42話 海好きなんだな
なんで急に海へ?
テストが終わったことと海と、一体どんな関係があるのか理解できなかった。
きょとんとしている俺をよそに、相澤は海を眺めながら言った。
「ああ、気持ちいい」
相澤は目を閉じて海に向かって両腕を大きく広げた。
「なあ、相澤?」
「ん?
相澤は目を開けて、こっちに顔を向けた。
「なんで海に来たんだ」
「テストも終わったし、勉強ストレスを発散したくて。こうやって開けた海を見てると、モヤモヤがすーっと晴れる気がしない?」
別にそんな気はしないけど。
「相澤は海好きなんだな」
「うん。たまにすごくしんどい時は一人で来たりする。あ、でも海に入るのはあんまり好きじゃないかも。びしょびしょになるの気持ち悪い。こうやってぼーっt眺めるのが好き」
初めて相澤との共通点を見つけた。俺も海に入るの好きじゃない。海に入るか眺めるか選べと言われたら、迷わず眺めるのを選ぶ。
「樽井は海嫌い?」
「好きではない」
海を見ても特に感動はないし、ただ水が多い場所としか思えない。正直、海より家に帰りたいんだが・・・海を眺めてニコニコしている相澤を見ると、どうしても帰ろって言い出せなかった。
「テストも終わったし、もうすぐ夏休みだね。樽井何か予定とかあるの?」
「あるよ」
それも、すごく大事な予定がある。
「どんな?」
「まず、学校で後回ししてたゲームのクエスト全部片付けて、それからスマホ見て、漫画を一気読みする」
「それ、予定って言える?」
「言ってもいいんじゃないかな」
夏休みに何をするか前もって考えるのだから。
「相澤は予定あんの」
「なに。デートに誘うつもり?」
「いや、予定がぎっしりで俺と遊ぶ時間ないって言ってほしくて」
「何それ」
相澤はクスッと笑って、揶揄うように言った。
「残念ながら、樽井とのテートで予定いっぱいだよ」
「それは勘弁してくれ」
「はは、冗談だよ。多分梨花ちゃんたちと遊びに行くかな。それと樽井とデートするし」
「勘弁してくれって聞こえなかった?」
「聞こえたよ」
むしろ堂々と言われて、返す言葉がなかった。
「安心して。毎日デートするってことじゃないから。週に一回くらい? 二週間に一回くらいするつもりなんだ」
「じゃあ二週間に一回で」
どうせ避けられないものなら、まだマシな方を選ぶしかなかった。
相澤は不満そうな顔をした。
「まあ考えてみるね」
いや、そこは二週間に一回にしようって言ってくれよ。
「そういや、テスト点数いつ出るんだっけ。勝負の結果、早く知りたい」
「来週じゃない? あと、どうせ君の勝ちだってば」
思ってた以上にテスト詰んだから。
「そう? じゃ今、願い事しちゃおうかな]
「頼む。今言えよ」
ずっと気になってた。一体俺に何がほしくてあんなに頑張ってたのか。
「ふーむ、わかった。今言うね。樽井」
相澤の声が急に真剣になった。雰囲気が一気に変わって、少し緊張した。
「その、願いとして」
相澤らしくなくはっきり言わず、もごもごしている。相澤が言いよどむ時間が長くなるほど、さらに気になっていった。
「願いとして、あたしと」
君と?
「・・・・・・やっぱりやめる。後で心の準備ができたら言う」
「・・・は? なんだそれ! 今言ってよ」
「いやだ。点数が出て、あたしの勝ちが確定したらその時言う」
いや、お前の勝ちだってば!
「だから、点数が出るまで楽しみにしてて」
「いや、全然楽しみじゃないんだが」
楽しみどころか、だんだんイラッとしてきた。
「ふーん、じゃあヒントあげようか。願いに着いての」
「頼む」
少しでもいいから教えて欲しい。
相澤は俺の目を見て言った。
「来年も一緒に海に来ようね」
「ん? それがヒント・・・なの?」
「うん」
相澤は頷いた。俺は首を傾げた。ヒントとして曖昧すぎた。
「他にヒントは?」
「ないよ。これだけで十分大ヒントだから」
全然わからない。見当もつかない。ヒントがヒントとして機能してないだろ。
でもこれ以上聞いても無駄だとわかっていて、これ以上聞かなかった。
そのあと、相澤は何も言わずに海を眺め続けた。俺は邪魔にならないように静かにしていた。通りかかる人たちの話し声がホワイトノイズのように聞こえるほどの静かさの中で、腹がぐうっと鳴った。
そういや、今日何も食べてなかったな。
急に腹が減って何が食べたくなった。
「樽井、腹減った?」
さっきの音を聞かれたのか、相澤が聞いた。
「ちょっと」
「そういえば樽井は朝ご飯食べないって言ってたよね。ごめん。あたしのせいでお昼も食べてないよね。こちら辺に食堂が・・・」
「俺、コンビニでいいから」
「え、それでもいいの? あ、あそこにコンビニある。あっち行こう」
相澤は道の向こうにあるコンビニを指さした。俺と相澤はそこへ向かった。
コンビニで俺はコップ麺を食べ、相澤はお茶を一本買って飲んだ。
そのあと少し海を眺め、日が暮れる前に俺と相澤は電車を乗って帰った。




