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27話 可愛いね。樽井

 気分の優れない月曜日の朝。席にぼんやりと座って無意味に時間を過ごしていた。


 デートの余波のせいか、疲れたな。


 久々に外出したため、疲れが完全に抜けていなかった。昨日かなり寝たと思っていたのに、体はまだだるかった。

 それとも、単に今日が月曜日の朝だからかな。どうでもいいけど。

 正直理由なんてどうでもよかった。大事なのは、今とにかく疲れているということだった。


「それでさ」


 ぼんやりと黒板を見つめていると、聞き慣れた声が一つ聞こえてきた。優しくて柔らかい。猫被りの時の相澤の声だった。今登校してきたばかりなのか、相澤は友達と一緒に教室の後ろのドアから入ってきていた。


「あ、樽井」


 相澤と目が合うと、相澤は嬉しそうに手を振りながら俺の席まで駆け寄ってきた。


「おはよう。久しぶりだね」

「久しぶりじゃないだろ」


 一昨日会ったばかりだから。久しぶりというには語弊があった。


「でも、樽井と会えなかった一日がまるで一年みたいで寂しかったんだもん」

「・・・・・・」


 なになに。怖いんだが。朝から何か変なものでも食ったのか。

 普通なら男がときめきそうなセリフだったが、むしろ怖かった。相澤らしくないセリフだし、今度は一体何を企んでいるのか、不安になった。


「何よ、その表情。すごく不愉快だけど」


 あ、いつもの相澤だ。こっちの方が安心できる。


「で、昨日何してた」


 昨日何してたっけ。昼過ぎまで寝て、起きてスマホをいじってちょっとゲームして、夕食食べてまたスマホいじってゲームして寝たから。


「別に何もしてなかった」

「そっか。ちなみにあたしはドラマ見たよ。昨日のあれすごくおもろかった。あとで樽井にも教えてあげるね」

「要らないんだけど」

「お・し・え・てあげるね」

「わ、わかった」


 得体の知れない圧に負けて、仕方なくわかったと答えてしまった。相澤はほのかな笑みを浮かべていた。


「あ、そうだ。これ」


 相澤が鞄に手を入れてガサゴソと何かを探し始めた。やがて相澤は鞄からとても見覚えのある紙切れを一枚取り出した。


 あれはデートの時撮った・・・


「一緒に撮った写真。あの時うっかり渡すの忘れちゃって。今渡すよ」


 これをここで堂々と渡すの?!

 写真には俺と相澤、二人だけが仲良く写っていた。こんなの他の人に見られたら、恥ずかしすぎて死ぬかもーー


「わあ、なにこれ」


 しれない・・・と心の中で思ってから五秒も経たないうちに、別の誰かが俺と相澤の間に割り込んできて写真を見てしまった。あの人は相澤の友達である田中さんだった。田中さんは顔を伸ばして、相澤が差し出した写真をじっくりと眺めた。


「ふうん、二人プリクラ撮ってた? 恋人っぽいね」

「恋人なんだよ」


 相澤は言い返すように言った。


「ああ、琴音ちゃんの彼氏くん。やっほ」


 今俺を見たんか! さっきからずっとここに座っていたのに、見えなかった?

 田中さんは手を振って挨拶した。呆気に取られて、挨拶を返すのも忘れてぼんやりと田中さんを見つめてしまった。

 続いて山田さん、白井さん、紫さんが自然に相澤のそばに集まってきた。そうなると自然と俺を取り込む形になってしまった。


 前にもこんなことがあった気がするが。

 忘れたかった悪夢が蘇った。以前もこんなふうに囲まれて、取り調べされた。その結果デートをすることになったのだ。つまり、デートの原因となる彼女たちが今ここに揃ったのだ。

 でもあの時と違うのは、彼女たちの関心が俺には向いていないということだった。


「これ見て」

「なになに」

「プリクラ・・・」

「琴音ちゃんと樽井」


 彼女たちは目を輝かせて、俺と相澤の写真に興味を示した。


「デートしたときに撮った写真なんだ」

「へぇ、そうなんだ。デートしたんだ」

「琴音ちゃん、盛れてるね。すごく可愛いよ」

「ほんと。でも樽井、最後のこの表情なに。めっちゃウケるんだけど」


 山田さんが俺を見てニヤリと笑った。なんだか恥ずかしかった。相澤と二人で撮った写真だからかはわからないけれど、俺が写った写真を見て騒いでいる彼女たちを見ていたら顔が熱くなってきた。そんな俺の顔を見かけた山田さんが揶揄うように言った。


「え、なに。樽井照れてるの?」


 ほっていてくれ。余計に恥ずかしくなるだろ。

 相澤、山田さん、田中さん、白井さんが俺を見て意地悪そうな笑みを浮かべた。紫さんは笑ってはいなかったが、無表情で俺を見つめていた。

 みんなの視線が集まって、顔が今にも爆発しそうだったその刹那、山田さんが言った。


「可愛いね。樽井」

「・・・え」

「由依?なんて」

「照れてるのがかわっ・・・えっ、みんななんであんな顔してんの」


 山田さんの一言で、全員の表情が固まった。


「いくらなんでも友達の彼氏に可愛いっていうのはちょっと」

「由依謝って」

「最低」


 無口な紫さんまで一言付け加えた。


「相澤、あたしは本当にそういうつもりで言ったんじゃな、ないから」


 相澤は「ふーむ」と息を漏れるだけ何の反応も見せず、無表情で山田さんをじっと見つめた。いっそ怒ったりしてくれた方が怖くないのに、ああやって何も言わずにじっと立っているから、かえって怖かった。


「ふーむ」

「ご、ごめん・・・琴音」


 山田さんが今にも泣き出しそうな顔で誤った。けれど、相澤の表情は緩まなかった。あまりに冷たくて背筋が凍りつきそうな眼差しで山田さんを見つめていた。


 相澤、演技は十分だから。

 普段の相澤ならそろそろ笑い「いいのよ。気にしない」というはずだった。なのに、なぜなのか演技が終わらない。そのため、空気は冷え切っていて、俺まで緊張してしまうほどだった。


 一体なんのつもりなんだ。

 一触即発の状況。俺は途方に暮れて、ハラハラしながら相澤の顔色を伺っていた。


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