55話 本当の恋人に
「遅いね」
薄暗い夕暮れ。人々が通り過ぎる街の隅っこで俺は相澤は待っている。
「約束時間すぎたのに、なんで来ないんだ」
スマホを見ると、もう五分すぎていた。こんな夕暮れに外に出て相澤を待っているのは他でもなくなんでも券のせいだった。
「まさかお願いとして一緒に祭りに行こうと言うなんて」
昨夜、相澤からメッセージが来てた。急にりんご飴が食べたいと言って何言ってるのかわからなかったが、祭りに一緒に行きたいってことだった。
「なんでも券で願わなくても祭りぐらい一緒に行ってやるのに」
どうせ一週間に一度くらいはデートするって約束していたし、祭りくらい一緒に行っても構わなかった。もちろん、デートしたってカウントしてくれることを前提に。
「っつか、こいついつ来るんだ。電話でもしてみようか」
真っ暗なスマホの画面を見下ろしながら悩んだ。
「いや、やめよう。すぐ来るだろう」
俺はスマホをポケットに入れた。まだ五分しかすぎてないし、行くって言った側が来ないはずないから待っていればくるだろう。その間、ぼーっとして待っていればいいと思った。
「そういや、日菜は結局祭りに来ないのかな」
昨日一緒に行くって誘われたが、相澤と行くことになって一緒に行けないと言った。まあ友達と来ただろう。俺が気にするもんじゃない。
日菜のやつ友達多いから、俺じゃなくても一緒に祭りにくる人はいるだろう。
そんなこと考えんがら待っていると、遠くから聞き慣れた声が聞こえた。
「樽井」
人混みの中から手を振りながらこっちへ走ってくる相澤の姿が見えた。人混みの中でも輝くあの外見は周りの人々の目を引いた。元々人を振り向かせるかわいい見た目をしているが、今日は普段の倍だった。だって・・・
「浴衣、着てる」
予想外だった。俺みたいに適当に私服を着てくると思っていた。なのに、浴衣なんで。
「待たせてごめんね。浴衣着るの時間かかちゃった」
「いいや、いいよ」
なんか目を合わせない。相澤の浴衣姿が可愛すぎたせいか、なんか別人みたいで気まずい。
「樽井なんかさっきから目避けてるんじゃない? なになに。あたしの浴衣姿が可愛すぎて目を合わせないの?」
「そ、そんなわけだろ」
「ほお、それはそれは怪しいですね。強い否定は強い肯定なのよ」
相澤は意地悪な表情をしながら揶揄った。図星を突かれて顔が熱くなった。今、それを相澤にバレたらすごく揶揄うだろう。俺は慌てて顔を逸らした。
「いいから、もう行こうよ」
樽井は祭り会場に足を向かった。そんな樽井と違って相澤はじっと立って樽井の背中を見つめながら独り言を呟いた。
「今日、告白するんだ。勇気を持って」
そう自分に言い聞かせながら心を強く持った。
「相澤は離れるかもしれないからちゃんとついて・・・相澤は?」
人混みをかき分けて歩いた樽井は後ろに相澤がいないことに気づいた。
「相澤どこへ・・・なんだそこにいたのか。何してるんだ」
樽井はさっき待ち合わせの場所にぼーっと立っている相澤を見つけた。樽井の声に相澤は首を横に振った。
「なんでもないよ。早く行こう」
相澤はいつもの笑顔で樽井のそばに走っていった。
今日こそ、この偽りの関係を終わらせて本当の恋人になるのだ。
そう心に決めて樽井のそばに立った。




