドチラガ、サキ、ヤル?」
「コイツからで、イイ」
なんか先攻譲ってやった風な顔してるけど、まだルールがあんま分かってないから様子見したいだけなんじゃないの~?
なんてことを口に出した暁には真っ二つにされそうなので言えないのである。俺は無力。
「わかった~!じゃ、始めるよぉ~」
ウオタローがそう言って両手を構えると、リーダーのリザードマンも同じようにした。
本当にやるんだな…謎の緊張感が張り詰める。
たくさんのリザードマン達に見守られながら、群れのリーダーとウオタローによる1v1の指スマ対決が今、始まろうとしていた。
ということで…
――――――――――
d レッツ、指スマ!b
――――――――――
(表記説明:d…左親指 b…右親指 o…ノー親指)
―ウオタローのターン―
「いっせーのぉ、''よん''!」
db oo…計2ユビ
「ん~、よんじゃないねぇ」
「……」
ウオタローは初手最大値の宣言か。
開幕からなかなか強気だ。
この妙な緊張感をものともしないマイペースさが頼もしい。気にしてないのか、気付いてすらいないのかはまぁ置いておこう。
相手のリザードマンは相変わらずしかめっ面だ。
緊張感があるというか…普通に緊張してない?大丈夫かな。
―リザードマンボスのターン―
「いっせーノ、''サン''」
db db…計4ユビ
「わ~ドキドキする~」
「……」
相手のリザードマンも一応様になってるな。
ちゃんと指の上げ下げもしているし、ゲームの基本はなんとなく理解できてるっぽい。まだちょっとぎこちなくはあるけども。
ギャラリーもますます増えて来た。なんなら全員見に来てないか?
大部屋の一角にリザードマン達が漏れなく集合し、ぎゅうぎゅうになりながら観戦している。
―ウオタローのターン―
「いっせーのぉ、''に''!」
oo db…計2ユビ【ウオタロー Hit!】
「なっ…」
「やった~!」
「オレの、指ダケ、使って…」
「えへへ~」
ウオタローが一歩リードした!
あえて相手の指だけでのヒットを狙って、しかも実際に当てるとは…やるな~。
これがかなり挑発的な一手であることは相手のリザードマンにも伝わっているようだ。
……怒って殴りかかったりしないよな?
「ノロマ、やっぱ、指スマ強いナ…」
「ボ、ボス負けない…?」
「ワカラナイ…」
元から指スマしに集まっていたリザードマン達は、ルールを理解できているのでウオタロー優勢の勝負展開に少しざわざわし始める。
「………」
それがリーダーのリザードマンの目に火をつけた…ように見えた。
―リザードマンボスのターン―
「いっせーノ…''イチ''」
o ob…計1ユビ【リザードマンボス Hit!】
「ヨシ…っ!」
「あちゃ~、上手だねぇ~。でも負けないよ~」
「フン…かかって来イ」
さっきのウオタローとは逆で、自分の指だけで堅実にヒットさせてきたか。アイツもなかなかやるじゃないか。
暴力に走るんじゃないかと疑ってごめん。
ちゃんとルールに乗っ取って、ゲーム内で反撃できるやつだった。
いい勝負になってきたぞ…!
―ウオタローのターン―
「いっせーのぉ、''に''!」
o o…計0ユビ
「えーっと、これはぁ…」
「0ダね。誰の指も上がっテない状態は、0」
「そうだ、ぜろだぁ」
「……ゼロ」
村のゴブリンもそうだったけど、やっぱり魔物に0の概念はちょっと難しいらしい。
''ない''ことをわざわざ数字でカウントするのは人間くらいだもんな。
とりあえず、誰の親指も上がってない=0って覚えるくらいでいいだろう。
―リザードマンボスのターン―
「いっせーノ…''ゼロ''」
b o…計1ユビ
「わぁ~あぶな~い!指上げてよかった~」
「チッ…」
おぉ…覚えたばかりの''0''を早速使ってきたぞ。
やっぱ群れのリーダーだけあって賢いんだな。
相手は本気で勝ちに来ている…頑張れウオタロー!
―ウオタローのターン―
「いっせーのぉ、''ぜろ''~!」
o b…計1ユビ
「フーッ…」
「むぅ~…」
相手の言った数字をあえてもう一度宣言する戦法か。意外と刺さったりするんだよな。
防ぎはしたものの、相手のリザードマンもちょっとヒヤリとしたみたいだ。
勝負の緊張感が増していく…!
―リザードマンボスのターン―
「いっせーノ…''ニ''!」
o b…計1ユビ
「ふ~~…」
「っ……」
こっちまで手に汗握ってきた…!
皆の視線がリーダーとウオタローの手元に集中している!
……ん?今、リザードマン達の後ろで何かが
チカ!チカ!チカ!
と、3回ほど光ったような…まぁ気のせいか。
―ウオタローのターン―
「いっせーのぉ…''ぜろ''!」
o b…計1ユビ
「ん~おしいぃ~~…」
ウオタローは尻尾でタシタシと床を叩く。
0の畳がけとは攻めるな~!
魚を釣る時もそうだけど、やると決めた時のウオタローは意外とガンガン行くスタイルなんだよな。
リーダーのリザードマンは何も言わない。
その目は鋭く、真剣そのものだが、口角は少し上がっている。
まるで、この勝負を楽しんでいるかのように見えた。
―リザードマンボスのターン―
「いっせーノ…''イチ''!」
b o
「あ!」
「…ッ!」
…計1ユビ【リザードマンボス Hit!】
☆リザードマンボスWin!☆
き…決まったーー!!
