第16話 リザードマンと指スマ
指スマ回です。
ウオタローが釣ったすごくおっきい魚の差し入れは、あっという間に骨だけとなった。なんなら骨もちょっと食われていた。魔物ってワイルド。
リザードマン達の楽しいお食事会が落ち着いた頃を見計らって、俺と親方も盾を持って大部屋に入っていく。
「あ、あノ~、盾持ってきマした~!盾がない方はコチラの方まで取りに来ていたダけると助かりま~ス」
「盾ェ…?」
「お、キタ!キタ!」
「オレ、盾ない!よこせ!」
リザードマンが数匹、盾を受け取りに集まってきた。
ゴブリンにとっては大きめだった小石の盾も、リザードマンが持つと少し小さめに見える。
これからはもうひとまわり大きめに作った方がいいかもしれない。
「ゴブリン、なかなか、やる。これで矢、防げる」
「ノロマも、なかなか、やる。海の魚、デカかった」
「海の魚、デカかった!ウマかった!」
そう声をかけてきたのは、恐らく前にロビーで声をかけてきた三匹組だ。
何故''恐らく''なのかというと、俺にはリザードマンの見分けがほとんどつかないからである。
でも会話の内容的にこの間やり取りした三匹組で合っていると思う。
「タリタナラ、ヨカッタ」
「ゲッゲッ!ゲッゲッ!海の魚、おいしー!」
クールな反応の親方と、仲間に喜んでもらえて自分も喜ぶウオタロー。
よかったなぁウオタロー…ノロマ呼びのままなのがちょっと気になるけど。
もうあだ名みたいになっちゃってるのかな。
本人が気にしてないならいいんだけどさ。
俺と親方もちょっとだけ認められたようだ。他の魔物と親睦を深められるのは悪い気がしない。
…でも、''出撃って具体的にはどこに何しに行くんですか?''みたいな世間話をする気にはなれないな。
正直聞きたくないし。
部屋には和気あいあいとしている戦士もいれば、既に殺気立ち始めている戦士もいる。
「マダか!?マダだ…マダか!?マダだ…マダか!?マダだ…」
部屋の奥では、落ち着きのないリザードマンが武器と盾を構えながら何かをチラッと見てはウロウロ、チラッと見てはウロウロしていた。
その視線の先に目を凝らすと、床に大きな魔方陣が描かれているのが見えた。
けれど俺達が普段使うものと違って光っていない。
夜になったらあれが光って、出撃ポイントにワープできるようになる…ってことなのかな。
「みんなヒマなのぉ?」
「まだチョット、時間あるからナ」
ウオタローの問いに三匹組の一匹がそう答える。
「それなら釣りしようよぉ!」
「オレタチ、待機中!」
「待機中、はなれる、バカ」
「ノロマみたいに、はぐれる」
「そっかぁ~…」
猛反対を食らうウオタロー。流石にそれはそう。
…ウオタローが魔王軍時代に迷子になって怒られたって話、単にみんなより足が遅いってだけが理由じゃなさそうだな。
「…あ!じゃあ指スマしよ~?」
「ユビスマァ…?」
あ~確かに、指スマってちょっとした待ち時間にやる遊びではあるよね。
全校集会が始まる前とか遠足のバスの移動中とか…めっちゃやったな~。懐かしい。
でも魔王軍が出撃前にやるものではないと思うぞウオタロー。また怒られちゃうぞ。
「指を上げたり上げなかったりしてねぇ、勝負ができるんだよ~」
「勝負?指ダケで?」
「ドウやる?指、勝負」
え、食いついてる…?
「えっとねぇ…こうして、こう!いっせーので、こう!」
ウオタローが指を動かして見せるものの、全く説明になっていない。
ゲームのルールを一から説明するのって結構難しいよねぇ。
「あー、オレとウオタローで実際にやりながらみんなに説明しテみよッか」
「わかった~」
ということで、俺とウオタローで実演を交えながら指スマの説明をすることに。
すると三匹組の他にもリザードマンが十匹ほど集まってきて、俺達を囲むようにして説明を聞いている。
知り合いの仲間とはいえ、魔王軍の魔物に囲まれるのちょっと怖いんですけど…リザードマンってゴブリンよりデカイし…
でもみんな真剣に説明を聞いているみたいだ。
魔物って''勝負''に目がないのかな?
