49話 一緒に行ってくれる
「二人きりになっちゃったね」
傍に立った相澤はニコッと微笑んで言った。
「そういえばあたしたち久しぶりだね。夏休みしてから初めてだから一週間ぶりかな」
「多分そうだと思う」
今日が夏休みが始まってからちょうど一週間になる日なんだから。
「ふむふむ、これはこれはお久しぶりですね、樽井くん」
「何その言い方」
突然変な言い方を使う相澤だった。
「久しぶりすぎて気まずいんですよ。夏休みになって一度も連絡くれなかったし」
「君もくれなかっただろ」
「いつもあたしが先に送ったから、今度は樽井の番だと思うんだけど」
「それって俺の連絡を待ってたってこと?」
「まあそういうこと」
相澤は腕を組み頷いた。
「だから次は樽井が先に連絡してくれよ」
「まあ暇だったらな」
多分絶対しないと思うんだが。ゲームクエストはやり切ったし、次は溜めておいたドラマとアニメを観る番だ。だから、しばらく暇で相澤に連絡することは絶対ないと思う。
「じゃ俺ももう帰るね」
山田さんとの用事も済んだし、今日三時間程度しか寝てなくてすごく疲れたゆえに、早く家に帰りたかった。
俺は相澤に手を振って帰ろうとした。しかし三歩も進まず、相澤に腕を掴まれてしまった。
「ちょっとどこに行くの」
「さっき言っただろ。家に帰るって」
「そんなこと言ってるんじゃねぇ。あたしをおいていくつもり?」
俺は首を傾げた。
一体何が言いたいんだ。
「久々に会ったのに、あたしに構って」
「は?」
「由依ちゃんと二人で飯も食ったじゃん。あたしにも構ってよ」
こいつなんだ、いきなり。子供かよ。
俺の腕を掴んで子供みたいにわがままを言う相澤は、戸惑うっていうか、少し怖かった。
「あたし行きたいカフェあるから、付き合ってね」
「はあ、わかった。わかったから離してくれる?」
「うん。わかった」
俺の要求に、相澤はすぐに手を離してくれた。やっと自由になったと思った瞬間、相澤がまた俺の腕を掴んだ。
「相澤? なんでまた掴むんだ。さっき離してくれって言っただろ」
「で、離してくれたじゃん。これはその次だから別だよ」
「じゃあもう一度言う。離してくれ」
「いーやだ」
相澤はイタズラっぽく笑い、俺の腕にくっついた。ほぼ密着に近い距離感に体が固まった。
「じゃあ行こう行こう」
相澤が片手では俺の腕を掴み、もう片方の手では俺の背中を押しながらどこかで連れていった。俺の行く先もわからず、相澤に引っ張られていった。
まあこういうのは慣れているから。
相澤と一緒にいるとほとんどいつもこんな感じだった。行く先もわからないまま相澤に引っ張られていくこと。今ではもうすっかり慣れてしまってなんとも思わなくなっていた。
「あ、そういや相澤お使いに来たって言ってなかった? お使いは大丈夫?」
俺の言葉に、相澤が突然立ち止まった。そして、ぎこちない動きで振り返った。
「すっかり忘れていた。お使い」
相澤の瞳が揺れていた。あんなに慌てる相澤は初めて見た。
「どうしよう。今からでも間に合うかな。お兄ちゃんのやつめっちゃキレて発狂しちゃうよ」
相澤は爪を不安げに齧りながらつぶやいた。
「なんのお使いでそんなに慌ててるんだ」
「お兄ちゃんのお使い。ゲームの発売日を逃したせいで、売り切れる前に絶対買わないんだって。今日がギリギリだから、あたしに買ってこいってさ。ああ、ムカつく。自分で買いに行けばいいのに、なんであたしにお使いをさせてマジで死ねよ、バカお兄ちゃん!』
相澤は腹立ったように、足をドンドンと踏み鳴らした。
「じゃ最初から断ればいいだろ。なんで買ってこいって言ったんだ」
「樽井、一人っ子でしょ?」
「そうだけど」
「兄弟がいない人にはわからないよ。お兄ちゃんのお使いなんてさ、やりたいかやりたくないかで頼まれるもんじゃないよ。強制的に押し付けられるもんだよ」
「そうなんだ」
俺は兄弟がいないから、お使いって言っても親のお使いしかやったことない。
「しかも自分は約束あるからってあたしに買ってこいって、笑えるでしょ。でも、お金たっぷりもらったから悪くはないよ」
「いくらもらった?」
「一万円くらい。ゲームを買って余ったのは勝手に使ってもいいんだって」
ゲームのお使いで一万円。たとえゲームを買って余ったお金だけど、少なくとも三千円は残るから、悪くない、いや、お使いとしてはかなりいい収益だ。
「でも買って帰らなかったら、なんで買ってこなかったってギャーギャー騒ぐはずだよ。お金も取られるし。どうしよう」
相澤の目がくるくる回ってるようだった。俺は慌てる相澤の手を掴んだ。相澤はびっくりしたように目を丸くしてじっと俺を見つめた。
「行ってみよう。まだ売ってるかもしれないじゃん」
「え、一緒に行ってくれるの?」
「うん」
どうせ嫌って言っても無理矢理に連れて行くだろ。
「早く行こう。こうしてるうちに売り切れるかもしれない」
「う、うん」
俺は相澤の手を掴んでゲーム屋さんに向かった。




