第10話 お節介ヤロー
俺と親方はひとまず魔物の気配が少ない方に進む。
広間から少し離れたところに小さな部屋を見つけ、そこでひと息つくことにした。
使用人の部屋…みたいなところだったのだろうか。壊れたベッドと埃を被った机、それと小さい椅子だけで部屋の大半が埋まっている。魔物が使っている様子はなさそうだった。
「つ…疲れタぁ…」
俺はベッドの端に座って軽く足を伸ばした。
森から半日くらい空の旅をして、そこから城でおっかない魔物の気配をビシバシ感じながらもいろんな説明を受けて…まだなんの仕事もしてないのにクタクタだ。
親方は部屋にある机の引き出しの中を見たり、壁にあるクローゼットっぽいところを開いて見たりしている。仕事に使えそうな道具を早速探してるのかな。親方は部屋を調べながら、こちらを向かずに口を開く。
「……ナンデ、ツイテキタ」
うっ…やっぱり俺が城についてきたこと、まだ怒ってたっぽい。
「…スミマセン。親方ガ危険なトコロニ連れてイカレチャうって思っタら、つい…」
「ソレデ、オマエマデ、キケンナトコロ、キテ、ドウスル」
「ス、スミマセン……」
「オレハモウ、マンゲツヲナンビャッカイトムカエテイル。ムカシ、イッピキデ、イキテイタコトモアル。デモオマエ、ウマレテカラムカエタマンゲツ、ヨンカ、ゴカイ。オマエ、ワカイ。ナノニ…マオウグンノトコロ…クルナンテ…」
平和な森育ちの若ゴブリンが、魔王軍がいるような場所について来てしまったことが親方は悲しいようだ。
俺は今、人間でいうと10代半ばくらい…なんだと思う。
そのくらいの年齢の子が自分についてきて面倒事や危険なことに巻き込まれるっていうのは…確かに、大人としてはかなりやるせないことかもしれない。
…そういや俺が前世で死んだ時、あの学生達は大丈夫だったのだろうか。
俺が死んだせいでトラウマになってたりして……なってたらマジでごめん。
なんか俺って…あの時も、今も、余計なことしちゃってるだけの迷惑お節介ヤローなのかも……
「……本当に…スミマセン…俺、考エなしで…」
「…………」
親方は一瞬こちらを見て、またクローゼットに視線を戻して話を続ける。
「…モウワカッタ。ソンナニ、スミマセン、イウナ。キテシマッタ、シカタナイ。キタカラニハ、ココデハタラクシカナイ」
「ハイ…」
俺がべしょべしょにへこんでいるのが伝わってしまったのだろう。さっきまで怒っていた親方の声が少し柔らかい。
気まで使わせてしまった…マジべしょる…
いやダメだ。これ以上べしょるな。しっかりしよう。
「…トリアエズ、アノ広間の装備品ノ山、仕分けからやりマスか?」
「イヤ、ソレヨリモサキニ、ジブンタチノメシ、トル。メシトレルコト、カクニンシタホウガイイ」
「確カに…腹減りすギテうっかりあの山に手を出しタらマズイですモンね」
「ン。オレタチ、マホージン、イワレタトオリ、ツカウベキ。ソコデメシトレルコト、カクニンスル。ソレデキタラ、ソウビヒン、ワケル、ヤル」
「了解デス!」
「ヨシ。イクゾ」
「え、もう?」
「ン。コノヘヤ、ツカエルコト、ワカッタ。ヤスムトキ、サギョウスルトキ、ココツカウ」
「モウ少し休んデカラといウ選択肢は…」
「オレタチマダ、シゴトシテナイ。サボッテル、オモワレタラ、シヌカモシレナイ」
「ヒェ~!早く行きマしょう!」
俺と親方は部屋を早々に後にした。転移の魔方陣があるという部屋に向うべく、一度ロビーに戻る。
ロビーに戻ってくると親方は、
「ブキ、モッテイッタホウガイイ」
と言って装備品の山から錆びた槍を拝借した。
「イ、イイんですカね……」
「ダメダトイワレタノハ、メシダケダ。サビタヤリ、クライナラ、タブンツカッテイイダロ」
親方、結構肝据わってるよな…
「オマエモナニカ、モッテタホウガイイ。アマリイイヤツハ、オコラレルカモナ」
「じゃ、じゃア…このちょっと錆ビてる剣でも持っときマすか…」
俺達は最低限の武器を持って奥の部屋の扉を開ける。
部屋の中にはインディセ様が言っていた通り、床に赤、青、緑の魔方陣が並んで光っていた。
「本当に魔方陣ダ…」
「アカ、ヤメトケイワレタ。ミドリ、アンコクノ森。アノ森、ハヤイマモノオオイ。アオ、キイタコトナイバショ……アオ、イコウ」
親方はそう言って、青の魔方陣に近づく。
普通に行こうとしてるけど…転移の魔方陣って、要はワープするってことだよな?
…ワープ中に体が千切れる可能性ってあったりしない?大丈夫?ワープ失敗!こっちに上半身!あっちに下半身!みたいなことにならない?本当に大丈夫?
などと俺が尻込みしている間に親方の足はもう魔方陣の上に乗りそうだ。
……えぇい!ままよ!
勇気を出して青の魔方陣の近くまで行くと、親方が静かに話す。
「……オマエハ、ココ、クルベキジャナカッタ。デモ…オマエガキタカラ、イマモ、オレハナカマト、ハナシデキル。オレハソレヲ、ヨカッタト、オモッテシマウ。ダカラ、オマエガキテクレテ…タスカッタ。アリ、ガトウ」
「……!親方…」
「イクゾ」
「ハイ!」
俺と親方は同時に青の魔方陣に足を乗せた。
すると魔方陣の光が強くなり、全身がその光に包まれるようにして目の前が真っ白になる。しかし、それはすぐに終わった。
視界が開けた時にはもう別の空間にいたのだ。
「え……」
ついさっきまで城の中にいた俺達は今…
知らない森にいる。
余談:前世で優吾が学生とおじさんの間に入って死を迎えなかった場合、スマホで証拠動画を撮ろうとした学生が足を踏み外す形でレーンに落ちて電車に轢かれていた。




