24.5話 この関係で十分
樽井が店を出ていった後、席には相澤が一人残された。相澤はポテトが積まれていたトレイの上をぼんやりと見つめていた。
「友達ぃ・・・」
相澤は小さくつぶやいた。
『俺がいるだろ。君の友達』
『だから、俺は相澤から離れたりしない。ずっとそばにいてあげられる』
『たとえ本当の彼氏ではないが、本当の友達にはなってあげるよ』
少し前、樽井に言われた言葉が相澤の頭の中から離れず、ずっと渦巻いていた。
相澤は呆れたように笑みをこぼした。
「ほんっと馬鹿みたい」
さっきそんなこと言われたせいか、相澤の真っ白な頬はほんのり赤くなっていた。相澤は手であおいで熱を冷まそうとした。
自分の本当の性格を知ってもなお、ああやって言ってくれる人は樽井が初めてだった。
今まで相澤に近寄ってきた人たちは、彼女の顔を見て優しい人だと勝手に思い込み、彼女と友達になりたがった。しかし、彼女の本当の性格を知った後は、自分が思っていたのと違うと言い、一人また一人と彼女のもとを去っていった。
勝手に思い込んで勝手にガッカリしやがって。
でも樽井はあんな奴らと違った。
最初に樽井が相澤を見てどう思ってたのかはわからない。だが、少なくとも樽井は、相澤の本当の性格を知っても彼女から離れなかった。挨拶をすればちゃんと返してくれたし、話しかければ面倒くさそうにながらも、ちゃんと相槌を打ってくれた。
「だから、あんただったのかもね」
相澤は独り言を呟きながら席を立った。赤くなっていた顔は落ち着いて元の白い皮膚に戻っていた。相澤はトレイを持って返却口へ向かった。返却口には人が少なくてすぐに返すことができた。
相澤はトレイを戻し、ドアの方へ向かった。ガラスの向こうに、外で相澤を待っている樽井の後ろ姿が見えた。
相澤はドアの前で立ちとまり、樽井を見つめながら小さく独り言をつぶやいた。
「さっきも言ったけど、友達になってくれなくていいよ。彼氏役で十分だから」
それは数分前樽井に言った言葉と同じだった。けれど今回は、さっきは言えなかった一言が付け加わっていた。
「もちろん、本当の彼氏になってもらえるならもっと嬉しいけど・・・それは無理だよね」
小さくてため息混じりの声は行く先もなく消えた。
相澤はドアを開けて外に出た。外で待っていた樽井が振り返って二人は目が合った。相澤はいつものように明るく笑って樽井に言った。
「お待たせ」
「中でなんかあった?」
「ごめんごめん。ちょっと並んでてさ」
相澤は樽井の傍に立った。相澤の本音は樽井に届かなかったが、それでも構わなかった。今はこの関係で十分だったから。




