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48話 プレゼント選び

 なんであんな顔で俺を見てるんだ。

 相澤がああいう顔をする時は、大体何か企んでいる時だった。


「ふーん、いっぱいありすぎて説明しづらい」

「じゃあ一つだけ。樽井のここに惚れて好きになった、っていう決定的なことを教えて」


 山田さんは諦めず、しつくこ食い下がった。あんなじゃ相澤に怒られるんじゃないか、と思う瞬間、相澤は口を開いた。


「決定的だったのは・・・・ちゃんと私のことを見てくれたとこ、かな」


 ん? 俺が? そんなことやったっけ。


「だから好きになっちゃったと思う」

「へえ、樽井やるじゃん」


 いや、そんな覚え全くありませんが。さっきもそうだし、相澤って嘘つくの慣れてるんだな。あ、これも演技の一つってことか。


「由依ちゃん悩みはそれだけ?」

「あ、もう一個あるよ」


 山田さんは人差し指を立てながら言った。


「もうすぐ健太の誕生日なんだけど、何をあげたらいいかわからないよ」

「誕生日っていつ?」

「来週」


 来週ならゆっくり考えてもいいんじゃないか。まだ時間はあると思うんだけど。


「来週なら時間ないじゃん」


 え? そうなの?


「でも男へのプレゼント・・・思いつかないわ。そうだ、樽井は何がいいと思う」

「知らん」

「もっと真面目に答えてよ」

「あた氏が聞いた時もそんな感じだったよ」

「いや、そう言われても」


 俺はその健太って人のこと、何も知らないんだ。顔すら見たことない相手に何を贈ればいいかなてわかるわけないだろ。


「ふーむ、じゃこうしよう」


 突然相澤はパンっと手を叩いて注目を集めた。


「せっかく会ったんだし、一緒にプレゼント選び行こう。役に立つかわからないけど、手伝ってあげるよ」

「ほーんとにぃ?」


 山田さんは目を輝かせた。


「それでもいいの? 琴音ちゃん予定あったんじゃない?」

「いいや、ちょっとお使いに出ただけだから暇だよ」

「じゃあお願いするよ」


 相澤と山田さんがはしゃいで話している間、俺はこっそり鞄を肩にかけて帰る準備をした。


「あ、もちろん樽井も一緒だよ。よね?」

「えっ、お、俺?」


 相澤に手をがじっと掴まれた。俺は慌てて山田さんの顔色を伺った。期待に満ちた目で俺を見ていた。


 ちょっと、そんな話聞いてないんだ。相談さえ終わったら帰らせてくれるんじゃなかった? なんで急に山田さんの彼氏へのプレゼント選びに付き合わなければならないんだよ。あと、さっきまで「役に立たないな」って呆れてただろ。

 と不満をぶちまけたい気持ちは山々だったが、あんな顔をする女を前であんなこと言うのは、人間失格な気がした。だから、俺は大人しく彼女らに従うしかなかった。


「わかった。付き合う」

「わあ」


 山田さんは両手をあげて喜んだ。俺は再び鞄を隣に置いた。


 帰りたい・・・。そう思ったけれど、それはもう叶わない願いだった。


 そうして俺は彼女らの後をついていった。店を出て商店街を歩きながら、どんなものがいいか楽しそうに話している山田さんと相澤の会話に馴染めず、俺は少し離れて歩いていた。


「こういうのは? お揃いシャツ」

「それはちょっと恥ずかしい」

「じゃあこれは」

「高っ、お小遣い足りないかなぁ」


 相澤は時計やシャツなど色々勧めていたが、ピンとこないのか山田さんはあれこれ理由をつけて断っていた。


 これ大丈夫かな。

 山田さんに断られるたび、一瞬だけど相澤の表情が曇るのが見えた。あれじゃ相澤が我慢の限界に達してすぐにでもブチキレそうで、取り返しのつかない状況になってしまう気がするな、と少し心配になった。


「これはちょっと高いよ」

「・・・お前さ」

「あ、相澤」


 相澤の口から悪口が飛び出しそうなのを察して、俺は急いで彼女の手を掴んだ。相澤はしばらく俺をじっと見た。俺は山田さんに聞こえないように小さく囁いた。


「我慢して。今まで頑張ってきたのが無駄になっちゃう」

「だって、ずっと嫌だって言うんだもん。ムカつくじゃん」


 相澤はイライラしているのか、少し声が荒げていた。正直、相澤の気持ちがわからないわけじゃない。もし俺が相澤の立場だったら「お前勝手に選べよ。俺帰る」って言って帰ったはずだ。


「っつか樽井はなんで後ろで黙ってるんだよ。樽井も意見出せ」

「俺?」


 別に何をあげればいいかわからないんだ。


「俺は、あの健太って人の顔も知らない」

「それはこっちも同じだよ」

「え、じゃあなんで一緒に選ぼうって言ったんだよ」

「面白そうだったから」


 ・・・それはそれはほんと正直な理由だな。


「あ、これはどうかな」


 俺と相澤がこそこそ話していると、山田さんが何か見つけたのか、こちらへ手招きした。俺と相澤は山田さんのところへ向かった。


「これどう?」

「財布だね」


 山田ヒヤんが財布一つ見せた。柄のない黒い財布だった。値段も手頃で、ほんと無難な財布だった。


「この前あいつの財布がボロボロになってるのを見たんだけど、財布をプレゼントしたらいいんじゃないかな」

「・・・・・・」


 それは最初から言えよ!

 って言いたかった。チラッと相澤を見ると、どうやら彼女も同じこと思ってるみたいだった。


「いいと思う。あの人に必要なものだから」

「私もそう思う」

「よし。じゃこれにする。お会計してくる」


 山田さんは財布を持って店の中へ入ってしまった。俺と相澤は外でじっと待った。しばらくして山田さんが店から出てきた。


「買ったよ。ありがとう。琴音ちゃんと樽井のおかげで選べた」


 別に俺は何もしてないと思うんだが。


「なら、来週どうなったか感想教えてね」

「うん。わかった」


 相澤の言葉に、山田さんは頷いた。


「じゃあたしは先に帰るね。二人ともまたね」


 山田さんは手を振って帰ってしまった。

 ・・・え、こうなると相澤と二人きりになるんじゃ・・・。

 商店街。意図せず相澤と二人きりになってしまった。

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