22話 あの雛って子が好き?
映画は終わり、劇場に明かりがついた。突然の眩しい光に、俺は一瞬顔を顰めた。
「あ、おもろかった。よね?」
隣で相澤が伸びをしながら言った。
「思ったより面白かった」
映画が予想以上に面白くて、原作小説の内容が気になるほどだった。今度読んでみよう。
と考えている中、相澤が立ち上がった。
「じゃあとりあえず出よう」
相澤は空のポップコーンの容器を二つ重ねて持っていた。俺は空のドリンクコップを持って立ち上がった。
俺と相澤は通路を歩いて下り、出口から出た。出口前のゴミ箱にポップコーンの容器とドリンクコップを捨てて、シネマの方に出た。
映画は面白かったが、次はどこにいくんだろう。
少し腹が空いてきた。時間を確認すると、昼飯の時間を少し過ぎていた。
「相澤、昼飯はどこで食べるんだ」
「ふーん、樽井お腹空いてるの?」
俺は頷いた。
「あたしはあんまり空いてないけど」
それはお前が俺のポップコーンまで全部食べたからだろ。と言いつけたかったが我慢した。
「まあお腹空いてるなら、軽く食べようか。マックはどう」
なんでもよかった。食べたいのが特にあるわけでもないし。
「じゃあマックで決まりだね。行こ」
相澤が先に歩いた。最初と同じように、俺は相澤の後ろをついて歩いた。
シネマのあるビルのちょうど向かいにマックがあった。俺と相澤はそこに入った。
「何食べる」
相澤がキオスクの前で俺に聞いた。俺は画面に出ているいろんなメニューを見ながら少し悩んだ。
簡単にランチセットにしよう。
幸いにまだランチセットを売っていた。俺はランチセットを押した。
「相澤は頼まない?」
「あたし? あたしは・・・」
あ、まさかさっきみたいに悩む気か。
ドリンクバーでの悪夢が頭に浮かんだ。あの時は映画の上映開始時間っていうタイムリミットがあったが、今はそんなものない。つまり、相澤が悩める時間は実質無限にーー
「ポテトとシェイクにする」
あれ、思ったより早いね。三重ぶんはかかると思ってたのに。
「お会計はあたしがする。お金は後で送って」
「わかった」
相澤が先に支払ってしまった。
六百円。覚えておこう。
「じゃあたしは席取っとくから、樽井が持ってきて」
まあすぐ出るから。
俺は返事の代わりに頷いた。
しばらくして、頼んだメニューが出た。俺はトレーを持って相澤が取っといた席へ向かった。相澤は俺がトレーを置いた途端、シェイクを一口飲んだ。俺はバーガーを持って一口かじった。もぐもぐ噛んでいると、相澤が話しかけてきた。
「映画どうだった」
映画か。
俺は口の中のものを飲み込んで答えた。
「なかなか面白かった。原作小説が読みたくなるくらいに」
「よかったね。もしつまらなかったって言ったら、一発殴ろうと思った」
「そりゃひどいだろ」
人それぞれ好みってものがあるから、つまらないって言えるだろ。
「あと、相澤がそういうのでなく人だってこともわかった」
「なっ、何言ってるんだ。泣いてない!」
「見てた。泣いてるの。鼻すすってたのも聞いた」
「そ、それは・・・とにかく泣いてないんだからぁ!」
そう言って相澤はポテトを口に入れてガツガツ食べた。
恥ずかしがってるのか。
映画を見て泣くこと全然ありだから、別に恥ずかしがる必要はないと思うが。
「相澤、意外と乙女だね」
「は? 何それ。喧嘩売ってるのか。普通に乙女だけど」
さっきの発言は撤回だ。俺の知ってる乙女はあんな言い方使わない。
それから俺と相澤は静かに食べることに集中した。俺はハンバーガーとポテトを交互に食べ、喉が詰まるとコーラを飲んだ。相澤はポテトをシェイクにつけて食べたり、ポテトを食べてシェイクを飲んだりして、彼女なりに楽しんでいるようだった。
お腹空いてないと言った割によく食べるね。
しばらくして、トレーの上のポテトが半分以上なくなり、ハンバーガーも包み紙しか残らなくなった。残ったポテトを一つずつ食べている中、相澤がシェイクを飲みながら訪ねた。
「樽井、あの雛って子と仲良い?」
「ん?」
「映画館で言ってた子。小説を勧めてくれた女の子のことだよ」
俺の知ってる雛を語っているのはわかっていた。だが気になったのは、なぜ急に雛について聞くのか、だった。
「親しいって言えば、親しい。小さい頃から知り合ったから」
「何歳から」
「さあ」
何歳からだったっけ。
「四、五歳くらい?」
「かなり昔からだね」
相澤がシェイクのストローを噛みながら言った。
「なんで急にそんなこと聞くんだ」
「偽装だとしても一応彼女なんだから、樽井の友達について知っておいた方がいいと思って」
それはそうかもしれないな。その方が演じやすいから。
「あ、でも、雛は知ってるよ。俺たち本当に付き合ってないって」
「はあ? それ言ったの?!」
相澤がシェイクカップを机にバンっと叩きつけた。
「誰にも言うなってあれだけ言ったのに、なんで言うんだよ」
「雛は大丈夫。秘密を言いふらすような人じゃないから」
「どうしてそこまで言い切れるんだ」
「そりゃ長い付き合いだから」
「お前な」
相澤はこめかみを押させた。
「もしその雛って子が学校に言いふらしたらどうするんだ」
「そんなわけないって」
雛は他人の秘密を軽々しく言いふらすような軽い人じゃない。それはえおrが保証できる。
「どうしてそこまであの子を信じてるの」
「だってーー」
「もしかして、あの雛って子が好き?」
「は?」
相澤、一体何を言ってるんだ。




