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45話 彼氏ができたんだ

 すっかり忘れていた。今日は英語の補習がある日なのに。

 俺は慌ててベッドから起き上がり、学校へ行く準備をした。補習の初日から遅刻して目立ちたくなかった。

 制服に着替えて鞄を肩にかけ、部屋を出るまでに二分もかからなかった。俺は急いで靴を履いて玄関を出て学校へ向かった。


 学校には、俺以外にも補習を受けにきた生徒が結構いた。事前に聞いていた通り、英語の補習教室へ向かった。幸い遅刻ではなかったのkあ、先生はまだ来ていなかった。俺は適当に、先生や他の生徒に目につきにくい席に鞄を置いて座った。

 三時間しか寝ていないため、すごく眠かった。先生が車で少しだけ寝ようと思って、目を瞑った。


「あら、樽井じゃん」


 意識が遠のき、眠りに落ちかけた刹那、誰かが俺の名前を呼ぶ声が聞こえて目を覚ました。目を開けると、見覚えのある顔が目の前に立っていた。相澤の友達の山田由依だった。


「樽井も補習? 意外。勉強できると思ってたのに」

「英語だけだ」

「え、あたしも! あたしたち英語補習仲間だね」


 全く嬉しくない言葉なのに、なんであんなに明るく笑って言うんだろう。


「席につきなさい」


 ちょうど先生が教室に入ってきた。山田さんは俺の前の席に座った。そして英語の補習が始まった。


 腹減った。

 授業の途中、お腹がぐっと鳴った。そういや昨日の夜から何も食べていない。早く家に帰って飯食べたい。

 そんなくだらないこと考えながらぼーっとしていると、いつの間にか補習は終わっていた。俺はすぐに帰ろうと思って鞄を肩にかけて立ち上がった。


「樽井、もう帰るの?」

「うん」


 山田の問いに俺は頷いた。


「じゃあさ、もうすぐお昼だし。一緒に昼飯食べよう。樽井に相談したいことがあるんだ」

「え、俺に」


 俺に相談したいなんて、一度も聞いたことない。俺に相談して得られるものなんてないと思うけど。


「どんな相談」

「恋愛相談」


 完全に相談相手を間違えている。恋愛経験ゼロと言ってもいい俺なんかに恋愛相談なんて。


「それなら俺じゃなくて他の人に頼んだ方がいいよ」

「樽井しかないよ。頼む」


 山田さんは両手を合わせて頼んできた。


「お礼にご飯奢るから」

「今すぐ行こう」


 俺は即答した。ただでさえ昨日の夜から何も食べてないのに、奢ってもらえるなら断る理由はなかった。


「わあーサンキュー」


 山田さんが急に英語で感謝した。


「樽井は何食べたい」

「なんでもいい」

「じゃあ、新しいハンバーガー屋があるんだけど、そこ行こう。前通った時美味しそうだった」

「いいよ」


 メニューはどうでもいい。ただ早く何か食べてぐっと鳴るお腹を満たしたいだけだった。


「あたしが案内するから、ちゃんとついてきてね」


 山田さんが先頭に立って歩いた。俺は山田さんの後をついていった。


「あ、メールきた」


 書店街を歩いていると、山田さんスマホを取り出した。チラッと見ると、相澤と連絡を取っているようだった。


「相澤?」

「うん。夏休みに入って毎日会えないけど、毎日連絡はしてる。あ、それは樽井も同じかな」


 毎日会えないのは事実だけど、毎日連絡しているわけではない。むしろ夏休みに入ってから、一度も連絡は来ていなかった。


 なのに友達とは毎日連絡してるんだな。・・・まあ別に気にしてないけど。


「ここだよ」


 山田さんはとある店の前で立ち止まった。店舗前のメニューを見ると、いろんな種類のハンバーガーが描かれていた。俺と山田さんは店に入り、席について注文をした。やがて注文したハンバーガーが運ばれてきた。セットにしたので、ポテトとコーラもついている。


「じゃあいただきます」


 ハンバーガーにかぶりついた。しょっぱいパティとパン、野菜のバンランスが良くて、なかなかうまい。ポテトは揚げたてなのか熱々で美味い。空腹のあまり夢中で食べていると、山田さんが言った。


「樽井、めっちゃお腹すいてたんだね」

「あ、うん」


 山田さんは驚いて目を丸くしていた。食べることに夢中しすぎて、山田さんのこと完全に忘れていた。俺は口元を拭いて言った。


「で、相談したいことってなに」

「えっと・・・恋愛相談なんだけど」


 それはさっきも聞いた。


「その前に、本当に俺でいい? 恋愛とか詳しくないが」

「樽井は琴音ちゃんと付き合ってるでしょ。恋愛先輩みたいなものだから、きっと役に立つと思う」


 恋愛先輩・・・実はフリだけど。


「それに、周りに男について相談できる人、樽井しかいないし」


 そう言って、山田さんはストローでコーラを飲んだ。


「好きな人でもできたわけ?」

「いいや、別にそうじゃないよ」


 好きな人もいないのに蓮らい相談をしたい?


「好きな人はいないんだけど、彼氏ができたんだ」

「・・・え?」


 山田さんの話を聞けば聞くほど、ますます意味わからなくなった。

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