第14話 フクザツなキモチ
2026/2/13追記:盾作りに関する内容を一部変更しました。
赤いリザードマンに''ノロマ''と呼ばれたウオタローは…
「わ~!来てくれたのぉ~?」
と、そのワード自体は全く気にしていない様子でソイツのもとへ駆け寄っていった。
仲間が会いに来てくれたことに喜んでいるようだ。
…仲間なんだよな?
向こうは随分と機嫌が悪そうだけど…
「オマエのため、チガウ。リザードマン部隊、出撃命令、キタ」
「そっかぁ~…あ、群れのみんなも来てるよねぇ?おなかすいてるかなぁ?さっきおっきい魚おいてきたから、みんなに食べてほしいなぁ~!」
ウオタローはニコニコしながら赤いリザードマンにそう言った。
「まだ魚、とってるのカ」
「?うん。いっぱいとってるよ~」
「…ノンキだな、オマエは」
「ん~?」
「…!」
次の瞬間、赤いリザードマンが手に持っていた槍の切っ先をウオタローの喉元にいきなり突きつけた。
それを防ごうと親方も槍を構えようとしたが、間に合わなかった。
親方がどんくさいんじゃない。
このリザードマンの動きが速すぎたのだ。
「なッ…!?」
「あわわ…あぶないよぉ~」
刃を向けられているウオタローは下手に動けない。
「魔法、使えばイイ」
「仲間に魔法は使えないよぉ…」
「お、おいやメろって…!」
「キシャーーーー!!」
「ヒっ…!?」
赤いリザードマンの威嚇。
それは明らかに殺気が込められたもので、これ以上近づいたら命はないのだと俺の魔物肌にしかと伝わってくる。
すぐに親方が俺の腕を引っ張って自分の後ろに放り投げた。
そのまま俺を庇うように前に立ち、槍を構える。
親方からもやんわりと殺気を感じる…
「ゴブリン、引っ込んでロ…!」
「オマエ、ナニガシタイ」
「ゴブリン、関係ナイ!!」
「やめてよ~!ケンカしないで~!」
ウオタローが氷の魔法で親方と赤いリザードマンの間に壁を作り、睨み合いを遮った。
「ッ…」
こちらから赤いリザードマンとウオタローの様子は見えない。
しかし、殺気が少しずつ萎んでいくのを感じた。
「……オマエは、ずっとノロマだ。そうやって一生、弱い魔物となかよく、弱いままでイロ…!」
ベチッ!という鈍い音が響く。
「あたっ」というウオタローの声もした。
「あ!おイやめろ!今叩いたダろ!」
「弱い方のゴブリン、弱いくせにウルサイ…次ウルさかったら、コロス」
赤いリザードマンはそう言い捨て、大層不機嫌そうに部屋を出ていった。
マジで何がしたかったんだよアイツ…
「ハァ…」
親方がため息を漏らしながら武器を下ろす。
「あ…すんまセん親方。オレが下手に騒いだせいで戦闘になりカケましたよネ……」
「ン…ゴブリン、ソンナニツヨクナイ。オマエ、トクニツヨクナイ。キヲツケロ」
「はイ…」
俺が他の魔物に目をつけられたら親方が戦うことになっちゃうんだ。
ここは強い魔物だらけなんだし、言動には気をつけないとな…申し訳ない。
「ふたりともだいじょうぶ~?」
ウオタローが氷の壁の横からひょこっと顔を出す。
「あぁ…ウオタローこそ大丈夫カ?」
「うん、大丈夫だよ~。尻尾でベチッてされただけぇ~」
「それは大丈夫って言うのカ?全く…なんだったンだよアイツ」
「仲間だよ~」
「いヤ、仲間なら武器ヲ向けたリしないだろ…」
「ん~…むかしからああなんだよぉ。勝負しろって言ったり、痛いことして、痛いのが嫌だったら魔法を使えって怒ったりするんだぁ…でも一番おはなししてくれるんだよぉ~」
「お話っテ…」
変な絡まれ方してるようにしか見えなかったけど…
「……アレハ、リーダーカ」
「うん。みんなのリーダーになったみたい。とっても速くて強いんだよぉ~!」
「ナルホド…」
「?…群れノリーダーだカら、魔王軍として戦わナいウオタローに苛立ちを覚えテいるってことですか?でも自分から抜けたンじゃなくて、クビになったんだヨな?」
「クビになった~」
「アイツハ、ウオタローヲ、ライバルダト、オモッテルノカモナ」
「ライバル…デすか?」
あのよくわからない行動は、対抗心を燃やしているがゆえの挑発かなんかってこと?
