53話 来週予定ある?
「相澤さっきから何をニコニコしてるんだ」
相澤と家を出てから十分。家を出てからずっと相澤はニコニコと笑っていた。
「樽井が家まで見送ってくれるのが嬉しくて」
「俺は全然嬉しくないが」
疲れてるし、部屋で寝たい。
「こんなかわいい美少女を見送ってくれるのだよ。もっと喜べ」
「わああ」
相澤の要求に従って歓喜の声を上げた。しかし満足できないのか相澤は目を細めて俺を見つめた。
「何その目は」
「いや、それ喜びの歓声じゃないじゃん。喜びという感情より面倒くさいからやってやろうという気持ちが込められているじゃん」
図星だった。恐ろしい。なんでわかった。
「その表情、やっぱそう思ったよね」
「なんでわかった」
「まあ樽井はわかりやすいから」
相澤はプハハっと笑い大股に歩いていった。
「でもありがとう。寝不足なのに、わざわざ見送ってくれて」
「二対一で押しつけられたらどうしようもないだろ」
「あたしが知ってる樽井は嫌だったら二体1であろうが三体1であろうが断るだけど」
「まあそれはそう」
実際相手が何人あっても俺がやりたくないことなら嫌だって言い切るタイプだ。
「なのに、家まで見送ってくれるってことはあたしを大切にするってこと?」
「いや、ただ相手が強かっただけ」
「その相手ってあたしのことなの?」
「まあ確かに君も厄介な相手なんだが」
実際、相澤の頼みはほとんど聞いてあげた。むしろ聞かなかったことある? 全部聞いてあげたと思うんだが。
でも、今俺が言ってる強い相手は「母さん」だった。
「そこで断ったら今頃殺されたんだろう」
「あたしは樽井を殺すつもりはないんだけど」
「そういう意味じゃない」
っつか、君も共犯だろ。
「あ、ここでいいよ」
曲がり角の前で相澤が立ち止まった。
「本当にここでいいのか」
「うん。ここで真っ直ぐにいけばお家だから。樽井も疲れてるでしょ」
「そう見える?」
「クマがひどいよ」
相澤は俺の目を指さした。鏡を持ってなくて自分の顔は見られないけど、どうやら目の下のクマがひどいらしい。
「じゃ、お言葉に甘えて俺はここで帰るね」
「ちょっと待って」
いきなり相澤は俺の腕を掴んで引き止めた。
「聞きたいことあるんだけど」
「なに」
「その・・・」
珍しく相澤ははっきり言えずにおずおずとした。いつもならすぐ自分が聞きたいことを聞いたはずなのに、おずおずとする姿はなんか相澤らしくなかった。
しばらくおずおずとした相澤は目をぎゅっと瞑ってついに口を開けた。
「来週に予定ある?」
「来週?」
俺はちょっと記憶を探ってみた。約束とかあったか。しかし、そうする必要がないと悟るまで五秒すら掛からなかった。俺が夏休みに待ち合わせなどするはずないんだから。
「いや、ないよ」
「そう。ならいいよ。またね」
相澤は手を振って、急用があるかのように自分の家の方へ走っていった。
「なんであんなこと聞いたんだろう」
と疑問だけが残ったまま俺は家の方へ足を向けた。
しばらくして、家に着いた俺はヘトヘトになった状態で玄関で靴を脱いだ。
「相澤んち遠すぎる」
体感では一時間ほど歩いた気がした。蒸し暑いし、汗かいてベタベタする。
「おかえりなさい」
家に入ると、待っていたかのように母さんが居間から出てきた。
あの怪しい笑み。面倒くさい匂いがする。
「彼女可愛いね。なんで彼女いるって言ってくれなかったの」
「聞かなかったから」
「また連れてきてね。もっと知りたいから」
「わかった」
俺は適当に答えてすぐ俺の部屋に入った。眠いし疲れたせいで早くベッドに寝たかった。
部屋に入ると、俺はすぐベッドに飛び込んだ。枕に頭をつけてちょっとスマホをいじろうとした。だが、スマホの画面をつけてから、記憶が途絶えた。




