24話 俺がいるだろ
「・・・・・・それで、友達になったわけ」
「そうなんだ」
相澤が最後の一本のポテトを食べ終えた。
「じゃポテトも全部食べたし、そろそろ行こうか」
「ちょっと待って」
席を立とうとする相澤を、俺は呼び止めた。
「なに」
「俺の話ばっかりしただろ。相澤の友達の話は?」
さっき相澤が言ったように、周りの人たちのことを知っておくのがいいと思った。基本情報だけでも知っていれば、あと何があった時に対処しやすくなるはずだから。
「あたしの友達?」
相澤は椅子に腰かけながら言った。
「全部話すには多すぎる。今日中に終わらないと思うけど、それでもいいの?」
だろうな。忘れていた。俺の前では性格悪くてすぐキレる顔だけかわいい女の子だが、学校ではみんなに大人気のアイドルってことを。俺とは住む世界が違う人だ。だから、俺とは違って相澤の周りには彼女と友達になりたがっている人が列をなしているから、俺なんかと比べ物にならないほど友達が多いに違いない。
「なら本当に親しい友達だけでも」
「・・・・・・プッ、プハハ」
「?」
突然、相澤が笑い出した。
「ごめん、冗談だよ。実はあたし友達いないの」
「どういうことだ。相澤、学校に友達たくさんいるだろ。毎日いろんな人に囲まれてるだろ」
「なんだ、全部見てたの?」
「いや、見てたっていうか、・・・ただ目に入ったから見てただけだ」
気にして見ていたわけでもないのに、なんだか恥ずかしかった。
「あいつら相澤の友達だろ」
「友達じゃないよ。あっちが勝手に親しげに近寄ってくるだけ」
相澤の言葉を聞いて、一つの疑問が浮かんだ。
「じゃこの前紹介してくれた四人は?」
「あの子たちは・・・」
相澤は一瞬言葉を詰まらせた。だが、すぐ言葉を継いだ。
「学校で仲良くしてるけど、友達ではない。あたしの性格を知ったら、みんなあたしから離れていくから」
「そんなことないとも思うが」
「いや、離れていく。昔もそうだったから」
昔も? 昔なんかあったのか。
それが何を意味するのか、俺にはよくわからなかった。俺が初めて相澤に会ったのは高校以来。その前のことなんて何も知らない。
「あたしは樽井みたいに友達だと話せる人がいない。・・うわ、こうして口に出すと情けないね、あたし。樽井には友達二人しかいないのかって言ったくせに、自分には話せる友達たった一人もいないなんて」
相澤は俯いてつぶやくように言った。どこか寂しそうに見えた。
すぐキレるがいつも輝いていた相澤がこんなに落ち込んでいる姿は初めてだった。そんな相澤を見ていると、なぜか胸の奥がジーンとした。可哀想だから? それとも同情心? なんなのかはわからないけれど、今目の前の少女を慰めてあげたかった。
俺は相澤に向かって、静かに口を開いた。
「俺がいるだろ」
「え?」
相澤は顔を上げ、俺の目を見つめた。俺はもう一度言ってくれた。
「俺がいるだろ。君の友達」
「何を」
「俺は相澤の性格を知ってる。学校での猫かぶってる姿も。学校では優しいふりをしてるけど、実はすぐキレるし、口の悪いやつだってことも知ってる」
「あれ悪口だっーー」
「だから、俺は相澤から離れたりしない。ずっとそばにいてあげられる』
「・・・・・・」
「たとえ本当の彼氏ではないが、本当の友達にはなってあげるよ」
相澤は自分の本当の性格をバレるのを恐れている。自分の性格を周りの人たちに知られ、自分から去っていくのを恐れている。だから、自分には本当の友達なんていないと言っていると思う。
けれど、俺は違う。流石に相澤の全てを知っているとは言えないけれど、知ってるんだ。取り繕った姿も本当の姿も。だから相澤は俺に対して恐れる必要はない。去られることを怖がらなくていいんだ。
「どうだ。俺と友達にーー」
「・・・・・・ホ」
ん? 今なんて言ったような。
「アホじゃないの? 樽井が友達? 身の程をわきまえなさいよ」
「・・・はあ?!」
この野郎が。
「せっかく慰めてあげたのに、なんだその言い方は」
俺の言葉に、相澤はベーっと舌を出した。
「樽井はあたしの友達になる必要なんてないんだもん。彼氏で十分なんだから」
はあ、そうそう。あんなやつを慰めようとした俺がアホだった。無視すればよかったんだ。俺らしくなく余計なことをした。慰めて損した。
「でも、ありがとう」
・・・え?
突然の一言に、少し戸惑った。
「お礼に、このトレイはあた氏が片付ける」
相澤はトレイを持って立ち上がった。
「俺がやっても」
「いいから、樽井は外で待ってて」
「・・・うん。わかった」
なぜか相澤の言葉に逆らうことができなかった。俺は相澤の言葉に従って店の外に出た。
六月だからか、外は暑かった。早く他のビルの中に入りたかった。
相澤遅いな。なんで出てこないんだ。暑いのに。
ゴミを捨ててトレイを返すだけなのに、どうしてこんなに時間がかかるのか理解できなかった。
一体何してるんだ。
俺は店の中を覗き込んだ。その瞬間、
「お待たせ」
店のグラスドアが開き、相澤の声が聞こえてきた。




