表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/47

8話 一気で解決できるところ

「行くってどこへ?」


 雪のように白い相澤さんの手を見つめながら、俺は尋ねた。


「今の状況を一気で解決できるところへ」


 そんなところあるの?

 信じられなかった。どう考えても、この状況を解決する方法が見えないのに、一気で解決できるところあるなんて。一体どこなんだ。まったく見当がつかなかった。


「何じっとしてるんだ。早く行こ」


 相澤さんが催促してきた。その瞬間にも、俺はどうすべきか迷っていた。

 この手を取れば、全部解決する。

 この面倒臭いことを一気に楽に片付けられる甘い選択肢が今目の前にある。普段の俺なら、なんの迷いもなくすぐ相澤さんの手を取ったんだろう。しかし、今はなぜか軽々しくその手を取ってはいけない気がした。得体の知れない不安が俺に今、相澤さんの手を取ったらもう後戻りできないと語っていた。


「もー、行こってば」

「ちょ、ちょっと相澤さん?」


 相澤さんは俺の手をひったくるように掴み、そのまま校舎の中へ走り出した。

 相澤さんに手を引かれたまま廊下を歩いていると、廊下の生徒たちの視線が痛いほどが伝わってきた。チラチラとこちらを見る人もいれば、あからさまに見てくる人もいた。


 相澤さんが言ってたのがこれか。


 さっき、俺が相澤さんの手を掴んで学校を出た時も、同じだったんだろう。相澤さんが言ってたことが思い出した。

 こんなにたくさんの人の前で手を繋いて歩いていたくせに、「付き合ってない」って否定すれば信じてもらえると思った俺が馬鹿みたいだった。


 それよりどこへ向かってるんだ。


 俺の手を引いたままどこかへ向かって歩く相澤さんの背中を見つめた。たくさんの生徒たちに真実を聞かれるこのめんどうくさい状況を一気に片付けられるところへ行くって言われたけど、そこどこなのかどう考えてもわからなかった。でも、この廊下は見慣れた場所だった。


 この先は・・・教室だが。


 1−4組。俺と相澤さんの教室へ続く廊下だからだ。


「着いたよ」


 やがて相澤さんは教室の前で立ち止まった。1ー4組、うちのクラスだった。


「なんで教室に」

「まあいいから、入ろ」


 相澤さんはなんの説明もせず、手を繋いだまま教室に入っていった。抵抗するまもなく、俺はそのまま引きずられるように中へ入った。

 教室に入ると、クラス全員の視線が俺たちに集まった。俺と相澤さんが手を繋いてるのを見たのか、目を丸くし口を大きく開けたまま固まった。


 それよりなんで教室なんだ。


 なんで教室に来たのか理解できなかった。

 相澤さんは俺の手を引いて黒板の前に立った。教室の一番前、全員からよく見える場所に立った相澤さんはえっへんと咳払いをした。すると、教室全員の視線が俺たちに集まれ、騒がしかった教室が静まり返った。

 十分に注目を集めたと判断したのか、相澤さんは静かに口を開いた。


「今、私と樽井が付き合ってるって噂、みんな知ってるよね?」


 返事はなかった。だが要らなかった。今、学校でこの噂を知らない人なんていなかったから。


「私は今あの噂についてはっきりさせてもらいたい。あの噂は真実です」

「・・・ん?」


 待て。今なんて・・・・?!

 聞き流せない言葉が耳に飛び込んできた。


「私樽井と付き合ってる」

「「えええええ!?!?」」


 クラスの全員が驚きの声を上げた。その中には、俺も含まれていた。


「なにこの反応。もう知ってたんでしょ」

「いや、知ってはいたけど」

「信じきれなかったっていうか。半信半疑で」

「正直樽井と相澤が付き合うなんて、ありえないって思って」


 それは、正直俺もそう思う。

 みんなの反応に、相澤さんは不思議そうな顔をして首を傾げた。


「でも私、付き合ってるって言ったじゃん」

「樽井は付き合ってないって言ったよ」


 あるやつが俺を指さしながら言った。相澤さんは一瞬だけ俺を睨み、それから前に向き直った。


「それは樽井が照れ臭がっただけだよ。本当は付き合ってるよ」

「ちょ、ちょっと相澤さん」


 俺は慌てて相澤さんを呼び、声を潜めて言った。


「いきなり何してるんだ。みんなの前で付き合ってるって言っちゃーー」

「樽井くんこういうのめんどうくさいって言ったでしょ。こうやって一気に片付ける方がいいよ」


 一体何をいてるのかさっぱりわからなかった。そういう俺のために、相澤さんは言葉を継いだ。


「樽井くんは人たちに聞かれるのが面倒臭いからいやってわけだよね?」


 俺は黙って頷いた。


「だから、多くの人前で付き合ってるって宣言しちゃえば、もう聞きにくる人はいなくなるよ。付き合ってるってけりをつけたんだから」

「どういうっ」

「樽井くんはなんで噂が消えないかわかる? はっきりした結論がないからだよ。答えがないことは、人々の好奇心を呼び起こすもんだよ。こういう時は先手を打つのが一番。噂の当事者である。あたしたちが噂についてはっきりした答えを出しちゃえば、すぐ興味をなくすはず」


 妙に説得力があった。付き合ってるのかどうかあれこれ言われるくらいなら、いっそ最初から「付き合ってる」って宣言しちゃえば、気にする人もいなくなるだろう。


 ・・・いや、待て。そうなると・・・・・・俺はガチで相澤さんと付き合うことになっちゃうじゃん。


 一番大事なことを、完全に見落としていた。

もしおもろかったらブクマと評価お願いします。励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