……ウオタローに?なんで?
「リーダーハ、群レデ、イチバンツヨイヤツガナル。アイツハ、魔法ガツカエルウオタロー、ツヨイトオモッテル。ウオタロート、戦エナイト、ジブンガイチバンツヨイコト、ショウメイデキナイ。ダカラ、イラツイテル…ヨウニ、ミエタ」
「あ~~~~…そういうコト…?」
親方の見立て通りなら、なんというか…なかなか拗らせてるやつだな。
そんなにライバル意識があるなら普通に「俺と戦え!」とか言えばいいのに。
って、ウオタローは仲間とは戦わないか。
「うーん…でもボク、戦ったよぉ?」
「え、戦ったノ!?」
「うん。沼で何回も戦ったよぉ。絞められたり、噛まれたり、斬られたり…いっつもボクが負けちゃうんだぁ」
「とンでもないやつだなアイツ!?もう丸焼きにしてやろウよ!!」
「仲間に魔法は使わないよ~」
「えェ…?絞めタり噛んダり斬っタりしてくるヤツは仲間じゃナいよ…」
「仲間だよ~」
「うーン…」
ウオタローは何をされたとしても、群れの仲間相手に本気で戦う気はないみたいだ。
それが手加減されているみたいで気に食わないあのリザードマンは、ウオタローが戦いたくなるよう嫌みを言ったり痛めつけたりしてくるってことなのかな。
そして闘争心のないウオタローにそんな複雑なライバル心は分からない…と。
わかんないよなぁそんなの。
ウオタローは仲良くしたいだけだもんな。
勝手にライバル視されてイラつかれて、あんまりだ。
…って根が人間の俺は思ってしまうんだが、闘争心がないことが魔物的には悪だったりするのだろうか。向上心がない的な。
そんなこと言ったってなぁ…
「ふぁ~…もうすぐ朝だぁ。今日はここで寝ようかなぁ」
「え!?島デ寝た方がいいんジャない…?危なくナい…?」
「でも、みんなお城にいるみたいだからぁ…ボクも釣りするまではここにいる~」
ウオタローはアイツも含め群れの仲間ことが好きみたいだ。あんなことされたのに…
こればっかりは向こうの方が付き合いも長いだろうし、最近出会ったばかりの俺が踏み込めることじゃないのかもしれない。
でも心配だなぁ…
「オレタチガツカッテルヘヤ、アル。ソコデネロ」
「そ、それガいい!ここよりハ落ち着けるよ」
「ん~、わかったぁ」
その日は俺と親方がよく休憩に使う、魔物の通りが少ない小部屋で休むことになった。
◇◇◇
次の日。
俺達はいつものように転移の魔方陣がある部屋から島に行くため、ロビーを通りかかると…
「ゲッゲッ!ノロマ、ゴブリンといル!ノロマ、オニアイ!」
「ノロマ、ココでも、釣りカ?」
「ゲッ!ゲッ!釣り!ノロマ、オニアイ!ゲッ!ゲッ!」
まーたイヤな感じの赤いリザードマンの三人組に声をかけられてしまった。
でも全員昨日のやつとは別の個体っぽい。
目元に傷跡がないし、声の感じや目の鋭さなんかも全然違う。
「みんなぁ~!ひさしぶりに会えてうれしいなぁ~。待っててねぇ、おっきい魚釣ってくるからぁ」
「魚より肉!肉!」
なんてこと言うんだお前ウオタローが魚釣ってくるっつってんだろはっ倒すぞ。
「海の魚はねぇ、沼の魚よりおっきいのがいるんだよ~。おいしいよ~」
「沼の魚より、デカイ魚…?」
「デカイ魚、ウマイ…?」
「ウマイよ~」
「「「グケ~~…」」」
おぉ~~…みたいなリアクションだな。
「ノロマ、魚、釣ってこイ」
「海の魚、食ウ!」
「まかせて~!」
な、なんという手のひら返し…でもなんか、思ってたよりはイヤなやつらでもなさそうだ。良くも悪くも単純というか。
魔物なんてそんなもんなのかも…昨日のアイツは除くとして。
「あ、ソウダ。おいゴブリンども!」
なんだ!?
