第13話 出撃前の空気
リル島で自分達のメシが取れることが確認できたので、次の日から俺と親方は城にある装備品の仕分けに取り掛かった。
装備品の仕分けといっても、無造作に積み上げられた山から剣、槍、弓、杖、兜、鎧、籠手、足、その他アクセサリーっぽいの…って感じでざっくり分類する程度だ。作業も2日くらいで終わった。
厳つい魔王軍の魔物がちょいちょい装備品を取りに来ては、使うものを勝手に選んで持っていく。
仕分けが終わってから俺達が装備品係としてやることはほとんどなさそうだな…なんて思っていたところ、軍の魔物から「盾はないのか」「盾を用意しろ」と言われることが何回かあった。
と言われても、装備品の山の中に盾はない。
きっと需要が高くてずっと在庫切れ状態なんだと思う。村のゴブリン達もそうだったように、盾はここでも一番消耗する防具のようだ。
なので、3日目以降は盾作りに着手した。
リル島で切り出した木を盾の形に削り、島産スライム土と樹液を混ぜて粘土みたいにしたもので表面を覆う。
そしてそれが乾かないうちに、魚の鱗や蟹の殻といった硬くて軽い素材を敷き詰めていく。配置を凝ると見た目も綺麗になる。小さな隙間も小石なんかで埋めて…
【ゴブリン式:海の盾】が誕生した。
親方が強度を試してみたところ、たくさん攻撃を受けると敷き詰めた鱗や殻が砕けたり剥がれたりしてしまうものの3~4戦は保つだろうとのこと。
消耗品であることが前提にはなるが、盾としての役割をそこそこ果たせそうだった。
量産するには当然海の材料が必要になるのだが、盾に使えるほどの強靭な鱗を持った魚が毎日釣れるわけではない。蟹も取りすぎたら島からいなくなっちゃう。
なので、とりあえず木を重ねて作った【ゴブリン式:木の盾】や海の盾と同じ要領で石だけ敷き詰めた【ゴブリン式:小石の盾】なんかも作った。
ないよりはマシかなってくらいの防御力だけど、作ったら作っただけ魔王軍の魔物に捌けていった。
木の切り出しや魔物の素材集めは親方が、小石集めや切り出した木を盾の形に整える作業なんかは俺が担当した。
素材を敷き詰めるのと持ち手をつける作業は交代でやった。
スライム土だけは俺も少し集められた。
一対一ならあのオレンジ色の島スライムにもなんとか勝てるようになってきたぞ。
うっかり囲まれた時は、近くの親方やウオタローに全力で助けを求めるしかないんだが…
海の盾の要である魚の鱗に関しては、でかくて鱗に厚みがある魚をウオタローが釣り上げた時のみ手に入る。今のところ一番レアリティが高い素材と言えるだろう。
作れと言われてもすぐに用意できるとは限らない海の盾だけは、ある程度数が確保できてからちょっとずつ城に持っていく予定だ。
ちなみにウオタローっていうのは、あの青いトカゲみたいな魔物のことである。
俺がつけたあだ名。魚好きだからウオタロー。
いい名前だね。ね。
城と島を行き来する生活。
滞在時間は自然と島の方が多くなっていた。
安心安全な暮らしとはいかないけど、食べて、働いて、たまに遊んで、寝て…
のんびり開放的で、俺の好きなスローライフみがあって楽しかった。
あっという間に一週間が経ち、最初はおっかなかった城も今では…もっとおっかなくなってます。
というのも、城の空気が昨日の夕方あたりからピリピリし始めている。
魔王軍が妙に殺気立ってるというか…魔物的には活気があると言い換えてもいいのかもしれないけど、マジでいつ食われるかわからないってくらい怖くて、極力関わらないよう俺やメシ係の小さい魔物達は神経をすり減らしている。
魚を納品する時にウオタローも城に来るんだけど、一人にするのはちょっと心配だったので俺達は城に帰還するタイミングをなるべく合わせるようにした。
まぁ、一番心配なのは一番弱い俺なんだけどね!
今日の分の魚と盾を納品した後、俺達は転移の魔方陣がある部屋の隅で少し駄弁っていた。
でかい部屋は分からないけど、こういった小さめの部屋に魔王軍の魔物はあまり入ってこない。
狭いし用もないだろうからね。
「はァ~…なンか、城の中がいツにも増しておっかなくないデスカ?」
「マモノナンテ、ホンライ、アンナモンダ」
親方は自分の槍の手入れをしながらそう言った。
「そんなモン…なんンですかね…」
「もうすぐしゅつげきなのかな~」
「シゅ、出撃…!?」
それはやっぱり、人間を襲いに行くってことなのだろうか…いや、ちょっと危険な土地に勇者を探しに行く程度かも。そう思わないとやってられないんだけど。
俺は今まで通り、出撃の内容について深くは考えないようにした。
どのみちゴブリンじゃ魔王軍の出撃なんて止められないし…できることがあるならそうしたいけどさ…
「みんな、しゅつげきが近いと早く暴れたくてうずうずしてるんだぁ。ヒマだからお城で暴れちゃう魔物もいるよ~」
「うげェ~マジかよ…」
「ヒマなときは、釣りしたらいいのにねぇ~」
「そうダねぇ…モっと他に楽しいコトしてたらいいノにねぇ…」
「…マモノノ''タノシイ''、チギル、ウバウ、イジメル、コロス……マモノハ、タイクツダトスグ、ソレヲヤル。ホカノ''タノシイ''、シラナイカラナ」
「え…そうナんだ…」
魔物怖すぎだろ…その辺にいる野生の魔物より強かったり知能があったりする分、悪意みたいなのも強くなっちゃうのか?
村のみんなや親方、ウオタローみたいな魔物は珍しいのかな…
「戦ウコト、ワルイコトジャナイ。食ウカ食ワレルカ、ソレデイイ。戦ウコト、タノシクテモイイ。ツヨイヤツト戦ウ、スキ、ソレハ、ソイツノイキカタ。デモ…タイクツダカラ、コロス。タノシイカラ、ウバウ……マモノ、ソレ、オオイ」
「そんな…」
他にやることがないから暴れるってことか?
なんかそれって虚しくないか…?
「モシ…チガウ''タノシイ''、ミツケレバ、スコシハカワルヤツモ、イルカモシレナイガナ」
「違う楽しいコト…」
「釣りたのしいよぉ~。盾を作るのも、見てておもしろかった~」
「ン…ダガ、釣リヤ、モノヅクリ、タノシイ、カンジルマデニ、ジカンカカル。タノシイ、カンジルマエニ、アキル」
「あー、ゴブリン村のみんなでスらモノづくりはあんまハマらなかったですモんね…手っ取リ早く楽しくナれるものかぁ…難シいな」
「…ソウデモ、ナイカモシレナイゾ」
「え?それハどういう…」
ギィィ…
「!」
突然部屋の扉が開き、一匹の魔物が入ってきた。
ウオタローと同じトカゲみたいな魔物…確かリザードマンっていうんだったな。
武器を持ち、防具を身に纏っているその佇まいは明らかに魔王軍のそれであった。
体の色は赤く、眼光は鋭く、片目にある傷跡が印象的だ。
赤いリザードマンは俺と親方をギロリと睨んでから、ウオタローに視線を向ける。
「こんなところに、いたのカ。ノロマ」
え…感じ悪…っ
リル島はリル・トー、足の小指って意味のつもりです。小さい島。




