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21話 まだ相澤のことをよく知らないらしい

「fの八、九番だから・・・」


 劇場の中に入って相澤はチケットを見ながら席を探した。そんな相澤のために、俺は彼女のポップコーンを持ってあげた。


「あ、ここだ。ここの八や九番に座って」

「わかった」


 俺は内側の席の九番に座った。続いて相澤が八番の席に座った。


「はい、これ」

「あ、ありがとう」


 相澤は自分のキャラメルポップコーンを大事そうに抱えて一つずつ食べ始めた。


 あの調子じゃ映画が始める前に食べちゃいそうだな。

 あのペースなら五分もかからずに食べ切りそうな勢いだった。

 そのあと、俺と相澤は何も話さず、スクリーンに流れる宣伝を見ていた。やがて、劇場の明かりが消え、薄暗くなった。


 始まるみたい。


 塩味のポップコーンを口に入れながら、映画に集中した。前から雛が面白いって言ってたため、少し期待していた。


 うーん、こういう内容だったな。


 まだ中盤くらいまでしか観ていないが、だいたいこんな話だった。

 お互いを深く愛し合っていた男女がいた。付き合って3周年を迎える直前、男子が事故で突然亡くなり、女子は一人になってしまった。愛する人を失った彼女は、平気なふりをして生きているが、本当はそうではない。生きるために、忘れようとしても忘れられず、どこに行っても彼との思い出が残っていて、かえって彼女の心を病ませた。


 危なそうだな。


 結構興味深くて演出もストーリーも引き込むもので、自然と集中できた。


 この先どうなるんだろう・・・ん?


 ポップコーンを取ろうと伸ばした手に、ポップコーンではないも何かが触れた。温かくて、まるで人の手みたいな・・・相澤?

 相澤の手だった。暗くてよく見えないが、相澤が気まずそうにしているのがわかった。

 周りの客に迷惑にならないように、相澤に少し体を傾けて小さな声で囁いた。


「何してんだよ。なんで俺のを食ってんだ」

「あたしのもう全部食べちゃって」


 相澤は床に置かれたポップコーンを容器を指さした。キャラメルポップコーンでいっぱいだったはずの容器が、すっかり空になっていた。


 もう全部食べちゃったのかよ。

 まあ、宣伝の時からずっと食べてたし、無理でもないか。・・・いや、だからってなんで俺のを食うんだよ。


 少し、いやかなり呆れた。


「こんなにかわいい彼女がポップコーン欲しがるんだよ。少しくらい分けてくれよ。たくさんあるじゃん」


 映画に集中していてほとんど食べていなかったから、まだ半分ほど残っていた。


「はあ、わかった。食べて」


 相澤の方へ軽く容器を傾けた。


「やった。ありがとう」


 相澤は小さく笹yき、ポップコーンに手を伸ばした。

 俺は気にせず再び映画に集中した。思ったより面白くて続きが気になった。雛が勧めてたのが少しわかった。


 しばらく映画に没頭しながら、ポップコーンを食べるために容器に手を入れた。


 ・・・え、おかしい。俺のポップコーンが。

 なんかかなり軽くなっている。容器の中を覗き込んだ。半分ほどあったはずのポップコーンがどこに行ったのか、綺麗に消えていた。こんなことするやつ、一人しかいない。

 俺は犯人の方へ顔を向けた。犯人は俺の視線に気づいたくせに、必死に無視してスクリーンから目を離さなかった。


 はあ、まあいいか。

 軽くなった容器を床に置木、映画に集中することにした。


 後半もかなり興味深かった。恋人の死によって追い詰められたヒロインは、ついに自殺を決意する。すべての準備を終え、命を経とうとした直前、彼氏が書いた手紙を見つけることになる。三周年記念に書いたものだった。手紙を読んだ彼女は涙を流し、もう一度生きていく勇気を得る。


「ヒック・・・ヒック・・・・・・」


 最後のシーンで、劇場内のあちこちからすすり泣く声が聞こえてきた。


 確かに悲しいシーンだが、涙は出ないな。

 もともと映画やドラマでなくタイプじゃない。こんな映画見ても別に涙は出ない。そのため、雛や聡樹に冷たい人だとよく言われた。でも仕方ない。だって涙が出ないだもの。


 相澤も泣かないと思うが。

 猫被りの相澤なら絶対泣くけど、今の相澤なら泣かないだろう。

 急に相澤の反応が気になった。横目で相澤を見た。


 やっぱ泣いてな・・・え? ちょっと、泣いてる?!

 暗くてよく見えないが、相澤の目に浮かんだ涙がスクリーンの光に反射して、微かにきらめいていた。それだけじゃなく、すすり泣く声が小さく聞こえた。


 相澤、意外と感情豊かなんだ。

 相澤の本当の性格を考えると、こんなことで泣きそうなイメジはない。


「何よ。何見てんだよ」


 突然相澤がこっちに顔を向けて睨みつけた。口調は強いが、泣いてるのを見られて恥ずかしがっているようだった。


「なんでもない」


 俺は再びスクリーンに視線を戻した。


 もしかすると、俺が知ってる相澤がすべてじゃないのかもしれない。

 学校で相澤の素の姿を知っている人は俺だけだ。取り繕った姿も、本当の性格も全部知っている人は俺だけだと思っていた。

 でも、どうやらそれは間違っていたみたい。どうやら俺は、まだ相澤のことをよく知らないらしい。

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