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5話 大事にし合うもの

 授業が終わった後、休み時間になって相澤さんに声かけようと思った。学校中に広まっている噂をどうするつもりかと。でも、声かけることができなかった。相澤さんの周りに人が多かったから? もちろんそれも理由の一つだった。けど、それだけではなかった。


「樽井ってガチで相澤と付き合ってんの?」

「彼女がいるってガチ?」


 俺の周りにも相澤さんに負けないくらい人が集まっていたからだ。授業が終わるや否や、待っていたかのように俺の席に押し寄せてきて、噂が本当なのか聞いてきた。


「相澤といつから付き合ったんだ」

「違うって!」


 そう聞かれるたびに、俺は必死に否定した。ここまで激しく否定する必要があるのかと思うほどに。


「でも相澤さんはガチだって言ってたぞ」

「相澤はお前と付き合ってるって」

「だからそれは・・・はぁ」


 なんてはっきり言えることがなくてため息しか出なかった。噂の中心人物である俺さえ今の状況を把握しきれていなかったため、なんて言えばいいかわからなかった。下手なこと言ったら自分が不利になる可能性もあったので、言えることは「違う。付き合ってない」しかなかった。


「とにかく違うから、どけ」


 俺は席を立って人混みをかき分けて教室を出た。そしてそのまま聡樹の暮らしに避難した。


「で、ここに来たってわけ?」

「そう」

「うちのクラスに来るのは構わないけどさ・・・俺の席からどいてもらえるかな」


 聡樹の顔は笑っていたが、同時に苛立ちも見えた。


「お前の席以外に座るところないんだ」

「まるで俺に席が二つ三つあるような言い方だね。俺だって席一つしかないからな」

「じゃあ目に座れ」


 俺は空いている前の席を指さした。誰の席かわからなくて座らなかったが、聡樹ならその席の主と知り合いだろうし、座っても問題ないと思った。

 聡樹は深くため息を吐き、俺が指さした席に座った。


「あんなに人が押し寄せてくるなら、寝たふりすればいいだろ。机に突っ伏して」

「それやってみたが、無駄だった。起こされた」

「うえっ、そりゃひどいね」


 高校生活約二ヶ月の中で、今日が一番人と話した日だと言っても過言ではなかった。多分、入学してから昨日までの会話数を全部足しても、今日より少ないだろう。

 ある意味では高校デニュー成功と言ってもいいくらいの注目だったが、俺にこんな注目はお断りだった。全くいらない。俺はただ卒業するmで静かに過ごしたいだけなんだ。


「まあ相手が相澤さんなんだから仕方ないか」

「は?」

「噂の主人公がお前じゃなかったら、俺だって他の奴らと同じことしたと思う。なんとあの相澤琴音の彼氏なんだもの。この学校の男子なら誰もが欲しがる」


 もちろん、その役が話題になるって十分にわかっていた。相澤さんがモテモテなのは俺だって知ってるから。でも、俺はあいつの彼氏なんかなりたくないっつっての。できれば譲りたいんだ。


「いっそ本当に付き合っちゃえ」

「は? お前何言ってるんだ」

「相手がなんと相澤琴音じゃん。せっかくあんなに可愛いこと付き合ってるって噂まで立ったんだから、いっそ本当に付き合えば?」


 まあ普通はそう思うだろう。だって相手はなんと学校のアイドルだって言われう相澤琴音。普通の男の子ならこの噂に感謝するはずだった。だが、さっきも言ったように、面倒臭いのは大嫌いな俺にとってこれは全然感謝することではなかった。


「そりゃ違うだろ!」


 聡樹の声じゃなく別の声が聞こえた。高くて透き通る声。雛の声だった。

 そういや、雛もこのクラスだったな。

 雛と聡樹は同じクラスだった。俺だけクラスが離れてしまったが、別に気にしてなかった。


「恋愛っていうのはね、お互いが好きって気持ちで大事にし合うものなの。相手が可愛いからっていう軽い気持ちで付き合うのはアウトのよ」


 いかにも少女(おとめ)らしい理由だな。間違ってはいないけど。

 でもぶっちゃけ、俺は恋愛になんの理想も期待も持ってないから、相手を大事にするとか相手に大事にされるとか、どうでもよかった。ただ面倒臭いのが嫌いなだけだった。


「律、付き合わないよね?」


 雛が指さしながら鋭い目で睨みつけた。


「あんた相澤のこと好きじゃないから、相澤と付き合わないよね?」

「そ、そりゃあもちろん」


 なんか雛はいつもと雰囲気が違かった。少し怖かった。

 俺の返事に満足したのか、雛は微笑んだ。隣でじっとみていた聡樹が言った。


「で、これからどうするんだ。もう学校中に噂広まってるけど」

「とりあえず相澤さんと話してみる。それで、相澤さんに噂が嘘だってみんなに言ってもらうつもりだ」

「それで解決するかな」

「そう願うしか」


 正直、この問題についてこれ以上考えたくなかった。面倒臭いし、考える暇もなかった。休み時間になるたびに話しかけてくるやつらがいたから。一人で静かに考え込んでいる暇がなかった。


 聡樹は眉間に皺を寄せて俺を見つめた。


「ふーむ」

「なんだ、その目は」

「もし相澤が嫌って」


 聡樹がなんと口を開いた瞬間、チャイムが鳴った。授業の始まりを告げるチャイムだった。

 教室に戻らないと。

 俺は立ち上がった。


「俺行くね」


 授業に遅れないため、急いで自分の教室へ戻った。そういやこの授業が終われば昼休みだった。昼休みには絶対相澤さんと話してみよう、と思いながら教室のドアを開けた。

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