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19話 最初から樽井に選択権はないんだ

 今日に限って人多いな。


 どういうわけか、今日は普段より人が多かった。休日だからというのもあるだろうが、それを差し引いても多すぎる。このままだと人混みに流されて、相澤とはぐれてしまうんじゃないかと心配になるほどだった。


 見失わようにちゃんとついて行こ・・・え?


 相澤が見えない。確かにさっきまで前で歩いていたはずなのに。

 俺は慌てて周囲を見渡した。人が多すぎてどこにいるのかわからーー


「樽井、ここだよ」


 相澤の声が聞こえた。しかし、人が多すぎて声だけじゃ相澤を見つけられなーーあ、見つけた。

 人混みの中、チケット券売機の前に立っている相澤の姿がはっきり見えた。人混みの中でも、あの可愛いらしい見た目がすごく目立っていた。


 俺は人混みをかき分けて、チケット券売機にたどり着いた。


「危うく迷子になりかけてたね」

「それよりはぁはぁ何観るんだ」


 人混みをかき分けて歩いてきたせいで、息を切らしていた。


「ちょっと待ってね」


 相澤は券売機の画面ををタッチした。


「これ観る」


 相澤が画面を指さした。画面上には一人の男子と女子が向かい合って立っているポスターが映っていた。


「君と過ごした時間?」

「うん。実はこれめっちゃ楽しみにしてたんだ」


 どこかで聞いたことがあるようなタイトルだった。


「原作小説が有名だから読んでみたけど、めちゃくちゃおもろくてさ。だから映画化されないかなって思ってたら、ちょうど映画化の話を聞いて、すごく楽しみにしてた。それで、公開日の今日、さっそく観にきたのよ」


 あ、これ小説原作の映画だったんか。だからどこかで聞いたことある気がーー


「あ、これ知ってる。雛に聞いてた」

「雛? 誰それ」

「さっき言ってた女の子」


 そういや、前ひなからこの小説について聞いたことがあった。すごくおもろいから絶対読んでって勧められたが、「あとで、あとで」と後回しし続けて結局読まなかった。


『律、まさかまだ読んでないの?』

『あ、ちょっとやることがあって』

『嘘。どうせゲームしてたでしょ』


 正解だった。読もうと思っていたけど、昨夜はゲームに夢中になりすぎて結局読めなかった。読もうと思ってゲームを終えた時には、もう夜の三時だったので、寝るしかなかった。


『もー、いつ読むのよ。このままじゃ律が読むより先に映画が公開されちゃうよ』

『え、これ映画化されるの?』

『うん。一ヶ月後に公開だって』

『じゃあ代わりにあれ観る。それで勘弁して』


 本を読むより、映像で観た方が楽だしわかりやすい。


『あ、雛も一緒に観る?』

『え、・・・うん! 一緒に観る』

『じゃあ公開されたら聡樹も呼んで一緒に観に行こう』


 久しぶりにみんなで映画観に行くのも悪くないと思った。


『・・・も一緒か』

『ん? 今なんて言った』

『いっ、いいや、何も』


 雛は慌てて両手を振った。


『そうだね。聡樹も呼んで一緒に観よう」


 雛はニコッと笑った。でも、いつものように明るくはなかった。多分、夜遅くまで本を読んでて眠いのだろうか。


 そういや、聡樹と雛と一緒に観るって約束してた。今日が公開日だったんだ。


「相澤これ観るの?」

「うん」


 相澤さん即答し頷いた。すごくはしゃいだ声だった。相澤のああいう姿は初め手でなんか新鮮だった。あんなに楽しみにしているのに、他の人と観る約束があるからと断るのは流石に気が引けた。


「わかった。これ観よう」


 雛と聡樹には悪いけど、今回は相澤と観よう。雛はまあ聡樹がいるから、いいだろう。


「あのさ、観ようじゃねぇのよ。樽井はこれをあたしと一緒に観なきゃいけないのよ。最初から樽井に選択権はないんだ」

「・・・・・・」


 うわ、あの言い方すごくムカつくな。やっぱこいつよりは雛と聡樹と観る方がずっとマシだ。

 と考えている間、相澤は発券機の画面をタッチした。するとしばらくして機械の稼働音がして、レシート見たいな紙が一枚出てきた。


「できた。樽井、これ持ってて」


 相澤はそのレシートを手渡した。俺はそれを手に持って紙に書かれている文字を読んだ。


「相澤これって」

「見りゃわかるでしょ。チケットだよ」


 いや、それはわかる。ここに映画のタイトルと上映開始時間が書かれていたから。

 俺が聞きたいのはーー


「俺お分まで払ってくれたの?」


 チケットにはしっかり「二名」と書かれていた。しかし、俺はこのチケットを買った覚えがない。


 相澤は自分のスマホをミニバッグにしまいながら言った。


「うん。昨日の夜に予約しといた」

「なんで俺の分まで」

「今日公開日だし、当日だと席なさそうだったから。昨日樽井の分も一緒に取っといた」


 確かにここの人の多さを見ると、相澤の判断は正しかったかもしれない。まあここの人たちが全部あの映画を観に来たのかはわからないが。


「あ、お金。いくらだった。今すぐあげるよ」


 映画って普通いくらだったっけ。


「いいのよ。友達にもらったチケットで予約したんだ。あたしだってタダで観るわけだし、いらないよ」

「でも」

「ふーん、じゃせっかく財布出したんだし、ポップコーンでも買ってね」


 相澤はシネマの売店を指さした。大きなグラスケースの中にpポップコーンが山積みになっていた。


「ポップコーンでいい?」

「うん。あたしポップコーン好きなんだから」

「わかった」


 たとえプレゼントされてタダで観るんだとしても、チケットを奢ってもらった以上、ポップコーンくらいはこっちが払うべきだと思った。


「俺が買ってくる。何味がいいんだ」

「うーん、一緒に行こ。メニューを見て決めたい」

「好きにしな」


 今度は俺が先に立って歩き出した。人混みをかき分けて販売を向かったが、チケットを取る間、人が増えたのかなかなか進めなかった。


 まずいな。これじゃ相澤とはぐれてしまう。

 俺はそっと後ろを見た。幸い相澤はちゃんとついてきているが、この人混みじゃいつはぐれかわからない。

 さっきもはぐれたんだし。

 さっきの記憶が蘇った。もしまたはぐれちゃったら上映開始時間に間に合わないかもしれない。


 ・・・仕方ないね。


 俺は立ち止まって振り返った。後ろついて来ていた相澤が首を傾げた。


「樽井? 急にどうして・・・っ!?」


 俺は何も言わずに、相澤の手を取った。

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