秘呪師メニケの恐ろしい作戦
一方その頃話。
2025/11/27追記:少し修正・加筆しました。
二匹のゴブリンがリル島の地に降り立つより前。
城の小さな部屋でこれからの話をしていた頃…
城の屋上には凶鳥を待つダークエルフの姿があった。
多いんだか少ないんだかよく分からない布を風に揺らしながら、城の外に見える魔物達を静かに見下ろしている。
すると、鳥の羽ばたく音が徐々に屋上へ近づいてくる。
やがてそれは姿を見せた。
「フゥ~…スマートスタイルは小回りが利く代わりに体がバキバキになるグェな~」
屋上に出た凶鳥はそうぼやきながら己の体を元の大きさに戻す。
ドシィィィン…
巨大な魔物が屋上に舞い降りる。
女はその様子に驚くこともなく、苛立った様子で凶鳥を睨む。
「遅いわよ、インディセ」
「すぐ飛んできてやっただろうグァ!数分も経っておらんグェ!」
「3秒以内で来なさいよ。私は忙しいの」
「我輩だって忙しいぃ~のにこうしてキサマの相手をしてやっているグェ!ありがたぁ~く思いながらさっさと用件を言うグェ!」
「チッ…」
ああ言えばこう言う鳥に苛立ちを覚えながらも本題に入る。
「今度の作戦で使う魔物部隊なんだけど、雨の森の中でも機敏に戦える部隊を追加して欲しいの。オークとトロールの力押しだけじゃ逃げ回られて時間を稼がれてしまうかもしれないでしょう?一気に片をつけたいのよ」
「ホーゥ…」
凶鳥は目を細め、数秒考えてから案を出す。
「ならば、リザードマン部隊も連れていくといいグェ。アイツらは泥や水辺に強いグェ。すばしっこくて力もあって、おまけに盾も扱えるから弓矢対策にうってつけグェ!」
「へぇ…?フフッ!いいわね。雨で視界も手元も矢の飛距離も悪い中、盾を使う魔物までいたら…アイツらの弓を完全に無力化できるわ!アハハ!ま、採用してあげる」
女は作戦の成功を確信したのか上機嫌。しかし、すぐに冷淡な態度に戻る。
「隠れ里がある森行きの魔方陣を城内にひとつ増やしておくわ。当日すぐに出撃できるよう、ここにリザードマン部隊を待機させておいて頂戴」
「グェ~~~…メニケ、お前も魔王軍幹部なら軍を使う時くらい自分で声をかけるグェ。その方が部隊の殺気が上がるというものグェ」
「嫌よ。私は準備で忙しいの。それに…」
女は蔑むような目で、外にいる魔王軍の魔物達を見下ろした。
「ここは魔物臭くていられないわ。特にあのゴブリンなんて臭すぎて…ああ、もう嫌!じゃ、私行くから。後よろしく」
女はそう言って転移の魔法に身を包み、城から姿を消した。屋上に残された凶鳥は
「………スンスン」
と、片翼を広げて自分のにおいを嗅いでみた。
「……そんなに臭いグェ?」
首をかしげる。
「コケー…ま、いいグェ!」
何がそこまで臭いのか、魔物である凶鳥にはよく分からなかった。
凶鳥は気にするのをやめてリザードマン部隊を召集すべく沼地へと飛び立った。
――魔王軍幹部、秘呪師メニケ。
闇の力に魅入られ禁忌と冒涜の限りを尽くすダークエルフ。
幹部会議にてエルフの隠れ里に勇者一行が逃げ込んでいる可能性があると提唱。
現在、己の魔法とインディセの魔物部隊を用いて里を襲撃する作戦を計画している。
しかしメニケの真の狙いは勇者一行ではない。
魔王への忠誠心が皆無に等しい彼女にとって、勇者捜索の件など正直どうでもよかった。
彼女は自身の魔法こそが最も強い力なのだと世に知らしめたいだけなのだ。
そう、特にエルフには。
ダークエルフは特定の地域でひっそりと暮らすエルフ族の亜種。
エルフより若干魔力が低いものの、本来魔物のみが獲得できる闇の魔力を模倣及び享受することに極めて長けているという特殊な性質を持つ。
それ故にヒト属には扱いが困難とされている、闇魔法を容易に扱うことができるのだが…そこに複雑な術式を交えた呪術や禁術に手を染める者も少なくない。
何故なら、それがエルフに魔法で勝てる唯一の突破口だと信じて止まないからだ。
エルフはこの世で最も魔法に長けているとされる種族。
ダークエルフが武の道に進むならまだしも、魔法の道を極めようとした時、その魔力量の違いから自分達はエルフの劣等種なのではないかと感じてしまう者は多い。
そして、そういったコンプレックスを抱いた者ほど、そうではないと証明する為に禁忌に手を染める。
メニケはその最たる例だった。
己の魔法によってエルフのあらゆる魔法を無力化することで、自分の力がエルフの力に勝ったのだと実感したい。
知恵と才、そして血の滲むような努力によって、あのエルフ族に勝ったのだと。
そしてその甘美なる勝利に浸りながら、地を這う穢らわしい魔物どもにエルフどもが蹂躙される様を高みの見物する…
メニケのやりたいことはただそれだけだった。
エルフ族の高度な結界を禁術によって強制解除し、すぐさま一帯に魔法妨害の呪いをかけることで里のエルフ全員の魔法を大幅に弱体化する。
動きを鈍らせる為に土砂降りの雨も降らしてやる。それは闇の魔力を用いることでより凶悪なものとなるだろう。
エルフが得意とする魔法も、速さも、弓も、全て削ぐ。
更に転移魔法で召喚したオーク、トロール、リザードマンの三部隊をそこに突撃させることで里は阿鼻叫喚間違いなし。
エルフ達に残されているのは、呪いに抗いながら無理矢理使う弱々しい魔法と、大して飛ばない弓矢のみ。
そんなものがフィジカルを優先して選んだ魔物三部隊に通用するはずもなく、華奢なエルフ達が太刀打ちできるわけがない。
俊敏さで少しの間逃げ回ることはできるだろうが、体力のないやつらだ。そう長くはもたないだろう。
メニケの魔法による執拗な妨害と、魔王軍の圧倒的質量によって里のエルフは為す術もなく壊滅する…完璧な作戦―――
◇◇◇
メニケは城から自身の隠れ家に戻ると、当日発動させる魔法の下準備を再開する。
魔方陣を何度も書き換え、当日使用する魔水晶を厳選し、魔力摂取値が高い食材で作った特製スムージーを飲み…エルフの魔法により効果的な呪いを発動できるよう己の全てを仕上げていく。
「魔法がほとんど使えなくなったところに、バカみたいな力の強さが取り柄のオークやトロール、そして武器と盾を使いながら素早く動き回るリザードマンまで押し寄せて来たら…アッハハ!逃げ切れないでしょうねぇ!捌ききれるはずもない!フフ…闇の力にひれ伏すがいいわ!アーッハッハッ!んぐっんぐっ…だぁ~不味いっ!でもエルフに勝てる…!んぐっんぐっ…」
自分の考えた作戦に陶酔しながら、ジョッキいっぱいの美味しくない特製スムージーを頑張って飲んだ。
一人のダークエルフの悪意が、エルフの里に破滅の危機をもたらそうとしていた…
ちなみに失敗します。




