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50話 マジで頼む

 ゲーム屋さんに入った途端、相澤は真っ直ぐにショーケースの方へ駆けていった。相澤はショーケースの前でしゃがんだ。


 あんなに焦らなくてもいいのに。っつか相澤ここに詳しいね。どこに何があるかわかってすぐ走っていくし。

 俺は相澤の方へゆっくり歩いていった。


「どう。ある?」

「・・・ない」


 俺の問いに対する答えなのか、それとも独り言なのかわからない。ただ相澤がしょんぼりしているのはわかった。


「お兄ちゃんに頼まれたゲームがないよ。どうしよう。手ぶらで帰ったらギャーギャーうるさいんだよ」

「どんなゲームなんだ」

「これ」


 相澤はショーケースの中を指さした。ショーケースには数多くのゲームが並んでいるが、一本だけ空いていた。下のバーコードにゲームの名前が書かれてあった。


 あ、このゲームは・・・。


「俺、これ持ってるよ」

「え、マジ?」


 相澤は目をキラキラさせてこっちへ顔を向けた。俺は頷いて答えた。

 このゲーム結構話題になって発売日まで待ってたゲームだった。そのため、夏休み早々真っ先にプレイしてたゲームがこれだった。


「樽井、いや、律あたしお願いがあるんだけど」

「なに、その声」


 相澤は愛嬌たっぷりの声を出しながら、両手を合わせて上目遣いをした。その姿を見て鳥肌が立つほどゾッとした。


「このゲーム貸して欲しいんだけど、貸してもらえないかな」

「わ、わかったからその声やめてよ」

「マジ? やったあ!」


 相澤はすぐ地声に戻って歓声を上げて喜んだ。もう最後のクエストまでやり切ってエンディングまで見たゲームなので、貸しても構わない。


「でもゲーム家にあるから、次会うときに持って行く」

「それは困る。今日持って行かないと」


 相澤は小さく呟き、何か悩んでるように顎に手を当てた。多分、今日のうちに持って行かないと何かの不利益があるようだ。


「あ、じゃこうしよう。ゲーム持ちに一緒に行こう。家にあるって言ったよね? 今行こう」

「・・・それって今からうちに来るってこと?」

「うん。今日持って行かないとこれ取られちゃうんだ」


 相澤は一万円札を見せながら言った。


「だから今から樽井ちに行こう」

「今はちょっと」

「頼む」


 相澤はさっきと同じ愛嬌たっぷりの声で頼んできた。その声を聞いた途端、またゾッとした。


「わかったから、その声出すのはほんとやめて。マジで頼むから」

「どうして。可愛いから?」

「いや、逆だ。聞くだけでゾッとするからマジでやめてくれ。マジで」

「はあ?! 殺すよ!」


 相澤が拳を振り上げて立ち上がった。反射的に手を上げて防御する姿勢を取った。


「ゲーム貸してくれるから我慢する。早く案内して」


 相澤が俺の両肩を押して店の外へ出た。


******


 さっきは雰囲気に引きずられてわかったって言ったが、本当に連れていってもいいのか。

 もう覆水盆に返らずだから、今更考えても仕方がない。

 今日母さんと父さんは店で家にいないはずだから、マシだけど・・・そういや部屋の掃除したっけ。

 一週間ずっと部屋に引きこもって廃人みたいにゲームばかりしてたんだから、掃除なんてする暇などなかった。


「樽井まだなの?」


 後をついて歩いていた相澤が、不満そうに尋ねてきた。


「もう四十分は歩いたよ」

「ここさえ通れば着く。もう少しだけ我慢しろ」


 あと二ブロック進めば、うちだった。普段なら家に帰れる喜びで歩いていたこの道が、今は不安に満ちて歩いていた。


「ここだ」


 結局着いてしまった。


「うわ、いい家だね」

「そう? 普通だと思うが」


 特に相澤の家と大して変わらない気がするが。そんなこと考えながら、俺は家のドアを開けた。玄関を超えて中に足を踏み出した瞬間、いいことが思い出した。

 いや、家に上げる必要はなくない? 外で待っててもらって、すぐ持って降りればいいじゃん。


「相澤すぐ持ってくるから、ここで待ってて」

「いやだ」

「そう、すぐ持って・・・ん? 今なんて」

「いやだ」


 やだと? どういうこと。


「あたしも入る。樽井ち気になる」

「な、何言ってんだ。絶対ダメ。掃除してないから」

「大丈夫大丈夫。樽井ならそうだと思ってたから、期待しない。覚悟してる」


 覚悟するほどではないと思うが。


「あと、外は暑いよ。熱中病になったらどうしよう。病院に連れて行ってくれんの? お姫鮫抱っこで?」

「それは・・・ない」


 それはそう。今日の最高気温は四十度まで上がるってアップルさんが言ってた。こんな日に外で待たせて熱中病になったらすごく面倒臭いことになっちゃう。


「はあ、仕方ない。上がって」

「ありがとう」


 結局相澤を家に上げることにした。相澤ははしゃいだように玄関から上がってきた。


「お邪魔します」

「挨拶しても無駄だ。今家に誰もいないから」

「へぇ、そういうことは今この家にはあたしと樽井二人きりってこと? まさかあたしに変なことするつもりで・・・この変態っ!」


 相澤は自分を防御するような態度を取った。


「変なこと言うな。そのつもりはない。そもそもうちに来るって言い出したのも君だろ」

「プハハ、そうだったそうだった。冗談だよ。なにそんなに怒るのよ。で、樽井の部屋はどっち?」

「ここだ」


 俺は渋々と相澤を部屋に案内した。

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