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32話 マジで役に立たない

 目が疲れる。

 勉強を始めてから一時間くらい経った。ずっと座ったまま文字を読み続けていたため、目がちくちくした。俺は顔を上げて、少し目を休ませた。

 向かいに座った相澤が目に入った。ペンを持って教科書を見ながらノートに何かを熱心に書いていた。


 相澤、意外とちゃんと勉強してるな。

 予想と違って相澤はすごく静かで勉強に夢中になっていた。めっちゃ話しかけてくるかと思ったけど、そうでもなかった。ただお互い無言で勉強に集中しているだけだった。


 勉強会、思ってたより悪くないな。

 こんなふうに静かに一緒に勉強するのなら、また今度も一緒に勉強してもいいと思うくらいだった。


「ふーん、この問題わからない」


 あまりにも静かなため、相手の独り言もよく聞こえた。チラッと見ると、相澤がペンを口に当てて考え込んでいるのが見えた。


 数学か。

 教科書に数字が書いてあるのが見えた。相澤が持ってきた英語と国語、数学の中で数字が書いてあるのは数学しかなかった。


「樽井、この問題ちょっとわからないんだけど」


 相澤が自分の教科書とノートをこっちに押しやった。やっぱり予想した通り数学だった。


「どれ?」

「この問題」


 どれどれ。この問題は・・・・・・関数問題だな。


「これ、ちょっと複雑だけど、グラフ書けば簡単だよ。こうやって書いたら」


 傾きと切片を使って線を引くと・・・。

 俺は相澤のノートの端にグラフを書いた。


「こうやって解けば簡単だ」

「なるほど。やってみる」


 相澤は俺が書いたグラフを見ながら、自分で解き始めた。


「え、本当だ。樽井、意外に数学上手いんだね」

「まあまあだと思うが」


 別に点数が高いわけでもないから。八十点くらいだし、上手いほどではないと思う。


「またわからないのがあったら聞くわね」


 俺は頷いた。問題を教えるのは雛と聡樹のおかげで慣れていた。説明するのは苦手なんだけど、解き方を書いてやるのはできる。

 それより自分の勉強をしないと。

 俺は国語教科書に目を落とした。びっしり書かれた文字を見ると、少しめまいがした。


 マジで読みたくない。今すぐにでも本を閉じて寝たい。

 教科書を読むのは本当に面倒くさい。勉強のために字を読まなきゃいけないのに、本当に読みたくなかった。あと、一番の問題は、国語ってどう勉強するんだ。


 小説を読むのは好きだけど、教科書に載っている小説とポエムはどうしてこんなに読む気がしないんだろう。

 面白くないっていうか、「勉強する」っていう気持ちが強いから読む気がしないのかな。


 国語は十分やったから、英語やろう。

 俺は国語教科書を閉じて、英語教科書を開いた。こっちも文字がびっしりだ。しかも英語だから、集中して読まないと意味がわからない。


 いっそ数学や理科を持ってくればよかった。

 国語や英語よりは数字を解く方がずっと楽だった。答えがはっきりしていて、それを見つける過程もなんか推理みたいで結構面白い。でも今俺には数学や理科の教科書もノートもない。学校に置いてきた。そのため、やむを得ずに国語や英語の勉強しいといけない。


 やろ。どうせいつかやることだ。今さっさとやっておこう。

 俺は覚悟を決めてコーヒーをごくごく飲み干した。もう一度集中して教科書の文字を追い始めた。


 どれくらい時間が経っただろう。相澤に数学の問題を五問くらい教えて、英語の文法を三つほど覚えて、国語の小説とポエムを三つほど読んだころ、カフェの外では日が沈みかけていた。


「樽井、これ、テストに出る?」

「どれ」


 相澤が教科書を差し出した。今度は英語か。mustとhave toの違い・・・・・・。


「知らない」

「ええっ、さっきまで英語やってたじゃん」

「そこはやってない」


 そもそもmustとhave toってなに。同じ意味じゃなかった? そもそも授業でやった? 全然覚えてないんだけど・・・寝てたっけ。


「マジで役に立たないな。明日澪に聞く」


 おいおい、役に立たないって。ひどいね。さっき数学教えてやっただろ。


「うぅあ、疲れた」


 相澤が大きく伸びをした。それからスマホを見て、目を丸くした。


「えっ、もうこんな時間!?」


 なんであんなに驚くんだ。って、もう六時半過ぎじゃん。五時半くらいだと思ってた。なのに、もう六時半になっているなんて、思ったより時間が経っていた。


「もうこんな時間だし、そろそろ帰ろっか」


 俺は頷いて教科書を鞄にしまった。二冊しか出していなかったため、すぐに片付けにあまり時間がかからなかった。教科書を鞄にしまうだけ、それで終わりだった。それに対して相澤は少し時間がかかった。俺と違って、教科書やノート、ペンをあちこちに広げていたため、片付けに時間がかかった。俺はじっと座って片付け終わるおまで黙って待っていた。

 しばらくして綺麗に片付け終えた相澤は、残り少ないいちごラテを一気に飲み干し、立ち上がって鞄を肩にかけた。


「帰ろ」


 すでに鞄を肩にかけていた俺は頷き、そのまま椅子から立ち上がった。俺と相澤はカフェを出た。

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