54話 なんでも券
相澤がうちに来てから一週間ほど経った。一週間の間、俺の生活パターンは大きく変わらなかった。ゲームをしたり、アニメを観たり、スマホをいじったり、怠けたライフを送っていた。
「うああーやっとクリアした」
伸びをしながらキーボードから手を離した。三日かかったボスレイドをやっとクリアした。達成感と同時に目が疲れた。俺は椅子から立ってベッドに寝転がった。そして枕元に何時間も放置しておいたスマホを取った。
「え、連絡めっちゃ来てる」
スマホにメッセージの通知が百個以上来ていた。確認してみると、ほとんどが日菜と聡樹とのチャットルームだった。
「こいつらどうしたんだ」
珍しいことだった。実はこのチャットルーム普段は静かだ。あまり使わない。普通は別々で連絡することが多い。こう一緒にいるルームでやりとりするのは珍しいことだった。
俺は気になって通知を押した。
「多いっ」
何時間も放置したため、結構会話が積もっていた。最初のやつはあんまり重要じゃないだろう。最後になんの話をしていたのか読んでみよう。
俺はスクロールを下げて最後の会話を読んだ。
『どう?』
『一緒に行く?』
『今ばあちゃんちだから行けない』
『律は?』
日菜の疑問符で会話が終わっていた。
一緒に行こうって。どこ言ってるんだろう。
ちょっとスクロールしてちょっと前の会話を読んでみた。
『今週、祭りある』
『おもしろそう』
『一緒に行きたい』
あ、祭りのことだったか。そういや今週祭りか。興味なくて全然知らなかった。
「祭りか」
子供の頃は日菜とよく行った。俺が行きたかったというより、日菜が一緒に行こうって誘ったからついていった。そして中学生になってからは聡樹と知り合って聡樹も一緒に行ってた。そういや去年は聡樹いなかったな。急用ができて日菜と二人で行った。
「今年はパスしよっか」
祭りみたいに人が組んでる場所はうるさくて嫌いだ。今までは日菜が行きたいって駄々をこねたから仕方なく一緒に行ってあげたが、今年は家で休みたいから。
『俺も行かない』
三時間前のメッセージに返事するのはなんか『今更』って感じが強くて拒否感があったが、ちゃんと返事しないとあとで小言を言われるから。
「返事も送ったし、一眠りするか」
まだ午後四時だが、すごく眠かった。夏休みになってからは生活リズムがめちゃくちゃになってしまって夜や昼を問わず眠いとすぐ寝た。
スマホの画面を消して目を瞑った瞬間、振動が鳴った。
「はやっ。もう返事きた?」
またスマホを開いてみた。日菜からの返事だった。
『なんで』
『約束でもある?』
『どうせ暇でしょ』
鋭いやつ。なんて誤魔化せばいいんだ。祭りあんまり行きたくないのに。でも、行きたくないと素直に言ったらあいつ拗ねるから面倒だし。ああ、どうすればいいんだ。
悩んでいる最中、また振動した。
『彼女と約束あるんじゃねえw』
聡樹からのメッセージだった。
彼女。そういや、先週のあれは結局なんだったんだ。
「今週予定あるって聞いたくせに連絡ないな」
気にしてなかったのに、彼女という言葉を見てふと思い出した。先週見送ったとき、約束あるって聞かれた。それから一週間が過ぎたのにいまだになんの連絡がない。なんかデートの約束をしたくて聞いたような気はするけれど、連絡がないからわからない。
「一応約束あるってことにしとくか」
相澤と先約があるって断ったら日菜も諦めてくれるだろう。そして、突然相沢に連絡きてデートしようって言われるかもしれないし。
『実は今週約束あ』
返事を打っている途中、通知が一つ来た。名前をみると・・・
「相沢?」
瞬間目を疑った。俺の見間違いではないか。相澤のメッセージなのか。疲れて目が壊れてしまったのか。でも何度見直しても通知に書いている名前は相澤だった。
「噂をすれば。なんで急に連絡を」
俺は返事を打ちかけたまま、相澤のメッセージを確認した。
『ヤッホー』
『今なにしてた』
今? 今、別に何もしてないんだが。
『寝る』
『まだ四時だよ?』
『また夜更かしした?』
返事するとすぐ返事が返ってきた。俺はすぐに返事を送った。
『うん』
『やっぱり』
『夜更かしは良くないよ』
『早く寝てよ』
『お母さんか』
『草』
『それより』
『今週予定ないでしょ』
またそれか。日菜が一緒に祭りに行こうって誘ったけど、まだオッケーとは言わなかったから。
『ない』
『よかった』
『あと、それ覚えてるよね?』
『あたしなんでも券持っていること』
なんでも券なら・・・あ、期末テスト。期末テストのあれか。
期末テストの点数勝敗で残敗して相澤が言うこと一つなんでも聞いてあげないといけなかった。
『覚えてる』
『今使うつもり?』
『うん』
『なんでも聞いてあげるよね?』
いきなりなんでまた聞くんだ。一体何を願うつもりだ。
ちょっと怖くなり始めた。相手が日菜や聡樹だったら「早く言えよ」って余裕に聞いてあげられたが、相手は相澤だ。何を願うのかわからなくてさらに怖い。
「でも約束は約束だから」
今更なかったことにするのは卑怯だ。
『そう』
『早く言って』
そう送って返事を待った。でもなぜだろうか。なかなか返事が来なかった。いつもすぐ返事が来てたのに、今度は結構かかるな。一体何を願うつもりだ。まさか長すぎてまだ打ってるのか。
時間がかかるとかかるほど不安も一緒に膨らんでいった。
何分過ぎたのか。ヒヤヒヤして待っていると、ついに相澤から返事が来た。
『あたし、りんご飴食べたい』
え? これどういう意味?
相澤の返事を読んだ俺の頭上に疑問符が浮かんだ。




