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6話 ガチ恋しなさそうだから

 もし相澤さんが学校に噂を流した理由が、自分のことを考えさせるためだったのだとしたら、それは大成功だった。だって今俺の頭の中は相澤さんのことでいっぱいで、どんな授業だったのかすらわからないくらいだったから。もちろん、好きだからじゃない。勝手にこんなことをやっちゃった相澤さんに腹が立っていたのだ。本当イライラして頭に血が上った。


 授業が終わり、昼休みになった。相澤さんは友達とご飯を食べに行く前に、急いで席を立って相澤さんのところへ向かった。


「相澤さん」

「ん? あ、樽井くん・・・え、ちょっと」


 俺は何も言わずに相澤さんの腕を掴んだ。そして引っ張った。


「あら、なになに」


 相澤さんの友達に見える女子たちがヒソヒソと騒いでいた。同じクラスで名前は知っているけど、別に話したことはほとんどない連中だった。俺は彼女たちを無視して、相澤さんだけに視線を固定したまま言った。


「相澤さん話があるんだ」

「話ならここでーー」

「ついてきて」


 俺は相澤さんの腕を引いて教室を出た。廊下とつかつかと歩き、学校の外に出て昨日のあの場所へ向かった。人がいなくて、二人で話すにはぴったりだった。

 俺は手を話して深く息を吐いた。そして振り向いて相澤さんを見た。


「一体どういうつもりなんだ」

「どういうこと」


 どぼけるつもりか。

 相澤さんは何も知らない顔をして俺を見つめた。


「俺が君と付き合うって噂。相澤さんに流したんだろ」

「あたしが? 違うよ」

「どぼけるな。君が流したんだろ」

「あたしが流したって証拠あんの?」


 証拠は・・・・・・ない。けど


「あんなことするやつ、君しかない。そもそも昨日のことを知ってるのも俺と君だけ。だったら犯人は君しかない」

「え、樽井くんが流したんじゃなかった? あたしはてっきりそう思って」

「俺にそんなことできると思う?」

「もち・・・ふふっ、ごめんね。言われてみればそうだね。樽井くんには無理だね」


 納得させたが、なんかバカにされた気がした。でも事実だからなんて言えることはなかった。

 俺は噂を流せるほどの人間関係を持ってないから。学校で友達といえば雛と聡樹くらいだし、噂を広めたくても噂を流せる能力が俺にはなかった。


「やっぱ君が流したんだろ」

「ふーん、それはどうかな。あたしだって決めつけるのはちょっと早くないかな」

「どういうこと」

「昨日樽井くんと私以外にもう一人、この場所にいたでしょ」


 もう一人・・・あ、昨日相澤さんに告白してた先輩。そういやあの人の前で、相澤さんの彼氏だって言ってた。


「あの先輩が犯人じゃないかな」


 その可能性を考えてなかった。振られた腹いせに、学校中に噂を広めた可能性もある。そうだとしたら、相澤さんも俺と同じ被害者で、犯人はあの先輩ーー


「いや、待て」


 一つおかしなところに気づいた。


「それはあり得ない」

「あり得ないって、どうして」

「あの先輩、俺の名前知らないから。名前も知らないのに、どうやって俺が彼氏だって噂を流すんだ」


 相澤琴音と樽井律が付き合う。という噂を立てるには、まず俺の名前を知る必要があった。でも、昨日のあの先輩は俺のことなんて何一つもわからない。だって俺はあの先輩と一度も話したことがないんだから。相澤さんみたいに有名人ならまだしも、俺はそうじゃないから。静かで存在感が薄くて、学校にいることすら知られていない普通な男子高校生だ。だから、あの先輩が俺を知っているわけがない。


「君はあれができると思う?」

「・・・・・・」

「だから、こんな噂流せるのは相澤さんしかいないんだ」

「・・・チッ」


 相澤さんは顔を顰めて舌打ちした。


「樽井くん思ったより頭いいね」

「やっぱり相澤さんが」

「そうよ。あたしが犯人よ。あたしが流したの。樽井くんと私は付き合ってるって」


 やっと犯人が自分の犯行を認めた。

 俺は相澤さんをまっすぐに見つめた。


「なんでそんなことしたんだ」

「昨日言ったでしょ。彼氏がいないと告白されるって。だから、あたしが告白されないように、樽井くんに彼氏役をやってもらいたいって」


 あれは昨日聞いた話でわかっていることだった。俺が本当に聞きたかったのはーー


「何で俺なんだ」


 どうしても理解できなかった。昨日相澤さんが言ったように相澤さんの彼氏になりたがる奴が山ほど多い。この学校で、相澤さんに「付き合って」と言われて断る男子は多分いないだろう。

 だからこそ理解できなかった。自分の彼氏になりたがる人がこんなに一杯いるのに、この学校の誰とも付き合えるのに、どうして俺なんだ。一体なんで彼氏になりたがる奴らを置いておいて、彼氏になりたくない俺に「彼氏になれ」って押し付けるのか、どう考えても理解できなかった。


「君の彼氏になりたがる人は一杯いるだろ。あいつらに頼めばいいだろ」

「まあそれはそうだけど、あたしの彼氏役にふさわしい人は樽井くんしかない」

「なんで」


 俺の問いに、相澤さんはニヤリと笑った。そして相澤さんの口から出た答えは全く予想外のものだった。


「あたしが樽井くんのこと好きだから」

「・・・・・・」

「なにその反応」

「あのさ、冗談はやめてくれる? 俺のことが好きだなんて、絶対嘘だろ」

「・・・残念。まさかこんな簡単に見抜くとは。演技は完璧だったと思うけど」


 そんな雑な嘘に騙されるか。


「で、本当の理由はなんだ」

「本当の理由・・・」


 相澤は口元に指を当て考えた。しばらくして彼女はいいことが思い出したかのように、ニヤリと笑った。


「樽井くんならガチ恋しなさそうだから」

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