26話 帰ろ(終)
こういうの真似できない。
今回も相澤のポーズを真似しようとした俺の計画が、完全に崩れてしまった。あんなポーズ死んでも真似できない。恥ずかしいし、あんなポーズをしている自分の姿を見たら、自分を殺したくなる気がするからだ。
何のポーズを取ればいいんだ。
とにゃんでいるうちに、パシャッと写真が取られた。
「なんだ。樽井、なんで前んしないんだよ」
真似できるか。と言い返したかった。
それより相澤、俺がポーズを真似してたの、気づいていたんだ。
そのあとも何度か相澤はポーズを変えて写真を撮ったが、俺はできなかった。相澤のポーズを真似するには、俺は可愛くない。もし俺があんなポーズしたら普通に気持ち悪くて死にたくなる。だから、残りの写真は普通にピースして撮った。
最後のパシャッという音と共に撮影は終わった。これからどうするんだ、とぼんやりしていると、相澤が画面側に近づいて画面をタッチしまくっていた。
「ふーむ、この写真と、あ、これいいね。これもいい感じだし・・・悩むなぁ」
何をあんなに一人で悩んでるんだ。
「あ、樽井は外で待ってていいから」
「え、いいの?」
では遠慮なく。
俺はすぐに外に出た。プリクラのボックスにもたれかかって、相澤が出てくるのを待った。
しばらくして、カーテンの間から相澤が出てきた。彼女は写真二枚を持って、ニコニコ笑いながら前に立った。
「待たせたね。はい、これ」
相澤が写真を一枚差し出した。写真は縦に長い長方形だった。
「俺、いらないんだが」
「そう言わずに受けなよ。友達にデートした証拠として見せればいいじゃん」
見せてあげる友達はいないだが、それはそうだ。せっかくデートしたのに信じてもらえなかったら、かなり悔しい気がする。でも、この写真があれば、誰だって信じさせるだろう。
「わかった」
俺は相澤が差し出す写真を受け取った。せっかく撮ったんだし、どう映ってるか気になった。
結構たくさん撮ったと思ってたけど、四枚しかないんだな。
紙は一枚で、四コマに分かれていた。四コマとも違う写真だった。
一枚目の写真は相澤に倣ってビーすした写真。二枚目の写真も相澤に倣って手を前に出して逆さピースした写真。三枚目の写真はどんなポーズをすればいいかわからなくて無難にピーズし、相澤は両頬に手を添えた写真。そして最後の写真は・・・ん?
「相澤? 何でこんな写真選んだんだ」
「面白いから」
最後は相澤のポーズを見て驚いた表情がそのまま映った写真だった。ちゃんとカメラを見ていないし、ちゃんとポーズも取っていなくて、完全にNG写真だった。
「こんな者シニョリ、もっとちゃんとしたのを選んだ方が」
「ふーん、あたしはこれもいいと思うけど」
相澤はじっと写真を見ながら言った。
「最後の写真を見たら思い出せるじゃん。この時、樽井があたしのポーズ真似しようとして慌ててたな、って」
そりゃそうだろうけど。そんなことまでわざわざ覚える必要はないと思う。
「しかもこの写真の下に日付も書いてあるんだよ。もっと正確に思い出せるよ」
本当だ。写真の右下に今日の日付が書いてあった。
「あと何より、他の写真は全部ポーズ同じだったから。同じポーズばかりじゃつまらないだろ」
うう、それは否定はできないな。他の写真は全部ビースして取ったものだから。
「どう? 撮ってよかったでしょ」
よかった、か。正直わからない。こんな写真なくても別に構わないと思うけど・・・。
「あ、そういやこれ金かかったんじゃっ。いくらだった。今あげるから」
「いいの」
「ん?」
「金はいいよ。あまり高くなかったから。あたしが出すよ」
それでいいのか。でもやっぱり金は渡すべきだと思うけど。
そんな俺の考えを読んだのか、相澤が言った。
「本当にいいんだって。今日のデートのお返しだと思ってよ」
そこまで言うなら・・・
「・・・じゃあ遠慮なく」
俺は財布を再びポケットにしまった。そして写真は反対側のポケットに入れた。