急にこっちに話が飛んできたぞ…!?
「な、なんでショウ…?」
「オマエら、盾、作ってるらしいナ。夜、来るまでに、盾イッパイ作れ」
「えぇ!?む、無理ですヨ!あと数刻もないじゃないデすか!」
「チガウ。次の次ノ次の夜マデに、だ」
「次の、次ノ、次…」
明々後日の夜までにってことか?
それならまぁ、小石の盾くらいならギリギリ用意できるかもしれないけど…いっぱいってどのくらいだろう。
「ヨワイ盾シカ、ヨウイデキナイ。デキテ、ジュウマイ」
今ある木の盾のストック数と同じ枚数か…まぁそうなるよな。
今から小石集めとそれをくっつける作業をしていって、明後日の朝にはもうスライム土を乾かす作業に入らないとだからな。
新しく木を切り出して削って整えて…と基盤作りからやっている時間はない。
「盾、弓矢、防げればイイ」
「盾、ジュウまいでイイ。盾ほしいヤツ、盾壊れてるヤツだけ」
全員分用意しろっていうわけではなく、足りてない分を補充したいってことか。
それならなんとかなるか?
…ていうか、戦いに関する話になった途端ちょっと顔がシュッとしたというか、妙にカッコよくなったなコイツら。
やっぱり魔王軍の魔物なんだな。
「オレタチ、城の、デカイ部屋にいル。夜来たら、出撃すル。それまでに盾、持ってコイ!」
「…イイダロウ」
「ボクも魚釣ったら持ってく~!」
「ゲッゲッ!デカイ魚!デカイ魚!」
「おい、そろそろ部屋、もどるゾ」
「ゲッ、ゲッ、もどる、もどる」
リザードマン三人組は用件を言い終えると、部隊が待機しているという大部屋の方へ去っていった。
「何日も前から部屋で待機してるんですね…一応デカイ部屋らしイけど、それにしタって窮屈じゃないノかな。やることもそんナにないだロうし」
「しゅつげき前はみんなでいっぱい寝て、食べて、寝るんだよ~」
「そう…なンだ?」
数日かけて戦う前に英気を養うってことなのかな。
「よ~し!みんなのためにおっきい魚釣るぞ~!ボク、先に行くねぇ~」
ウオタローはやる気満々で、俺達よりひと足先に転移の魔方陣がある部屋に入っていった。
「……タイクツニ、サセテオクンダロウナ」
ウオタローがいなくなってから、親方が呟くようにそう言った。
「退屈…?」
「魔王軍ノマモノヲ、ハヤメニ城ニヨブノハ、ヤルコトナクスタメ。ヤルコトナイト、マモノ、アバレタクナル。戦イタクナル」
「…出撃すル時により好戦的にナるよう、上が意図的に暇な時間を作ってルってことですカ…?」
「…ソウ、オモッタダケダ」
「………」
「サ、オレタチモイクゾ。盾、ツクラナイトナ」
親方は話を切り上げ、転移の魔方陣がある部屋に入っていった。
「はイ…」
俺ものその後についていく。
親方が言っていたこと…俺は合っていると思う。
城側でメシを用意してるのも、もしかすると魔王軍の魔物に滞在中、狩りをさせないためなのかもしれない。
出撃前に戦闘欲を発散してしまわないように。
やっぱり…あんまいいとこじゃないよな、ここ…