ウオタローに仕掛けられた''相手の指だけでヒットさせる''戦法返しで決めたー!これは鮮やかな勝利だ!
「ヒットしちゃったぁ~~」
「オ…オレの勝ち…オレの勝ちダッ!」
残念そうにするウオタローと、興奮した様子で拳を握りしめて小さくガッツポーズをするリーダーのリザードマン。
その様子から、群れの全員が勝負の結果を理解する。
「ボス、勝ち…!?」
「ボス、強い!ボス、サイキョー!」
「オレタチのボス、強イ!強イ!」
一斉に沸き立つリザードマン達。
自分達がついていくボスの勝利に、共鳴するように歓喜した。
「最後のやつ、ボクがやったやつだよねぇ?やり返されちゃったよ~!すごかった~!」
勝者を素直に称え、はしゃぎさえするウオタロー。
あれが意図的な戦術返しだということがちゃんとわかっていたようだ。
「フン…オマエにできることは、オレにもできル」
ゲーム開始時に緊張していたとは思えないほど余裕ぶったどや顔である。
けど確かにすごかった。
正直あれにはウオタローを応援していた俺でさえ感心させられた。
初めてであそこまでちゃんと心理戦や戦術ありきの指スマをできる魔物はなかなかいない。
ゲーム慣れはしていなくても勝負には慣れている感じがして、見ごたえのあるアツい試合だった。こればっかりは認めざるを得ない。
「次は負けないよ~!」
ウオタローがそう意気込んで見せると、リーダーのリザードマンは一瞬、驚いたように目を見開いた。
「……フン。また、相手してやってもイイ」
なんか…嬉しそ~~~。
めっちゃ嬉しそ~~~~~。
よくわかんないけど、アレなのかな。
ウオタローの方から何かを挑むことが珍しいというか、なんなら初めてなのかな。
そんでそれが嬉しいのかな。
コイツって案外チョロいのかな。
「フッ…」
そして何故か後方腕組み親方も嬉しそうである。
アイツに指スマを焚き付けたのは、こんな風に盛り上がるってわかっていたからなのだろうか。
親方は''平和的で楽しいこと''を重んじているみたいだし、他の魔物にもそういったものを広めていきたいのかもしれないな。
なんてことを俺がぼんやり考えていると、リーダーのリザードマンがおもむろにキョロキョロし始める。
集まっているメンバー全体をチェックしているようだが…
「……オマエラ、全員指スマ、見てたのカ?魔方陣、見張り、どうしタ」
「ア」
恐らく見張り役だったであろう二匹のリザードマンがビクッとし、盛り上がっていた他のメンバーもピタッと静まり返る。
そして一同に振り返り、部屋の奥にある魔方陣へ目を向けた。
けれど、魔方陣は未だ光っていなかった。
「ホッ…出撃、マダ」
「魔方陣、マダ」
「……なら、イイ」
リザードマン達はそのままぞろぞろと魔方陣の前まで向かい、武器を構えてその場に待機した。
遊びに興じて盛り上がっていた魔物達のほころんだ顔が、あっという間に恐ろしい魔王軍の顔つきに戻ってしまった。
そうだ…あの和気あいあいとした時間はずっと続くものじゃない。
彼らは出撃する為にこの部屋で待機している魔王軍の戦士なのだ。
そして、その時はもうすぐそこまで迫っている…
しかし、それから数時間待っても魔方陣が光ることはなかった。
「出撃、マダ…?」
「夜、出撃、言われた。もう、メッチャ夜」
「オソイ!オソイ!」
一部のリザードマン達は苛立ちから若干殺気立ち始める。
「いっせーノ…イチ」
「いっせーノ…ニッ」
中には呑気に指スマをしながら待つ者もちらほら。そしてそれに付き合わされている俺達。
「オマエラ、ズルいぞ!」
「だって、出撃、マダ」
ウオタローとボスの真剣勝負に影響されたのか、皆指スマ熱が妙に高いみたいだ。
結局、交代で魔方陣を見張りつつ、それ以外のリザードマンは大半が指スマで盛り上がりながら出撃の時を待つこととなった。
流石にリーダーのリザードマンは参加してこなかったが、ピリピリした雰囲気は少し薄れたように思う。そうだよ、ボスなんだからどっしり構えとけ。もうウオタローに乱暴すんなよ。
待機部屋の空気が、再び騒がしくも平和的なものになっていく。なんだか修学旅行の宿部屋みたいだ。
やっぱりみんなで遊ぶっていいよね。
このまま出撃なしとかになったらもっといいんだけど…流石にそれは無理か。
少しでもこの時間が続けばいいな…
……それはそうと、さっきリザードマン達の後ろでチカチカと光った気がしたのってちょうど魔法陣があるところだな。でも今光ってないってことは、ただの誤作動だったのかな?
魔方陣の誤作動とか怖いな~。
最近は慣れてきちゃったとこあるけど、やっぱワープってちょっと怖いよな。
ワープ中に誤作動なんて起きた日には、足だけ残して上半身が向こう側になんてことも…嫌っ!!怖っ!!
まぁ、それでも使っていくしかないんだけどさ…
何はともあれ、みんなが誤作動中?の魔方陣に乗らなくてよかったよかった。




