第15話 おっきい魚
※2026/2/13追記:盾作りに関する内容を一部変更しました。
俺と親方は島に着くと、いつものように浜辺近くの森にある作業場に向かった。
作業場といっても斬り倒した丸太が数本あって、そこに削った木の盾が立て掛けてあったり、集めたスライム土を溜めとく浅めの穴が地面に掘ってあったり…といった簡易的なものだ。
すぐに浜辺に出られるので、磯場にいるウオタローの様子も確認しやすい。
先に島に来ていたウオタローは、いつもより尻尾を深く海に浸けてユラユラと揺らしながら魚が寄ってくるのを待っているようだ。
海に落ちちゃいそうでちょっと心配になる…
というか、冷静に考えたらほぼ毎日魚が釣れて、しかもまあまあな頻度で''おっきな魚''がヒットするって結構危ない場所なんじゃないか?
この辺の海にはリザードマンの尻尾を食おうと陸にまで上がってくるような魚がうようよ泳いでるってことだろ?ちょっとした魔境じゃねーか。
…でも、そのおかげで人間がいないのかな。
海経由でここに来るのは大変そうだし、それこそインディセ様みたいに空でも飛べるか、俺達みたいにワープのツテでもないと立ち入ることは難しいだろう。
そう考えると、ここは魔物の楽園とも言えるのかもしれない。
……そう。
俺は今、魔物だ。
魔物の世界の恩恵を受けて生きていて、
仲間はみんな魔物で、
今やっているのは、魔王軍が身を守りながら戦う為の盾作りで、
魔物が身を守れたら、その分長く戦えて、
長く…人間と戦うことになるのかもしれなくて…
俺は…
人間の敵にならないといけないのかな…
木の盾に樹液入りのスライム土を盛っては、いい感じの小石を敷き詰めていく。
ウオタローの仲間を守れるようになるべくしっかりと。
だって、それしかできることがない。
争いを止めたり、争いと関係のないところに逃げたりすることもできない。
ちっぽけなゴブリンである俺にできることといえば、自分が知ってる人と、そいつが大切にしているものの力になることだけだ。
仕事しないでいたら魔王軍に何されるかわからないしな。
人間にとって、なんならこの世界にとって、今やっていることがよくないことだったとしても…抗えるような力は持っていないんだ。
魔物としてこの世に生まれたからにはもう割り切るしかない。
だってそうだろ?
俺は勇者でも魔王でもない、ただ元人間ってだけのゴブリンなんだから…
俺達はそれぞれの仕事をして、朝を迎える前に島の洞窟で眠った。
ウオタローは遅くまで釣りをしていたが、今日はあまり釣れなかったみたいだ。
仲間の滞在中におっきな魚が釣れるといいな。
翌日。
昨日に引き続き、俺と親方は小石の盾作りに励む。
ウオタローは相変わらず海に尻尾を浸けて揺らしている。
その横にはいくつか氷の塊…ではなく、魔法で氷漬けにした小さい魚が数匹転がっている。
しばらく釣りを続けていたい時は、ああやって釣れた魚を凍らせて後でまとめて城に持っていくのがウオタロー流だ。
それなりに数は釣れていたものの、その日は納得のいく''おっきい魚''は来なかったようだ。
更に翌日。
俺達が寝ている間にウオタローは一度城に行ったみたいだ。
けれど大きいサイズの魚は釣れておらず、普段通り納品しただけのようでまだまだ大物を狙っての釣りに没頭している。
その日はメシの時間になってもずっと海から離れなかった。
俺と親方が浜辺で焼いた蟹を差し入れとして持っていくと、ウオタローは尻尾を海に浸けたままバリバリとそれを食べた。
「おいし~!これでもっと釣りがんばれるよ~」
「もっと頑張ルの…?そろそロ寝ない?もうすグ朝だよ」
「ねなーい」
「そ、そウ…ほどほどにね?」
「わかった~」
大丈夫かな…と思いつつ手伝えることもないので、明日に備えて早めに寝た。
そして、翌日。
リザードマン部隊に盾を納品する日。
ドゴォォォォン…!!
