第11話 ドキドキサバイバル
ワープした先に広がっていたのは、南国みのある木が目立つ夕暮れの森だった。
気温も少し高く、俺達が住んでいた森とはだいぶ雰囲気が違っている。
一歩後ろには城で見たのと同じ魔方陣が淡く輝いており、たぶんこれに乗ればさっきと同じ要領で城に帰れるんだと思う。そうでなかった場合は遭難である。
「もう夕方なのカ…」
そういやインディセ様が村に来たのメシ時だったな…俺達オールしてんじゃねーか。
「マモノ、スコシクライ、ネナクテモヘーキ」
「ソ、ソうデスカ…?」
確かに、気持ちの疲れはあっても体はそこまで疲れてないかも…でもハイになってるだけとかじゃない?本当に大丈夫なやつ?
大学時代、二徹してレポート間に合わせたやつがすんごいハイになってて「なんかマジ眠くねー!今日フツーに飲み行けるわ笑」って言いながら白目剥いてぶっ倒れたのを見てからというもの、俺は睡眠を重んじて生きていた。
だからちょっとそわそわするな…親方はぶっ倒れないでね…
「トリアエズ、コレ、サガシテミヨウ」
親方は落ちている果物の皮を指差す。
よく見ると、周辺の地面にはちらほらと果物の皮や魔物の小骨が落ちていた。きっと魔物が食事をした跡だ。果物はこの近くで採れるものなのかもしれない。
俺はコクリと頷き、親方と森を探索し始めた。
しかし、実が生っているような木は少し歩いたくらいでは見つからなかった。
簡単に見つかるような場所は大抵、他の魔物が採取した後なのかもしれない。うーん、手厳しい。
この森にも野生の魔物がいるわけで、それを狩って食べるというのも選択肢のひとつではある。
ということで俺は今…
「イヤーーーッ!」
オレンジ色のスライムに追いかけられている。
前の森にいたスライムより早いしでかいし一撃じゃ倒せないしで、こっちが食べられそうなのである。
「フン…ッ!」
親方がスライムを槍で素早く貫くと、形が崩れて液体になっていく。親方は一撃で倒せるのか…
「親方ァ…!助かりマした…!」
「スライム、ミエナイ、コアガアル。ソコ、ツクト、ダメージ、デカイ」
「すげぇ…見えナいのにドウやって狙ってるんデスか?」
「……カン、ダナ」
「ワォ…」
俺には無理だということだけは分かった。
「オレタチガイタ森ヨリ、マモノガツヨイ。アマリ、ハナレルナ」
「ハイ…ていウか親方、なんか戦イ方が手慣れてマせん?」
「イッピキデイタジカン、ナガカッタカラナ。ジブンデタタカエナイト、イッピキハムリダ。アノ村ニスムヨウニナッテカラ、ボウグツクルノ、イソガシクナッタ。カリ、村ノヤツラニマカセルコトニシタ」
「なるホど…」
親方は戦えないから防具作りをしてたんじゃなくて、戦えるけど自分にしかできないことが多いからそっちに集中していたわけか。
「マタツクレルカハ、ワカラナイケドナ…」
遠くを見ながら少し寂しそうに親方は呟いた。
今の環境で皮の防具を作るのはちょっと難しそうだもんな…村にあった皮を乾かす為の小屋なんて結構凝った構造してたし、あれをまた一から作るとなるとなかなかの労力になりそうだ。外だと魔物に壊されない場所の確保も難しい。
空気がカラッとしているようなところなら、放置しておくだけでも乾燥させられるかもだけど…少なくとも、城の屋内やこの森はあまりカラッとした環境ではないな。なんならここはちょっとベタつく。
…この森に来てからなんとなく気になってるにおいがあるんだけど、これってもしかして…
「……海?」
磯の香り…だよな?そういや島って言ってたもんな。浜辺が近いのかも。
「ウミ?ナンダ、ソレハ」
「エ?んー…川より池よりでっかい…水タマリ?デすカネ」
「ソレハ…メチャクチャデカソウダナ」
「デカいでスよ~海は。魚とかもイッパイいると思いマス。あー、でもいきなり潜っテ捕るのはムズいかも…シカモ、水は水デモ塩水で、飲めナイし泳ぐト塩で体がベタつきマす」
「……キケンジャナイカ?」
「入ルのは色々危険かもしレませんね…でも、遠くから見るくらいなら大丈夫だと思います。ちょっと見ニ行きまセン?」
「ン…イッテミヨウ」
俺達は磯の香りがする方へ進んでみることにした。
ザザァァァ…
波の音が近くなってくる。
段々木が少なくなってきて、その代わりに見えてきたのは…
「わーーー!マジで海ダ!」
青い海!白い砂浜!そしてなんか紫色の小さい蟹がちらほら!たぶん魔物!近づいたら危険そう!
でも旅行っぽくてちょっとテンション上がるなぁ…風もなかなか気持ちいいじゃないか。
「コレガ、ウミ…タシカニ、メチャクチャデカイナ……ン?」
「ん?」
親方の視線が止まった先を見てみると、浜辺の端の方にある磯場にぽつんと魔物が一匹座っていた。
並みの人間より少し大きいくらいの背丈をした、青いトカゲのような魔物。
海面に垂らした尻尾をゆらゆらと揺らしている…海水が気持ちいいのかな?
