41話 行きたいとこある
昼ごはんは相澤のおすすめのファミレスで食べることにした。ドリンク飲み放題で、メニューの値段も安くてコスパのいい店だった。
「樽井は何食べるの」
「俺はハンバーグセットで」
「それ美味しいよね。じゃあたしは明太クリムパスぱで」
そう頼んでから十分もしないうちに料理が出てきた。俺と相澤は静かに食べ始めた。
安いのに結構うまい。
値段が安いからあまり期待してなかったが、想像以上の味で少し驚いた。腹が減っていた俺は、ハンバーグをあっという間に平らげた。
「樽井、食べるのめっちゃ早っ」
まだパスタを半分も食べてない相澤は、少し驚いたように言った。
「腹減ってたから」
テスト中ずっとお腹が鳴っていてしんどかった。
「朝食べなかった?」
「うん」
「なんで。寝坊?」
「いや、元々朝はあんまり食べないんだ」
「そっか」
相澤はパスタをくるくると巻いて口に運んだ。
しばらくして、皿を空にした俺と相澤は椅子にもたれて、だらけるように座った。
「満腹、満腹」
相澤は自分の腹をポンポンと叩きながら言った。
「うまかった?」
「うん。思ってたよりずっと」
正直な感想だった。また今度来たいと思えるくらいだった。
「あと二日でテストも終わりだね。早く終わってほしいな」
「そうだな」
テストが終わった後には夏休みがあるから。特に予定とかあるわけではないけど、学校に行かないことだけで待ち通しい。
「じゃ飯も食ったし、帰ろう。帰って明日のテスト勉強しないと」
また勉強かよ。ほどほどでいいってば。
「そういや、明日のテスト科目なんだっけ」
「樽井テストに無関心すぎじゃない? 明日は英語と社会だよ」
「ああ、そうだった」
どの日にどの科目のテストがあるかなんて、当日学校に行けばわかるから、わざわざ覚えていなかった。
「樽井も少しは勉強する方がいいと思うよ。酷い点差で負けたら恥ずかしくなっちゃうから」
「俺が勝っちゃったら大変なことになっちゃうんだが」
「うわ、今のめっちゃムカつく」
俺もそう思った。
「もしそうなったら、まあ次を狙うしか」
「ん? なんて言った?」
「なんでも。もしそうなったら樽井の願いを聞いてあげるしかないなって言っただけ」
それよりもっと短かったと思うけど。まあ聞き間違いだろう。
「とにかく、明日のテストも頑張ろう!」
「うん」
そのあと、俺と相澤はファミレスを出て、それぞれの家に帰った。
そして翌日、さらにその翌日になって、ついにテストの最終日になった。
最後の科目の世界史のテストを終え、期末テストが完全に終わった。俺は大きく伸びをした。
「うあー終わった!」
長ったテストがいよいよ幕を閉じた。早く帰ってゆっくり休もう。
「樽井、テストどうだった?」
今日も相変わらず相澤が聞いてきた。
「ギリギリかk店は回避できそう」
「それはよかったね。ちなみにあたしは手応えバッチリだよ」
「そりゃよかったね」
勝負は負けることになるだろうが、まあ最初から勝つつもりはなかったしな。
「じゃあテストも終わったし、遊びに行こ。あたし行きたいとこある」
「ん? 遊びに行こうって、誰と」
「もちろん樽井、あんたとに決まってるじゃん」
「・・・え?」
いきなり遊ぼうって。そんなの初耳だけど。
「また嫌って言うつもりでしょ」
「うん」
俺は迷いなく頷いた。本気だった。本気で相澤と遊びに行くより、家で休みたい気持ちがずっと大きい。
「今日はそれぞれ家で休ものは」
「だめ。行きたいとこあるから」
「どこだ」
「それは秘密だよ。着いたらわかるから、ほら立って」
相澤は俺の腕を引っ張って無理やり立たせようとした。俺は微かにでも抵抗しながら言った。
「君の友達と行けよ。白井さんや田中さんいるだろ」
「もう樽井と行くって言っちゃった。で、みんな先に帰っちゃったよ」
そういや、いつも一緒にいるあの四人がクラスにいない。
これは諦めてくれないな。
ため息をつきながら、仕方なく立ち上がった。
「行くの? 行くの?」
「どうせ、嫌だって言っても無理やり連れてくつもりだろ」
「もちろん」
せめて違うって言えよ。つか、腕を離してほしいんだけど。
「じゃあ出発!」
相澤は俺の腕を引いたまま、どこかへ向かった。行く先もわからないまま相澤に連れて行かれた。
しばらくして、俺と相澤は駅に着いた。改札の前で相澤が言った。
「電車乗るから、スマホ出して」
そんな遠くまで行くのか。
学校の近くで遊ぶと思ってたけど、電車まで乗るのなら結構遠い場所に行くようだ。
「早く」
「わかった。わかった」
相澤の催促に、俺はスマホを取り出した。そして俺と相澤は電車に乗り込んだ。お互いスマホを見ていて会話はなかった、と思ったら相澤から通知が来た。
『めっちゃ楽しみ』
『樽井もそうだよね?』
『どこ行くのか教えろよ』
『秘密だってば』
『着いたらびっくりするよ』
どこへ行っても、驚かないと思うんだが。
『あ、次の駅で降りるよ』
『わかった』
俺はスマホから顔を上げた。前に立つ相澤が目に入った。相澤はにこっと笑ってドアを指さした。やがて電車は止まり、ドアが開いた。俺と相澤は電車を降りた。
「こっちだよ」
相澤が先に立って道を案内した。俺は相澤の後ろをついて歩いた。駅を出てしばらく歩くとさっきまでの街とは違う匂いがしてきた。潮の香りと、涼しくて心地よい風。
顔を上げると、目の前には青い海が広く広がっていた。
「行きたいって言ったのが」
「うん。海だよ!」
相澤はすごくはしゃいだ声を上げた。




