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14話 獲物を襲いにきた獣たち

 そんなことあったな。


 あの頃は相澤さんとこんな関係になるなんて想像もできなかった。まさか、「誰にも言うな」と脅した女子と付き合うことになるなんて。

 そうぼんやりーと考えにふけていると、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。


「樽井!」


 顔を上げると、相澤さんが目の前に立っていた。そして相澤さんの後ろには、四人の女の子たちが目をキラキラさせながらこっちを見つめていた。


 なんだ。あの子たちは。


 なんか嫌な予感がした。見知らぬ人ではなかった。同じクラスだから顔は知っている。名前も知っている。でも話したことはない、名前だけ知ってる関係だった。


「一人で何考えてたの」

「別に、何も」


 昔、相澤さんに脅された日のことを考えていたとは言えなかった。なんだか恥ずかしかったし、相澤さんの友達もここにいた。まだ死にたくないから口にできなかった。


「それより、急にどうしたんだ」


 相澤さんに声をかけられるのは普段からよくあることだから驚くことではなかった。しかし、友達と一緒に来て声をかけるのは初めてだった。


「あ、それが」


 相澤さんはどこか困ったような表情を浮かべた。一体何があったのか、ますます気になった。


「この子達が樽井くんと話してみたいって言ってて」

「・・・は?」


 話してみたい?

 視線を後ろに向けた。さっきととは視線が違う気がした。さっきはただ微笑んでいるように見えた一方で、理由を聞いた今はでは、まるで獲物を襲いにきた獣の目に見えた。

 緊張が漂う中、一番右に立っていた長いストレートの髪で背の高い女の子が口を開いた。


「やっほ、樽井くん。うち話すのは初めてだよね」


 俺は頷いた。彼女の名前は田中(たなか)梨花(りか)。彼女の言った通り、一度も話したことはなかった。田中さんから右に白井(しらい)(みお)山田(やまだ)由依(ゆい)(むらさき)ゆりだった。さっきも言った通り、名前だけ知っていて話したことはないぎこちない関係だった。


 それよりあの子たち背の順で並んだ?


 意図したのかはわからないが、田中さんから下へ向かう。頭のてっぺんを結べば、下に向かう線が描けそうだった。


「樽井くん、わたくし聞きたいことがあるよ」


 優しくて柔らかい声が聞こえてきた。相澤さんとは違う雰囲気の声だった。誰だろうと思って顔を上げてみると、腰まで伸びた茶色のくせ毛の女子が手を上げていた。白井さんだった。


「琴音ちゃんが告白したって言ったよね? 琴音ちゃん、なんて告白したの?」

「「私と付き合って。私の彼氏役に任命します」だったと思う」


 正確には覚えてないが、多分こんな感じだったと思う。そもそもあれを告白というには問題がある。状況や口調からすると、告白ってより通告?脅迫?に近かったと思う。


「へぇ、そうなんだ。琴音ちゃん大胆だわね」


 白井さんは相澤さんを見てにっこりと笑った。相澤さんの顔が少し赤くなった。


「あたしあたし、あたしも」


 山田さんは勢いよくてを上げて自分の存在を主張した。


 あの子は・・・。前、クラスで付き合うって宣言した時、真っ先に質問を投げかけた子だった。


「二人っていつから付き合ってるの?」

「由依、それこの前聞いたじゃん」

「え、そうだったっけ」


 山田さんはへへと笑いながら頭を掻いた。


「じゃあ、どこまで行った?」

「ん?」

「スキンシッひゃっ!」


 突然山田さんが奇声を上げた。田中さんと白井さんが心配そうな顔で言った。


「どうしたの」

「由依ちゃん大丈夫?」

「舌噛んだ」


 山田さんは舌を出して見せた。指さしたところが血で少し赤くなっていた。


 う、痛そう。あれ、口に入れるたびにしみそうだ。


 共感できる傷を見て思わず顔を顰めた。それに対して山田さんは傷などどうでもいいと言わんばかりに平然を言葉を続いた。


「どこまで言ったっけ。・・・あ、スキンシップ。で、二人でどこまで行った? キスした?」

「はあ、キス?!」


 聞き慣れた声。相澤さんだった。しかし、取り繕った声じゃなく、普段俺に向けるときの声だった。


 相澤さん、その声出してもいいんか?

 

 びっくりして相澤さんを見つめた。相澤さん自身も驚いたのか目を大きく見開き、口を押さえていた。だがそれも束の間、相澤さんはすぐにいつもの優しい笑顔に戻り、柔らかい声で言った。


「キスしてないよ。手もまだなんだもん」

「「「手も繋いだことないって!?」」」


 相澤さんの言葉に、山田さん、田中さん、白井さんが同時に驚いた。


「まだ付き合ってまだ二週間よ。手繋ぎはまだ早いんじゃないかーー」

「うそ」


 相澤さんの言葉を遮って、小さくてか細い声が割り込んできた。その声に、俺と相澤さん、そして彼女の友達も声の主に視線を向けた。

 ボサボサした黒紫の髪で、小柄な少女。声の主は紫さんだった。


「二週間前、一緒に手を繋いでた。お昼休みに」

「あ、そういえばそんなことあった」

「うちの前で手繋いでた」

「言われて思い出したわ。あと、廊下で手繋いで歩いてたわね。友達に聞いてたわ」


 そういや、そんなことあった。忘れていたわけじゃないけど、あまり思い出したくない記憶だった。


「なんだ、琴音。嘘ついたのか」


 山田さんが揶揄うような顔で言った。


「いや、そんなつもりじゃなかったよ。ただ・・・」

「由依ちゃん、そんなに責めないで。わざとじゃないわよ。だよね?」


 白井さんの問いに、相澤さんは「うん」と答えた。そんなに狼狽えている相澤さんは初めて見た。


「ってことは手繋ぎ以上のこともした感情性もあるってことだよね? 例えハグとか」

「ハグはまだだよ。本当だよ。本当に手繋ぎが全部」

「ふーん、怪しいな」

「本当だってば」


 相澤さんは微笑みながら優しく話していたが、語尾が微弱に震えているのに気づいた。それだけじゃない。その笑顔の裏に隠れた怒りが、俺にはよく見えた。読心術なんて持っているわけじゃないけど、内心ではキレているのに違いなかった。


 このままじゃ爆発するんじゃない?


 相澤さんがキレても俺と関係ないはずなのに、なぜか不安になった。ソワソワして黙って状況を見極めている中、田中さんが相澤さんと山田さんの間に入って、二人を引き離した。


「まあまあ、それよりさ、二人ってデートはした?」

「「・・・え?」」


 想定外の問いに、俺と相澤さんは同時に答えてしまった。

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