「リザードマンダナ。ズイブント、ノンビリシテイル」
尻尾だけにテイルですか、親方ァ!
なんてツッコミは心にしまっておく。
こういうのがしまっておけなくなった時、俺はオヤジギャグメイカーオヤジになるんだろうね。きっともうなりつつあるんだろうね。怖いね。
「…アレは何をしテるんでショウね?」
「サァナ…ン、キヅカレタ」
青い魔物はこちらに気がつき、手を振っている。
温厚そうで友好的な感じだ。この辺のこと聞けるかも。
「声をカケテみマしょう」
青い魔物がいる磯場の方へ向かった。
「コンにチハー」
「…?こんちにわ~」
惜しい。
「キミたちも釣りしに来たのぉ?」
「え…ここ釣りできるんですか!」
「できるよぉ~。見えやすいように、尻尾の先に葉っぱを付けてぇ…海に入れるんだよぉ。ゆらゆらしながら待ってると、魚が来るんだぁ」
「…ソレハ、ジブンノシッポヲ、エサニシテルノカ?」
「うん」
「結構身ヲ削るスタイルなんダな…」
「ソレデ魚、トレルノカ?」
「とれるよぉ~。いっぱい釣れたり、おっきいのが釣れたりしたらお城にもどるんだぁ。たまにインディセ様もここに来てねぇ、がんばるグェ~って言ってくれるんだよぉ」
「インディセ様ここ来るんだ…」
サボったりしたらちゃんとバレそうだな…
「マオウグンノ、メシガカリカ?」
「そうだよぉ~。ボクは魚を釣るがかりぃ~!」
青い魔物は嬉しそうに胸を張る。
釣り係という役目を気に入っているようだ。
いいなぁ…釣り。
村の近くには川も池もなかったから、魚を取る機会がなかったんだよな。
この魔物みたいな立派な尻尾はないけど、簡易的な釣り道具なら木の枝とかで作れそうじゃないか?
「俺も釣リしてみよウかな…」
「わぁ~!ホント~?やろぉやろぉ!釣りたのしいよ~!」
「オレハ、アノマモノ、トッテクル」
親方は浜辺の蟹っぽい魔物に目をつけているようだ。
「あの魔物はねぇ、表がかたいから、ひっくり返して裏からザクッとするといいよぉ」
「ザ、ザクッと…」
このふわふわした感じで急にしっかりめの狩りアドバイス出てくるの、ちょっとビックリするな…ありがたいけども。
「ン、ソウスル」
親方は槍を担いで蟹のいる方へ向かっていった。
よし…俺も魚を釣ってメシの確保に貢献するぞ!
木の枝にツタをぶら下げて、そこに森で見つけたでかめの羽虫をくくりつけて俺も海に垂らしてみる。
「うれしいなぁ~。釣りのたのしさがわかってもらえるなんてぇ」
「他ノ魔物は、アマリ釣りはしナい?」
「うん…しなぁい。海はこわいとか、釣りがめんどくさいとか、わがはいは空の方が好きだから海はキサマにまかせるグェ~とか…みんなあんまりやりたくないみたい」
「そっかァ…」
弱い魔物は海自体を怖がっていて、強い魔物は陸で狩りをした方が早いからめんどくさがってやらない…って感じなのかな。
インディセ様は海より空が好きと。
「やってみたらたのしいと思うけどなぁ。この島は魚がいっぱい釣れるんだよぉ」
「へ~、穴場なンだな。早ク何か釣れナいかな~」
「エサをちょっと揺らして、泳いでるように見せるのがコツだよぉ」
「なルほど…」
ちょっと揺らすことを意識しながら、ひたすらヒットするのを待ってみる。
夕暮れの海辺で釣りをするという思わぬチル時間…新しい魔物の知り合いもできて、なんだかいい感じじゃないか?
この先どうなることかと思ったけど、なんとか今の環境でもやっていける気がしてきたぞ。
「あ…来てる」
青い魔物は海面をじっ…と見つめ始めた。
「オ、魚来た?」
「うん。おっきいかもぉ」
「引き上げラれそう?」
「うん。自分で上がってきてくれるよぉ」
「ん?自分デ…?」
「あ、来る」
「え」
ザパァァアアアアア!
海面から勢いよく現れたのは、ゴブリンくらいなら平気で丸呑みできそうなほど大きい魚…というか魚っぽい魔物だった!
「ギャーーー!?」
俺は慌てて後ろに下がった。
魚の魔物は磯場にビタンっ!とうち上がり、一瞬静かになる。
…が、次の瞬間。
ビチビチビチビチィッ!とけたたましい程に飛び跳ね始め、鋭い牙がびっちり並んだ口をパクパクさせながらこちらに向かってくるではないか!
「イヤァアアア!食われる!こっちが食われるっ!!」
慌てて逃げる俺。
けれど青い魔物は落ち着いた様子で片手を少し上げて、
「えいっ」
と軽く振り下ろす。すると…
ズドォォォォン!
突然、雷鳴のような音が響いた。
「うワぁ!?」
ビックリして振り返ってみると、魚の魔物は煙を上げながらビチ…ビチ…とその場で弱々しく動くことしかできなくなっていた。
「釣れたぁ~!みんなで食べよ~」
青い魔物は魚の上に手を置いて嬉しそうにしている。
なるほど。これがキミの言っていた釣りなんだね。
……うん。俺もこの釣りはちょっと怖いかな!




