51話 まず窓開けて
「ここが俺の部屋だよ」
俺は渋々と部屋のドアを開けた。相澤は部屋の中をキョロキョロとしながら中に入ってきた。
「ここが樽井の部屋だね。いやぁ、やはり汚いね。予想した通りだよ」
「直球かよ」
汚いのは事実だから、別に気に障ったりはしなかった。
「相澤が探すゲームは多分ここに」
「まず掃除しよう」
「・・・は?」
掃除って一体何を。
「こんなに汚いとどこに何があるか探さない。まずは掃除しよう。ゲームはその後に貸してね」
「掃除なら後で一人でもいいから」
「大丈夫大丈夫。あたし掃除は得意なんだから。今から一緒に掃除しよう」
そうじゃなくて、今掃除しなくてもいいんだって!
「二人でやればすぐ終わるよ。まず窓開けて」
「俺の話聞いてるよね?」
「もちろん。あたしはいつも樽井の言葉に耳を傾けてるのよ」
「聞いてたのか」
なのに、あんなことしたのかよ。
呆れて言葉が出なかった。それにも構わず、相澤は窓の方へ歩いていった。
それから俺はいやいやと相澤と一緒に掃除をすることになった。部屋の床に転がる漫画とゲームを本棚にしまってる中、相澤が漫画を見せながら尋ねた。
「樽井、これどこ」
「なに」
「このまんがああっ!」
「え、危ない」
相澤が俺に見せようと近づいてきた途中、床に転がっていた缶を踏んで滑られ転びそうになった。俺は慌てて相澤を捕まったが、防ぐに力不足だった。
え、ちょっ、これじゃ俺まで。
相澤の重さに耐えず俺までバランスを崩してしまった。その他m、結局俺もドンっと音を立てて後ろに倒れてしまった。
「痛ぇ、死ぬかと思った。相澤だいじょ」
「・・・・・・」
・・・ち、近い。
転んで目を開けてみると、目のすぐ前で相澤の顔が見えた。さっき一緒に倒れた時、彼女は俺の上に倒れ込んできたのだった。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
俺と相澤の間に気まずい沈黙が流れた。
やばい。顔が赤くなりそう。
事故であるがあまりにも近い距離感に、心臓が高鳴った。
心臓が落ち着かない。相澤にバレたら絶対揶揄うだろ。早く落ち着かないと・・・あれ。
相澤の両頬が少し赤くなっていた。
相澤もこの状況を意識しているのか。
誰も先に口を開けない気まずい空気の中、相澤が口を開いた。
「・・・た、樽井」
「う、うん?」
「えーっと、そ、掃除続けよう、か」
「あ、うん」
相澤は俺の顔すぐ隣に手をついて立ち上がった。俺もその後に続いて起き上がった。それからは、俺たちは一言も言葉を交わさなかった。正確には、交わせなかった。相澤はわからないが、ともかく俺はそうだった。彼女に何か話しかけようと思ってもさっきの場面が頭に浮かんでしまって、声をかけられなかった。
こうして気まずい空気の中で、俺たちは掃除を続けた。部屋の床に転がるゴミを捨て綺麗にすると、相澤は掃除機をかけてくれた。どれだけ時間が経ったのか、足の踏み場もないほど汚かった俺の部屋が時代に綺麗になっていき、やがてまるで新しい部屋のように清潔になった。
綺麗になった部屋の真ん中に立った相澤は、額を拭いながら言った。
「ふぅ、終わった。どう? 綺麗で気持ちいいよね?」
さっきのことなんて完全に忘れたような言い方だった。これに応えるように俺もいつも通りに答えた。
「うん。まあいいね」
「何よ。もっと素直に言ってもいいよ」
「ありがとう。掃除手伝ってくれて」
「どういたしまして」
相澤は明るく微笑んで答えた。どころで相澤が何の条件もなく掃除を手伝ってくれるとは、意外だな。いつも条件付きだったのに、素直に掃除を手伝ってくれるとは。
「じゃ部屋の掃除手伝ってくれたから、この一万円は全部あたしが貰ってもいいよね?」
「どういうこと?」
「いや、このゲーム樽井のダカラ、貸して貰ったら五千円ずつ分けるべきかなって思っ反田けど、今日掃除手伝ってくれたからお礼として樽井分の五千円まであたしがいただくね。それでもいいよね?」
「・・・・・・」
呆れて言葉にならない。
「まさか五千円が高いと思ってないよね? こんなにかわいいあたしが掃除を手伝ったんだから五千円は安いと思うんだが。ちょっとこれむしろ樽井があたしに払うべきじゃない?」
「はあ、そのお金全部君が持って」
「本当? それでもいいの」
相澤の問いに俺は頷いた。最初からそのお金を狙うつもりはなかった。
「それよりゲーム要らない?」
「要る。どこにあるの」
「さっき掃除しながらここにおいてた」
掃除中、相澤が探すゲームは机の上に置いていた。俺はそのゲームを相澤に手渡した。
「これで当てるよね?」
「うん。ありがとう」
相澤が明るい笑顔を浮かべた。
・・・可愛い。確かに可愛い。
彼女の明るい笑顔についぼっと見惚れてしまった。いつもと同じ笑顔なのに、なぜか今はその笑顔を見ていると胸が高鳴って落ち着かなかった。
いきなりなんだ。急に緊張する。
「じゃゲームももらったし、樽井の部屋にもっといたいけど、お兄ちゃんが帰る時間だからあたしもう帰るね」
「ん? あ、うん。玄関まで送ってあげるよ」
疑問を後にして部屋のドアを開けた。しばらくして、相澤と玄関に出た。
「今日はありがとう。ゲーム貸してくれて」
「じゃあ、前に言ってた週に一度はデートするってこと、これで今週は勘弁してくれない?」
「覚えてた? ちょっと感動した」
相澤は俺の右腕を小突いた。
「わかった。今日は十分デートみたいだったし、デートしたことにしてあげるよ。ありがたく思って」
「はいはい、ありがとうございます」
「いやいやとしてるみたいなんだけど」
「だって本気じゃないから」
「あは、今死にたいって遠回しに言ったよね?」
相澤がぎゅっと握った拳を見せながら脅迫した。
「早く帰って。俺寝る」
「はいはい。じゃ連絡してね」
「あら律、珍しいね。この時間に出かけるの?」
相澤が手を振ってやっと自由になりかけた瞬間、背中から聞き慣れた声が聞こえてきた。
え、なんでこの時間に家に・・・。
信じられなかった。信じたくなかった。どうか空耳であるようと願いながら振り返った。
「あら、あの子は友達なの?」
母さんが目を擦りながら中から歩いてきた。




