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18話 相澤って呼ぶ

 転びそうになったが、すぐにバランスを取ってかろうじで転ばなかった。


 はあ、危なかった・・・。


 安堵のため息が漏れた。

 俺が転びかけた原因は、他でもない相澤さんのせいだった。すぐ後ろに相澤さんが立っていた。声を聞いて相澤さんとはわかっていたが、ここまで違いなんて。本当にすぐ後ろにいた。あともう少し近かったら、多分相澤さんの頬にチューしちゃうところだった。


「キャハハハ、なんでそんなに驚いてんの」


 相澤さんは面白そうにケラケラ笑った。少しイラッとしかけた刹那、相澤さんは一歩後ろに下がって言った。


「やっほ、早く着いたね。十分くらい遅れると思ってたのに」


 相澤さんが挨拶をして怒るタイミングを逃してしまった。


「遅れたら殺すって言ってただろ」

「セーフでよかったね、樽井くん」


 相澤さんは俺の肩に手を置きながら言った。


 そういや、相澤さんの私服姿は初めてだな。

 いつも学校でしか会わないから、制服姿しか知らなかった。けど、こうして私服姿を見るとなんか新鮮だった。

 白い半袖とチェック柄のシャツを羽織って幅の広い白いパンツを履いていた。まるでファッション雑誌に出そうなおしゃれなスタイルだった。


「・・・可愛い」


 学校でアイドルって呼ばれている理由が、少しわかる気がした。しかも通りすがりの男子たちが相澤さんチラッと見ていった。


 こんな美人とデート・・・。

 今更だけど、周りからめっちゃ見られそーー


「樽井くん今可愛いって言った?」

「いや、何も言ってない」

「嘘、はっきり聞いたんだけど」

「・・・・・・」


 どうやら思わず「可愛い」って口にしちゃったみたい。


「マジでそんなこと言ってないから」

「ほおんとうに?」


 あのイタズラっぽい顔、ムカつく。

 相澤さんが可愛いなのは事実だった。それは俺も認める。しかし、あの顔を見てるとムカついて認めたくなかった。


「本当に」

「・・・ふん、わかった。さっきのは空耳ってことにしてやるね」


 これ「ありがとう」っていうべきか。


「それじゃあたしたちの初デートを始める・・・前に、一つ言いたいことがあります」

「なに」

「呼び方のことだけど、あたしたち「さん付け」やめない?」

「いきなり?」


 相澤さんは頷いた。


「付き合ってるのに、さん付けはちょっと変だと思って」


 そう? 普通だと思うけど。恋人同士でも「さん付け」してる人は結構いると思うけど。


 俺が相澤さんに「さん」をつけることに特に理由はない。前は関わると面倒くさくなると思って距離を置くためにわざとさん付けした。それだけの理由だった。しかし、今は付き合ってるから、距離を置けないから呼び捨てしても構わない。


「それともいっそ下の名前で呼ぶ? 琴音だと。そっち方が」

「相澤って呼ぶ」

「チッ」


 相澤さんは舌打ちした。

 呼び捨てなど別にどうでもいいが、下の名前で呼ぶは違う。相手が男子ならいいけど、女の子を下の名前で呼ぶのは、いかにも恋人同士って感じがして、どうにも気恥ずかしくて口に出せなかった。

 雛は例外だ。あいつとは子供の頃から下の名前で呼んできたから、下の名前で呼んでも恋人って感じがしない。むしろ苗字で呼ぶ方が気まずかった。


「まあ、どっちでもいいか。相澤でも琴音でも」


 相澤は小さく独り言を呟いた。


「じゃ言いたいことも言ったし、デート始めよう。こっちだよ」


 相澤は先を歩いた。俺は相澤の後ろをついていった。


「どこ行くんだ」

「秘密」


 なんで、と思って。どうせ数分後には嫌でもわかるのに、わざわざ秘密にするのか。


「言ってくれてもいいだろ」

「やだ。着くまでドキドキしながら楽しみにしてて」


 別にドキドキはしてないんだが・・・。でも、これ以上聞いても相澤が答えてくれないと思って諦めた。

 それから何分歩いたんだろうか、相澤があるビルの前で立ちとまって指さした。


「ここだよ」


 相澤が指さしたビルを見上げた。知ってるところだった。映画館が入ってるビルで、雛と聡樹とよく一緒に映画を見にきたところだった。


「入ろう」


 相澤はビルに入っていった。俺もその後に続いた。

 俺と相澤はエスカレーターで上階へ上がり、ほぼ最上階の八階で降りた。

 八階はシネマフロアだった。


「最初は映画を観るの!」


 相澤さんは両腕を広げてシネマを示した。


 やっぱり映画か。


「・・・何よ、その反応は。全然驚いてないみたいだけど」

「まあ、映画見によく来るから」

「え、樽井って映画よく観るの? 意外だね。絶対引きこもりだと思った」


 なんだそれ。引きこもりなんて・・・否定はできなくて悲しいね。


「あら? 否定しないね」

「まあ事実なんだから。約束ないとよく外出しない」

「それって映画観る約束は多いってこと? 誰と? まさか女と」

「まあ、その中には女もいるな」


 雛も一応生物学的に女だから。


「え、それ浮気じゃん」

「付き合う前の話だから浮気じゃない」


 そもそも本当に付き合ってるわけでもないのに、浮気って言えるのか。


「ふーん、でもこんな可愛い彼女がいるのに、他の女と映画見てたんだね。ちょっとヤキモチするかも」

「・・・あの、演技するならもうちょっとちゃんとして」

「バレた?」

「すごくバレバレだった」


 そもそもガチで俺のこと好きなわけじゃないのに、ヤキモチ妬くって言われて信じるか。


「惜しいな。まあいいや。映画見に行こう」


 相澤はシネマの中へ歩いていった。俺は見失わないように、慌てて相澤の後についていった。

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