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15話 デートしよう

 デート。想定外の単語に、かなり戸惑ってしまった。

 「デート」という言葉に戸惑う俺と相澤さんを見て、山田さんは首を傾げた。


「何その反応? まさか、デートまだなの?」

「え、まさか。もう手も繋いだし、デートくらいとっくにやったんだろう。ね、琴音ちゃん」


 田中さんは相澤さんを見つめた。鉄壁みたいな相澤さんの笑顔に少し亀裂が入り、戸惑いが滲んだ。


「そ、その・・・実はまだ・・・」

「「「えええっ!?」」」


 山田さん、田中さん、白井さんが同時に驚いて声を上げた。それに対して紫さんの表情はちっとも変わらなかった。


「付き合ってもう二週間も経ったじゃん」

「まだデートしてないの?」

「一体どうして」


 紫さんを除いた三人は理解できないという顔で問いただした。相澤さんは彼女たちからそっと視線を逸らし、苦笑いを浮かべた。


「そ、そうだよね。なんでだろう」


 ん? 相澤さん? なんでこっちを見てるんだ。

 相澤さんの視線がそっとこっちに向いた。同時に、彼女たちの視線も俺に集中された。


 え、ちょっと待って。


「樽井くん!」


 田中さんが机をパーンと叩いた。田中さんの左には山田さん、右には白井さんが圧をかけてきた。

 白井さんが一歩前に出て言った。


「樽井くん、先週の休日に何してた」

「先週?・・・別に何も」

「じゃあどうしてデートしなかったんだよ!」


 急に山田さんが机を叩いた。


「そ、それが」


 そんなこと聞かれたって答えられることはなかった。相手を納得させられるわけがなかったから。デートするのが面倒くさかったし、別にデートしようって誘いもなかったから、しなかっただけなのに・・・。


 いや、そんなことよりなんで俺がとばっちりを喰らわないといけないんだ。


 悪いことしてないのに、なんでこんな扱いをされないといけないんだ。まるで警察で取り調べを受けてるみたいだ。

 俺は恨めしそうな目で、この状況を俺に丸投げした相澤さんを睨みつけた。相澤さんは肩をすくめ、自分は知らないと言わんばかりに視線を背けた。


 あいつ・・・。

 お前が連れてきた子達だろ。責任とれ。と言いたかった。だが、今ここには見ている人が多すぎて言葉を飲み込んだ。

 どうしたらいいか困っている中、白井さんが尋ねた。


「樽井くん、もしかして琴音ちゃんのこと好きじゃないの?」

「え」


 図星を突かれた。俺は相澤さんのことが好きじゃない。そしてそれは相澤さんも同じだ。そもそもこの恋愛には「恋」という感情は存在しない。


「なんでそんなこと聞くんだ」

「普通は付き合ったらデすぐデートするけど、樽井くんはまだでしょ。一体どうして」


 白井さんの声が少し荒らげていた。


 怒ってるのか。いや、少し違うと思う。

 声や言い方が怒っているように見えたが、怒っているような顔ではなかった。むしろ心配するような・・・


「まあまあ、いいからやめてよ。樽井が困ってるでしょ」

「琴音ちゃん」


 相澤さんは白井さんの肩に手を置き、前に歩み出た。


 助けてくれるのか。

 初めて相澤さんが輝いて見えた。相澤さん、俺を見捨てるのかと思ったけど、やっぱり助けてくれーー


「今週、デートするかr」


 ・・・え?


「あ、相澤さん?」


 相澤さんはにっこり笑い、俺に目を向けた。


「今週末空いてるよね? デートしよう」

「・・・・・・」


 俺は答えられなかった。今の状況に頭が追いつかなかったから。

 みんなの視線が俺に集中した。山田さん、田中さん、白井さん、しかも紫さんまで俺をじっと見て、返事を待っていた。


 嫌だ。

 と言いたかった。気持ちとしてはすぐに断りたかった。けど、今の俺に与えられた選択肢は「いいよ」よ「いや」ではなかった。「いいよ」と「いいよ」の間で一つ選ぶしかなかった。

 もしここで俺が「いや」と答えたら、大変なことになりそうだった。今俺を見てるあの目がどう変わるかわからないし、知りたくもなかった。


 俺は結局渋々答えた。


「わかった」

「やった!」

「琴音ちゃん、おめでとう」


 俺の答えに満足そうな表情で笑う相澤さんの友達。相澤さんより嬉しそうだった。

 相澤さんは彼女たちに微笑んで「ありがとう」と言った。あれが猫被りなのか、本音なのかはわからない。


 まるで祭りの雰囲気だな。俺は違うのに。


 この机を境に、向こう側は笑って喜んでいる反面、こっちんは全然笑えなかった。


 貴重な休日にデートだなんて。

 今週末はベッドで観たかったアニメを一気見するつもりだったのに・・・。


 はぁ、仕方ない。

 相澤さんと偽装で付き合ってることを他人にバレないために、恋人らしいことをしないといけないのはわかっていたし、ある程度覚悟もしていたと思う。でも、どうやら覚悟が足りなかったみたい。いざ本当にデートをやる状況になって気持ちが沈んだ。


「じーっ」


 なんだ。

 さっきから視線を感じていた。顔を向けると、紫さんがじっとこっちを観ていた。だが、目が合うとすぐに目を逸らして見ていないふりをした。


 なんだろう。

 疑問に思った。でも聞かなかった。それを聞くほど親しいわけでもないし、気になってたまらないほどでもなかった。


 たまたま目が合っただけだろう。


 そう思ってもう気にしなかった。


「じゃあ、テーど楽しんでね」

「感想聞かせて」

「琴音ちゃんをよろしくね」


 山田さん、田中さん、白井さんが順に言って、自分のせきに戻った。紫さんはいつの間にか目の前から消えていた。

 こうして俺の前には相澤さんだけが残っていた。

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