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31話 じゃ、始めよ。勉強

「結局この時間が来てしまった」


 一番待ち遠しくて、でも一番来てほしくない時間になってしまった、普段なら一刻も早くこの時間が来てほしいなと思うけれど、今日だけはこの時間を望まなかった。

 その理由は、俺の彼女である相澤のせいだった。


「樽井、行こ」


 右肩に鞄をかけた相澤は、ホームルームが終わるや否や、すぐに俺のところへやって来た。


 行きたくないな。

 俺の意見なんてちっとも反映されていない勉強会に連れて行かれたくなかった。ただ一刻も早く家に帰ってベッドに寝転びたかった。家でゴロゴロしたかった。


「何してんの。行くってば」

「あの相澤、どうしても一緒に勉強しなきゃいけないか。別々でもいいじゃん」

「ブブー、だめよ。あたしは一緒に勉強したいんだもん」


 相澤は指でバツ印を作って言った。

 俺は一人で勉強したいんだ!


「でも、特別に早く終わらせるから。六時まで一緒に勉強しよ」


 今が三時四十分だから、六時まで・・・それ早くじゃないだろ。


「一人でやるより、一緒にやった方が絶対効率いい。わからない問題教えあったり、採点しあったり」


 採点は一人でもできるだろ。


「どう考えても一人で」

「じゃあ一つ聞くけど、樽井は家帰って勉強するの?」

「それは・・・」


 やると答えなかった。俺は俺のことをよくわかっている。このまま家に帰ったらすぐベッドに寝転がるに違いない。そしてスマホをいじる。「勉強しなきゃ」と思いつつ後回しして結局「明日やろ」とそのまま寝るに決まってる。


「やらないでしょ?」


 確信に違い問いに、俺は頷いた。


「じゃ今日一緒に勉強しよ」

「嫌だ」

「なんでよ。恋人同士に一緒に勉強するのは普通だと思う。だかあたしたちもやらないと」

「やらなくていい」

「あーもう」


 相澤の声が変わった。猫被りの声ではなく、相澤の素の声だった。相澤は顔を近づけて言った。


「一緒に勉強しようっつってんだろ。お前に拒否権はないから、さっさと立って」


 相澤・・・みんなの前でその言い方大丈夫?

 幸い聞こえていなかったのか、こちらに目を向ける人はいなかった。


「聞いてる? さっさと立て」

「わかった」


 俺は深いため息をついて立ち上がった。これ以上こねたら、みんなの前で相澤がキレそうだった。それを防ぐためにも彼女の言うことに従うしかなかった。


「よし。いい子」


 子供扱いかよ。

 さっきの怖い顔はどこへやら、相澤は優しい笑顔に戻っていた。


「いいから、行こ」


 俺は相澤の笑顔を見て見ぬ振りして、教室のドアへ向かった。


 一緒に勉強したくないのは変わらなかった。でもいつか勉強はしなきゃいけないし、やだって断っても無駄だ。俺がなんて言っても相澤が引き下がるとは思えない。いやって何度も同じことを言うのも疲れるし、ならあっさり諦めるのがいいかと思って最近諦めが早くなった。


 しばらくして、学校の外に出た俺は相澤について歩いていた。下校道とは全く逆方向だった。五分ほど歩いたか、相澤があるビルの前で立ち止まった。


「ここで勉強しよう」


 ここ、カフェ?

 相澤が示した先には、洗練されたデザインのカフェがあった。大きな窓から中が見え、客は少なく席はかなり空いていた。


「入ろ」


 相澤は店に入っていった。俺も彼女の後に続いて店に入っていった。店内はすごく広いとは言えない。うちの教室一つ半くらいの広さ程度だった。


 俺と相澤は窓際の席を取った。鞄を椅子に置き、向かい合って座った。店員さんが注文を取りに来た。俺と相澤は簡単注文した。


「少々お待ちください」


 店員さんが去り、俺と相澤だけになった。相澤は自分の鞄に手を置いて言った。


「じゃ勉強しようか。樽井はどの科目勉強するの」

「俺は・・・」


 そういや何の教科書持ってきたっけ。相澤に急がされて適当に手に取ったものを持ってきたんだが。

 俺は鞄を開けて教科書を取り出した。国語、科学と・・・・・・美術? なんでこれ入ってるんだ。


「プハハ、何それ。なんで美術を持ってきたんだ。樽井、そんなに美術好きなの? 意外だね」

「違う。間違えて持ってきただけだ」


 なんか恥ずかしい。美術は期末テストない。

 俺は美術教科書を鞄に押し込んでチャックを閉めた。


「君は? 君はどの科目勉強するんだ」

「あたしは」


 相澤は鞄から教科書を取り出した。彼女の手には教科書が三冊握られていた。


 数学と国語と英語?


「今日はこの三つをやるつもりなの」


 確かに最も重要な科目だ。俺も国語と英語やらないとな。特に国語はひどいから、勉強しないと。


「じゃ始めっーー」

「ご注文のコーヒーといちごラテです」


 相澤が言いかけたところで、飲み物が出た。一瞬、相澤が眉を顰めるのが見えた。多分遮られてイラッとしたんだろう。


 ちょっとスカッとした。

 いつもやられてばかりだったのに、やる側がやられるのを見ると、妙にスカッとした。

 店員さんは俺の前にコーヒーを、相澤の前にいちごラテを置いて去っていった。相澤は怒りを鎮めるようにいちごラテをごくごくと飲んでいった。


「じゃ、始めよ。勉強」

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