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17話 後ろみて

 土曜日。デートの当日。

 けたたましく鳴り響くアラームの音で、俺は目を覚めた。


「うるさいぃ」


 乾いた声が口から出た。

 俺は音の原因を探して、布団の上を手探りした。枕の上で硬くて慣れ親しんだ感触と共に振動を感じた。俺はそれを手に取ってすぐにアラームを止めた。


 九時二十分。


 現在の時刻だった。休日なら絶対起きない時間だった。だからか、とても眠い。眠すぎてちゃんと目を開けることすらできないほどだった。


 あと十分だけ寝るか・・・。

 待ち合わせ時間は十時。あと十分寝て準備して急げば、ギリギリ間に合う時間だった。


「やっぱり、あと十分だけ」


 二度寝しようと思ってベッドに横になろうとした瞬間、相澤さんの顔が頭の中にふと浮かんだ。


『遅刻したら殺すよ』


 拳を突き出して脅迫した相澤さん。これ、遅刻したらものすごく面倒臭いことになる気がした。

 俺は顔を枕に埋めて嘆いた。


「ああああ、行きたくねえぇ・・・」


 休日のこんな朝っぱらから準備して出かけるなんて。マジで最悪だった。でも行かないと。動け、自分。

 重い体を無理やり動かして、ゆっくりと起き上がった。ベッドから出たがらない足を無理やり床に下ろした。


「さっさと準備しよう・・・さっさと」


 そう自分に言い聞かせてやる気を出そうとしたが、出るわけなかった。そんなことで行きたくない気持ちが変わるわけなかった。


「はぁ、準備しよう」


 同じ言葉だけど、さっきとは全然違った。俺はトボトボと歩いて部屋を出て洗面台へ言った。



 九時五十分。

 なんだかんだで、待ち合わせ時間より十分早く着いてしまった。

 駅前の横断歩道前に立って、相澤さんを探した。


「まだ着いてないみたいだな」


 相澤さんの姿は見当たらなかった。


 連絡してみるか。


 行人たちに邪魔にならないように道の端に移動し、スマホを取り出した。

 元々相澤さんの連絡先は持っていなかったが、昨日の帰り道で交換した。


******


「樽井くん、明日のデート忘れてないよね?」

「いや、忘れてた」

「なんだ。ちゃんと覚えてたじゃん」


 相澤さんは笑いながら、軽く俺の肩を叩いた。

 どうやら冗談だと思ったみたいだが、冗談ではなかった。デートのことを考えると考えるほど憂鬱になってしまってなるべく記憶から消そうとしていたのだ。

 ・・・だが、もう消したくても消せない。


「それでさ、LINE ID交換しよう」


 相澤さんはスマホを取り出した。


「いきなり?」

「考えてみると、あたしたちID交換まだだったよ。前はただ挨拶するだけの関係だったが、今は恋人だから交換しよう」

「・・・・・・」

「ほら、早く」


 相澤さんはスマホを差し出した。

 確かに、連絡先をは交換しておいた方がいいだろう。もっと恋人っぽく見えるし、明日の待ち合わせ場所で無事に会うためにも連絡先は必要だから。

 俺はポケットからスマホを取り出して相澤さんのQRコードを読み取った。すると、相澤さんのプロフィールが出た。


 相澤さんプロフィール写真漏れてるね。


 普通にピースして撮った写真だった。元から可愛いから、加工なしでもよく映っていた。

 俺は相澤さんを友達追加した。少ない友達の数に、一人増えた。


「樽井くんも早く見せて」

「あ、わかった」


 QRコードどこにあったっけ。

 最後に友達追加したのがほぼ三年前でどこにあるのか分からなかった。しかもあの時も雛に教えてもらってやっと見つけた。


「ね、まだなの?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 一体どこにあるんだ。ネットで調べてみようか。


「樽井くん、もしかしてあたしと交換したくないわけ?」

「いや、違う。そうじゃなくて」


 ・・・もういい。正直に言おう。


「実はQRコードどこにあるのかわからなくて」

「ん? どういうこと」

「最後に交換したのが三年前で、出し方忘れちゃった」

「・・・プッ、プハハハッ」


 突然、相澤さんは大笑いをした。お腹を抱えて、涙まで流して笑っていた。


「なにそれ。ウケるね」


 相澤さんは涙を拭いながら言った。


「まあ樽井くんなら無理でもないか。あんまり人と連絡するイメージじゃないからな。うんうん」


 なんか、ちょっとバカにされた気がするな。


「仕方ないね。あたしが教えてやる。ほら、ここに入ってこれを押したら」


 急に相澤さんが俺の隣にピッタリくっついて勝手にスマホを操作し始めた。


 ち、近い。

 突然の距離が縮まってきて驚いた。しかもさっきから相澤ㅅんと肩が触れていて、意識してしまう。


「できた」


 気づけば、画面にはQRコードが出ていた。


「どう? 簡単でしょ?」


 俺は頷いた。実は相澤さんは何を押してどうやってQRコードを出したのか全然見てなかった。


「じゃ追加するね」


 相澤さんは自分のスマホで俺のQRコードを読み取った。そして何かを入力するように指を動き、ポケットにしまった。


「じゃ、あたしはこっちだから、またね」


 相澤さんは手を振って右の道へと去っていった。俺はぼーっとして手を振り返した。


******


 俺は道端に立って相澤さんとのトークルームを開いた。昨夜のやり取りが出た。


『明日のデート忘れるな』

『覚えてる』

『遅刻するな』

『しない』

『今すぐ寝なよ。遅刻するかもしれないから』

『眠くない!』


 そして相澤さんが送った笑ってるタヌキスタンプで昨夜の会話は終わっていた。


 俺は相澤さんにメッセージを送った。


『着いたけど、どこ』


 送ってから三十秒ほどで返信が来た。


『さあな』

『どこかな』


 ・・・なんだ、この返事は。

 どこかと聞いたのはこっちなのに、なぜ返ってきた返事は疑問形なのか理解できなかった。


『冗談はやめろ。どこだ」


 と送ろうと文字を打っていたところ、また相澤さんからメッセージが届いた。


『後ろみて』


 着いたのか。

 言われた通り後ろを振り向いた。大きな駅舎と広場を行き交う人々は見えたが、その中に相澤さんの姿はいなかった。


 一体どこにいるってーー


「やっほー、樽井くん」


 いきなり背中から声がして、驚いて振り向いた。その瞬間、びっくりして後ろに倒れそうになった。

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