3話 起きたくない
強く照りつける朝日に、俺は眉を顰めながら目醒めた。
「ああ、起きたくない」
甘い夢の中で目醒めたくなかった。ベッドから一歩も出たくなかった。今起きれば、歯を磨いて顔を洗って制服に着替えて学校に行かなければならない現実が俺を待っていた。
「めんどうくさい」
学校に行きたくなかった。学校に行かなければ、少なくとも三、四時間は寝られるのに。今日学校休もうか。なんとなく嫌な予感もするし。
「・・・でも行かないと」
俺なんて一日休んでも誰も気づかないだろうと思うが、もし誰かが気づいて「樽井、今日学校休んだみたい」って言い出したらすっごくめんどうくさいことになってしまう。
翌日学校に行ったら、「昨日欠席したよね。なんかあった」と聞かれるに違いないし、いちいち答えなければならない。個人的にこっちがめんどうくさくて嫌いだった。学校では寝るとかぼーっとしているとか、適当に時間潰せばいいけど、人と会話するには多くのエネルギーを必要だった。考えてから答えなければならないし、相手の顔色を伺いながら話さなければならないから、嫌いだった。
俺は深くため息をついてゆっくりとベッドから起き上がった。スマホを手に取って時間を確認した。7時半だった。遅刻せずに学校に着くためには、少なくとも五十分には家を出なければならないので、今から準備を始めるしかなかった。
まだ眠い体を引きずりながら洗面台へ向かった。鏡に映った自分をぼんやり見ながら歯磨きをした。
そういや昨日相澤さん静かだったな。
ふと昨日のことが思い出した。昼休みに突然相澤さんに「付き合って」言われた。断ったが、相澤さんに何をされるかわからなくて不安な気持ちで教室に戻った。しかし予想と違って相澤さんは静かだった。俺に話しかけないし、いつものように普通に友達と話していた。休み時間にも、放課後にも、相澤さんは俺に何も言わなかった。たまに、俺を睨むことはあったけど、直接声をかけることはなかった。放課後には俺帰宅部だから、すぐ帰ってしまって、声をかけることができなかったんだろう。
多分、諦めたんだろう。
そもそも俺と付き合うって言っても誰も信じれくれない。学校で存在感のない普通の男子生徒が、学校のアイドルと付き合うって言っても、人々は「馬鹿なこと言うな」って誰も信じないに間違いない。
相澤さんも馬鹿じゃないし、だから諦めたんだろう。
俺にとっては幸いだった。恋愛経験はないが、周りの話を聞いてみると、すごくめんどうくさそうだった。相手の気持ちを考えるべきだし、好きなだけ表現しないといけないし、定期的に待ち合わせして、デートしなければならないし、連絡したり、自分の時間を投資する・・・本当にめんどうくさいことばかりだ。
相手のことが本当大好きなら、損だと思わず、その人のために行動するのが幸せだと言うが、俺はmだよくわからない。
誰かを好きに鳴ったことがないからかな。
まだ誰がを好きに鳴ったことがないから、全部めんどうくさいと思ってしまうのかもしれない。いつか、好きな人ができて、俺にも好きな人と過ごす時間をめんどうくさいと思わない日が来るかもしれない。でも今は違う。そして、その相手が相澤さんなら尚更。
別に相澤さんを嫌ってるわけではない。可愛くてモテモテで、誰もが付き合いたがる女の子だ。だから相澤さんとは付き合いたくないのだ。そんな人と付き合ったら嫉妬や妬みを受けることになってしまう。それを受け止めるのが嫌だから相澤さんと付き合いたくないのだ。
「余計なこと考えるのやめよう。頭痛い」
俺は歯ブラシを置き、口をゆすいだ。考えたところで何の得にもならないことだった。
俺は部屋に戻り、制服に着替えて鞄を持って家を出た。
しばらくして、無事に学校に着いた。
「暑い」
まだ六月にもなってないのに、もうこんなに暑いとは。今年の夏をどう乗り切れっていのか、地球に文句を言いたくなる天気だった。
急いで日差しを避け、校舎の中に入った。
椅子に座りたい。
下駄箱で靴を上履きに履き替え、教室へ向かった。
「あいつだよね?」
「そうみたい」
なんだろ。
今日に限って廊下が騒がしい。みんなヒソヒソ話している。なんか俺を見てコソコソ話しているみたいだが、気のせいだろう。
俺はあえて気にせず、教室へ向かった。教室のドアを開けると、クラス全員の視線が俺に集中した。ドアが開いた瞬間、一瞬注目されるのは当然のことだった。普段でもよくあることだったから。
特に気にする必要は・・・あれ? なんでずっと俺を見てるんだ。普段なら誰か確認してすぐ目を逸らしたのに。
「律」
背筋がゾッとした時、聞き慣れた声がした。声の方を向くと、背の高い男の子と、背の低い女の子がこちらに向かって走ってきていた。二人とも俺の友達だった。
背が高く黒髪ではっきりした顔立ちの男の子は藤宮聡樹。その隣の背の低い茶色のボブヘアで犬顔の女の子は泉雛だった。
雛は小学校の頃からの幼馴染で、聡樹は中学校で親しくなった友達だった。
「二人ともどうした」
「「大変だよ。今学校にぢだきがでが」」
二人が同時に言う上に、早口すぎて何言っているのか全く聞き取れなかった。
「ちょっと落ち着け。一人ずつ話して。一体何があったんだ」
俺の声に、二人はお互いをじっと見つめて頷いた。そして雛が代表で口を開いた。
「学校にあんたと相澤が付き合ってるって噂が広まったのよ」
「・・・はあ?!」
それは一体・・・。
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