「んァ…!?」
雷の轟く音が響き、洞窟で寝ていた俺と親方は目を覚ます。
外はまだ昼…魔物的には早朝同然の時間だ。
「ズイブン、ツヨイ魔法、ウッタミタイダ」
「でっかい魚が釣れたノかな…!」
磯場に様子を見に行くと…
5mはあるであろう、マグロみたいだけど口の中にピラニアみたいな歯がびっしり詰まってる魚が打ち上がっていた。
「デカッ!!」
「ゲッゲッ!すごくおっきいの釣れた~!」
ウオタローはとても嬉しそうに左右に跳び跳ねている。
「よかっタなぁ~ウオタロー!アイツらきっとビックリするぞ!」
「ビックリする~?やった~!みんなのところに持っていこ~~!」
すごくおっきい魚の厚めな鱗をゴリゴリと剥がし始めるウオタロー。
「ウオタロー、ソノウロコ、モラウ」
「わかった~」
親方がでかい葉を何枚か重ねて持ってきて、そこに鱗を集めていく。
この魚の鱗をメインに海の盾が何枚か作れそうだ。
それが終わったら、ウオタローは魚を、俺達は盾をリザードマンのもとへ持っていくため帰りの魔方陣を目指す。
ウオタローは魚の腹を少し凍らせて滑りやすくし、尾を掴んでズルズルと引きずっていく。
器用なのか豪快なのかよくわからないのがウオタロー流なのである。
俺と親方は何重にも編んだ太めのツタを使って、小石の盾を体にくくりつけて一枚ずつ背負う。
野生の魔物に対応できるよう親方は片手に槍、片手に小石の盾を一枚持つ。
で、残りの七枚は積み上げて…戦えない俺が気合いで運ぶってわけ。ばちくそ重~~い!
とまぁ、そんなこんなで俺達は三匹揃って城に帰還した。
魔方陣がある部屋の出入り口をギリギリ通り抜け、リザードマン部隊が待機しているという大部屋へ向かう。
結構早い時間帯だけど、起きてるかな…?
親方がそっと、大部屋の扉を開いてみると…
ハグッハグッハグ…
ブチッ!ガツガツ…ブチッ!
わぁ~…ちょうど出撃前のお食事中みたぁ~い!
赤いリザードマン達がざっと50匹はひしめきながら、生の肉やキノコ、果実なんかをカワウソもビックリの食べ方でもりもりあぐあぐ食らっていた。
俺が人間だったら腰を抜かして泣き叫んでいたことだろう。でもゴブリンだからギリギリ耐えられた。
「みんなぁ~!おっきい魚釣ったから、これも食べて~!」
そこにウキウキで入っていくウオタロー。強い。
「グゲ、魚はいらな……デカァ!?」
「魚!?デカァ!?魚!?」
部屋にいるリザードマン達の大半が、ウオタローの周りにぞろぞろと集まってくる。
「海の魚だよ~~」
「海の魚、デカァ…」
「ノロマ、釣った、魚…?」
「釣ったよ~ボク釣り得意だからぁ~」
「釣りスゲー…」
「デカイ魚食う!食う!」
「オレも!オレも!」
「食べて食べて~!」
ウオタローが魚を差し出すと、周りにいたリザードマン達が一斉に食らいつく。
ガツガツガツガツ…!
ブチッ!ハグッハグッ…ブチッ!
なんということだろう。あっという間に大部屋が魚の血まみれパーティーである。
……ま、魔物だしいっか!
ウオタローが頑張って釣ったでっかい魚は、仲間のリザードマン達に気に入ってもらえたようだ。
「海の魚、ウマイ!」
「ノロマ、おてがら」
「ゲッ!ゲッ!ゲッ!」
ウオタローは嬉しそうにまた左右に跳ねている。
よかったなぁ…頑張って釣った甲斐があったなぁ…
と、扉に隠れる形で見守る俺と親方。
群れの親睦が深まっているところに入っていくのは少し気まずいのである。
部屋の奥にいる、あの片目に傷跡があるリザードマン…リーダーのリザードマンは、肉を齧りながらウオタロー達の様子をただじっと見ていた。
…アイツも海の魚を食いたいんじゃないか?
意地張らなければいいのに。