そしてひと通り説明し終わると…
話を聞いていたリザードマン達は一同に首をかしげた。
「グゲー…よく、ワカラナイ」
「ユビスマ、むずかしイ」
「オレ、はやく、暴れたい」
まぁ、そうなるよな…
やっぱ指遊びは自分でやってみないとルールも面白さもピンと来ないもんだ。
けれどめげないウオタロー。
「やってみたらわかるよ~いっかいやってみよ~」
すると…
「……オレ、やる」
「オ、オレも」
「んじゃ、オレも!」
例の三匹組は指スマをやってみる気になったようだ。マジか。
「やった~!やろ~やろ~!」
そして、ウオタローとリザードマン三匹組による指スマ四匹対戦が始まるのだった。
ということで…
――――――――――
d レッツ、指スマ!b
――――――――――
(表記説明:d…左親指 b…右親指 o…ノー親指)
―ウオタローのターン―
「いっせーのぉ、''よん''!」
db db
db db …計8ユビ
「みんなおそろいだ~」
「コレ、どうなってル?」
「次、オレ!オレ!」
ちゃんとゲームとして成立するかな…?
まぁやってる本人達が楽しければそれで十分だけどさ。
―リザードマンAのターン―
「いっせーの、''ハチ''!」
db db
db db …計8ユビ【リザードマンA Hit!】
「グケッ!グケケッ!オレ!勝チ!」
「まだ勝ちじゃないよ~。にかい当てたらだよ~」
「そうだっタ…でもイチバン、勝ってル!」
「グケ~…?」
今数を当てたリザードマンは既にルールを理解し始めているようだ。みんな、指を下げることもしないとゲームが簡単になっちゃうぞ。頑張れ!
―リザードマンBのターン―
「いっせーの…''ハチ''!」
db b
db db …計7ユビ
「ン!?…ア゛!!」
「グケケケッ!オレ、いっこ勝ってル!指、ハチない!」
「指がいっぱいあるとむずかしいねぇ~」
「はやく!オレ!オレの番!」
初歩的なミスはあるものの、数自体はそれなりに理解できているようだ。流石魔王軍。
ゴブリン村のみんなは指スマやりたさでやっと4まで数えられるようになった人も多かったから、まだ1対1しかできなかったんだよなぁ…みんな元気かな。
―リザードマンCのターン―
「いっせーの…''ロク''!」
oo b
db db …計5ユビ
「どうダ!?」
「イチ、ニ、サン、ヨン、ゴ…''ゴ''!」
「グゲー!もうイッカイ!いっせーの…」
「キシャー!オマエ、後!」
「グゲーーー!!」
ちゃんとゲームっぽくなってるじゃないか。
順番の概念も分かってるみたいだし、群れで行動する魔物は案外ルールを守れるやつが多いのかも。
―ウオタローのターン―
「いっせーのぉ、''よん''!」
oo o
db db …計4ユビ【ウオタローHit!】
「しまっタ!」
「んな゛ーー!?」
「やったぁ!ボクもひとつ勝ちぃ~」
「ノ、ノロマ~~~!」
「グケケッ!オマエ、ノロマよりノロマ!」
いいぞウオタロー!いい勝負になってきた!
