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4話 本当に付き合ってるの

 付き合うんだって? 俺が? 相澤さんと?

 ・・・どうやら俺まだ寝ぼけているようだ。目の前の人の話もちゃんと聞き取れないな。


「ごめん、ちょっと今眠くて、もう一回言ってくれる?」

「今学校に律と相澤が付き合ってるって噂が広まってるんだよ」

「・・・・・・」

「律?」

「・・・つまり、俺が付き合ってるってことだよね? あの相澤さんと」

「「そう」」


 まるで待っていたかのように、雛と聡樹が同時に答えた。


「ふざけんなああああぁ!」


 俺が相澤さんと付き合うんだって? 一体誰だ。一体誰がそんな根拠のない噂を学校に広めた。・・・まさか相澤さんが?!

 俺はすぐ教室の中へ視線を向けた。相澤ささんの席に鞄がかかっていたが、本人はいなかった。


 こんなことする人は俺の知る限り一人しかいなかった。間違いなく相澤さんが犯人だ。相澤さんは一体どこへーー


「律、本当に付き合ってないよね?」

「付き合ってねぇ!」


 雛の問いに、俺はすぐに否定した。雛は少し驚いたように体をビクッとさせたが、すぐに落ち着いた様子で息を吐いた。


「やっぱり嘘だったよね。まあ私は最初から知っていたわ」

「確かに。律に恋愛なんてありえないな。俺がテストで百点取る方がより信憑性ある」


 聡樹の言葉に「それは違う」と突っ込みたかったが我慢した。今はそういうところじゃない。早く相澤さんを見つけて今の状況を解決すべきだった。


 でも、どこに?


 普段相澤さんとあまり関わりがないため、相澤さんが行きそうな場所がわからなかった。ホームルームの前に何をするのか、休み時間にどこにいるのか、誰とよく遊ぶのか、誰と仲がいいのか、相澤さんについて何も知らなかった。


「あっもうすぐホームルーム始まっちゃう。噂が嘘だってわかったから、私はクラスに戻るわね」


 雛は軽く手を振って教室へ戻って行った。さっきまでの慌ただしさは、いつの間にか消えていた。


「じゃ、俺も」


 続いて聡樹も自分のクラスへ戻っていった。

 俺は教室の中へ顔を向けた。


「とりあえず教室で待つか」


 相澤さんがどこにいるのかはわからないが、このクラスの生徒である限り授業になれば教室に戻ってくるはずだった。だったら、俺がわざわざ探し回る必要はない。ここでじっと待っていれば、相澤さんの方から現れるはずだった。

 そう思って俺は教室に入り、机に鞄をかかって椅子に座った。


「あれ本当かな」

「樽井が相澤と」


 教室のあちこちから、ヒソヒソ話す声が聞こえてきた。俺は気にしないようにした。気にしたくもないし、余計なやり取りなんてめんどうくさかったのでなるべく避けたかった。

 俺は窓の外を眺めた。


 しばらく後、教室の前のドアの方から賑やかな声が聞こえてきた。誰か確認するためにちらっと視線を向けた。四、五人くらいの女子たちが教室に入ってきていた。ざっと確認してまた窓の外を眺めようとした瞬間、目が合ってしまった。

 グループの中心にいる相澤さんと。


 見つけた。


 今すぐ問い詰めるつもりだった。

 一体どういうつもりだって。なんでこんな噂を流したって。これどうやって収拾するつもりだって、問い詰めるつもりだった。しかし、俺が立ち上がると、相澤さんは顔を逸らした。あれは露骨に目を逸らしたのだった。


「あのやろが」


 それでも俺は彼女の方へ歩いていった。三歩ほど踏み出したんだろうか、先生が教室に入ってきた。


「席に着きなさい。ホームルーム始めます」


 なんでこのタイミングで。

 みんなが席に座ったのに、俺だけ立っていると目立ってしまう。そうなると、先生に「どうして立ってるの」「早く席に戻りなさい」と言われるに間違いない。それだけは遠慮だった。俺はやむをえず席に戻るしかなかった。


 ホームルーム終わってから、休み時間に話せばいい。


 そう思ってひとまず相澤さんとのことは後で話すことにした。だが、それは安易な考えだった。


 ホームルームが終わるや否や、俺は勢いよく立ち上がった。そしてすぐに相澤さんの席へ向かった。いや、向かおうとした。


 なんだ、あいつらは。


 どうやら相澤さんに話しかけたい人は俺だけじゃないみたい。誰よりも早く動いたと思ってたのに、すでに相澤さんの席の周囲には人だかりができていた。そこにはうちのクラスだけじゃなく、他のクラスの生徒まで混ざっていた。


 ホームルーム終わったばかりなはずなのに。


 わかってはいたけど、相澤さんの人気を改めて実感した。っつか、いつもより多くない?


 これじゃ相澤さんに問い詰めるどころか、近づくことすらできなかった。

 あいつら何をあんなにはしゃいで話してるだろう。

 多くの声が混ざって何を話しているのか聞こえなかった。だが、なぜか俺の名前だけは何度も聞こえてきた。


「相澤本当なの」

「樽井と付き合ってるってマジ?」


 あ、あれか。どうやら今、俺は学校で話題になっているみたい。


「うん。付き合ってるよ」


 ・・・? ちょっと待って、相澤さん? 今「うん」って。

 いやいや、そこで「うん」と肯定しちゃダメだろ。俺たち付き合ってないだろ。

 今すぐにでも「違う」って「あの噂は嘘だ」って否定したかった。しかし俺が相澤さんの席に行こうと思った瞬間、いきなり誰かに呼び止められて、その場で足が止まってしまった。


「樽井、あれマジか」


 誰だ。こいつは。

 見たこともないし、話したこともない男子だった。


「マジで相澤と」

「は? お前誰」

「ご、ごめん」


 怯えたのか相手は謝ってそのまま教室を出ていった。

 そうだ、こんなことしてる場合じゃない。早くあいつらに付き合ってないって言わないと。


「全員席に着け。他のクラスは教室に戻れ」


 またこのタイミングで先生かよ。

 今日は本当にツイてないな。

 先生の声に、相澤さんの席を囲んでいた生徒たちは次々と自分の席へ、自分のクラスへ戻っていった。人々が動いてできた隙間から、相澤さんと目が合った。相澤さんはニヤリと気持ち悪い笑顔を浮かべた。


 あのやろ。


 イラッとして相澤さんのところへ大股で歩き出そうとした瞬間だった。


「樽井、席に座れ」


 先生に呼び止められた。周りを見ると、立っているのは俺だけだった。みんなの視線がこっちに向いていた。

 仕方なく相澤さんとのことはまた後回しにするしかなかった。俺は相澤さんを睨み、席へ戻った。

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