「ポケットに入れるの? それじゃしわくちゃになっちゃうよ」
「大丈夫。気をつけて歩けば問題ないんだ」
「よくないよ。もー、あたしのカバンに入れとけ。あとで返すから」
確かに、鞄に入れておく方がしわくちゃにならない。
「じゃあ言葉に甘えて」
写真を相澤に預けた。相澤は自分のと一緒に鞄にしまった。
「じゃ写真も撮ったし、帰ろ」
「帰ろって」
「うん。今日のデートはここで終わり」
ついに。待ちに待った時間が来た。
「早く出よう」
「ちょっと待って。嬉しすぎじゃない? あたしとのデート終わったのに、どう見ても名残惜しそうには見えないんだけど」
そりゃ当然だろ。
相澤とデートしたがってる人はたくさんいるだろうが、俺は違う。美女とのデートより家でゴロゴロしてる方が好きだから、できれば早く家に帰りたかった。
「なんか腹立つけど、まあいいか。行こう」
相澤と俺はゲーセンを出た。もうすぐ夕方なのに、夏だからか外はまだ明るかった。
俺と相澤は北道をゆっくりと戻りながら家へと向かった。
駅を過ぎて住宅街を歩いている最中、相澤が尋ねた。
「今日のデートどうだった。楽しかった?」
「そこそこ楽しかった」
映画も思ってたより面白かったし、その後に食べたハンバーガーも、写真も思ってたより悪くなかった。そして何より相澤の知らない一面を見た気がして、有意義な時間だった。
「そこそこっか。それってあたしだからでしょ?」
「どういうことだ」
「あたしじゃなく雛って子とデートしてたらもっと楽しかっただろうなって思ったんでしょ?」
「そんなこと言ってねぇよ」
呆れた。そんなこと言ったことも考えたこともなかった。
でも相澤なんかさっきから妙に雛のことを気にしてるみたいだが。
映画館でもそうだし、マックでもそうだし、雛の話が出るとちょっと雰囲気が変わった。
「相澤、まさかヤキモチ妬いてんのか」
「え、ヤキモチ?」
「雛の話が出るとちょっと変だぞ。もしかしてヤキモチ妬いてんじゃないよね?」
そんなはずないだが。そもそも嫉妬っていう感情が生まれるには相手を好きっていう気持ちが前提になっていないといけないんだから。
「冗談だった。気にす」
「妬いてるって言ったらどうする?」
「・・・!?」
相澤の言葉に驚いて、思わず足が止まってしまった。すると相澤もじっと立ち止まった。
「嫉妬してるよ。樽井にあたし以外仲のいい女の子がいて」
な、なんだ。本当なのか。演じてるようには見えないけど。
顔はほんのり赤くなっていたし、視線もまっすぐ合わせられずにいた。
冷静に考えると、演技なのは間違いけど・・・今までの演技とはどこか違くて区別がつかなかった。
「なんっちゃって。冗談だよ。あた氏が嫉妬するわけないじゃん」
相澤がおどけた笑みを浮かべた。その笑みを見て、ようやく安心できた。
「だよな?」
そう、そもそもあり得ない話だ。よくわかってるのに、なんで区別できなかったんだ。馬鹿みたいに。
「じゃあたし家ここだから」
「ん? 家まで送くらなくてもいい?」
「いいのよ。だってもう送ってもらったから」
「え?」
きょとんとした。家まで送ったことなんてないのに、送ってもらったってのは一体どういうことだ。
「実はうちの家ここなんだ」
相澤が右側の住宅を指さした。平凡な一軒家だった。
「ここが相澤さんちってこと?」
「うん」
相澤が頷いた。慌てて周りを見回した。今気づいたが、この道はかなり遠回りになる道だった。駅からうちの家まで十分で行けるのに、この道だと三十分はかかるすごい遠回りの道だった。
何も考えずにただ相澤の後をついて歩いていたが、まさかそれが自分の家へ向かう道だったとは。
まあ最初から送るつもりだったから別にいいけど、なんかやられた気がした。
「送ってくれてありがとう。じゃあまた明日」
相澤は手を振りながら家へ入っていった。俺は相澤が家に入るまでぼーっとして彼女の背中を見ていた。