周りで見ているリザードマン達も、手をひとつ引っ込める=ソイツが一歩有利になったってことは理解しているようで、ざわざわしながら観戦している。
―リザードマンAのターン―
「いっせーの…''ロク''!」
b b
db oo …計4ユビ
「んふふ~」
「グゲ~…」
「グケケッ!ケケッ!」
いち早くルールを理解していたリザードマンは、最大値を言っていく戦法のようだ。
だが他のリザードマンも指を下げることを覚え始めたから通用しなくなってきたな。
◇◇◇
その後も試合はしばらく続き…
◇◇◇
―ウオタローのターン―
「いっせーのぉ、''に~''!」
b o
ob o …計2ユビ【ウオタロー Hit!】
☆ウオタローWin!☆
ウオタローの勝利によって、このゲームは一区切りついた。
「ア゛ーーッ!?」
「やったぁ~!ボクの勝ちぃ~!」
「ノロマに負けた~!?」
「もうイッカイ!もうイッカイ!」
「いいよぉ~」
今一緒に遊んだリザードマン達は、指スマのルールをほとんど理解できたようだ。
「オレ、ユビスマ、わかったカモ…」
「やル?やル?」
観戦していたリザードマン達の中からも指スマをやってみる者が現れだした。
俺と親方はちょっとした解説役みたいな感じで、リザードマン達がルールを理解するのを手伝いながら観戦していた。
これが意外と盛り上がり、気付けば部屋にいたリザードマンの三分の一が指スマに興じることに。
しばらく遊んでいると…
「オマエら、さっきから、なにしてル」
「あ」
部屋の奥から様子を伺っていたリーダーのリザードマンがこっちに歩いてきた。流石にちょっと騒ぎすぎたか。
そしてその目はすぐにウオタローを捉える。
「…オレタチ、出撃前。ノロマ、失せロ」
相変わらず感じ悪ぃ~…
でも改めて近くで見ると、やっぱり他のリザードマンより迫力あるな。
威圧感はもちろんだけど、なんとなくカリスマ性もある感じがする。感じ悪ぃけど。
「ボス!ノロマ、倒してくれ!」
「……倒す?」
リーダーのリザードマンがピクリと反応する。
「みんな、ノロマに負けた!」
「は?負けた…?何、した?」
「指スマしてただけだよぉ~」
「ユビ…スマ…?」
謎のワードに困惑するリーダーのリザードマン。そりゃそうだ。
「いっしょにやる~?指を使って戦うんだよぉ~」
「…オマエが、オレに…戦い、挑むのカ」
リザードマンは意外にも、一瞬考えたように見えたが…
「……くだらない。魔法使わないなら、意味、ナイ」
やはり却下された。
まぁ、そうだよな。
このリザードマンは魔法を使うウオタロー…''本気のウオタロー''と戦って勝ちたいんだろうし、いくらなんでも指スマはお遊びすぎる。
「指スマハ、アイテノコウドウ、ヨムチカラト、ココゾトイウトキノ、勝負運、ヒツヨウ」
ん…?どうした親方?
急に後方腕組みバトル漫画解説キャラみたいな感じで語り始めて…
「指スマ、武力、魔力、カンケイナイ。デモ、カシコサ、キヨウサ、ソレト勝負ノ運…キソウコトニナルホンモノノ勝負」
指スマってそんな大層なものだったの…?
「本物の、勝負…」
「マァ、アタマワルイヤツニハ、デキナイ勝負。オマエガ、ウオタローヨリ、アタマワルクテ、ブキヨウデ、勝負ノ運ナイヤツナラ、ヤラナクテモイイ」
親方ぁ~~!?
どうしたの!?急にすごい煽るじゃん!
なんで!?なんでそんな指スマを焚き付けるの!?
…指スマを焚き付けるって何!?
コイツを怒らせたら俺達、また危険な目に…!
「……ドウ、戦う」
え……やるの?
「ゴブリン、指スマ知ってル」
「コイツ、くわしい」
「え」
他のリザードマン達から説明役に指名されてしまう俺。
リーダーのリザードマンにギロリと睨まれる。
今にも叩き斬られそうですごく怖い。
「お、親方ァ…」
「オレト、コイツデ、指スマ、ミセル。オボエロ」
「……はやくシロ」
というわけで、俺と親方で実際にやって見せながら指スマの説明をすることに。
リーダーのリザードマンはしかめっ面をしながらも説明を黙って聞いている。
え、なにコレ。
本当に指スマすんの…?




