13話 ありのままでいいと思うけど
「樽井くん、昨日ここにきたよね?」
疑問符で終わっているけど、問いかけている口調だじゃなかった。すでに確信を持って言っている声だった。
相澤さんはゆっくりとこっちに近づいてきた。一歩一歩近づく度に、不安が増して怖くさえなった。
相澤さんは俺のすぐ前に立ち、にっこり笑った。
「答えて。昨日ここに来てたよね? ここで私を見たんだよね?」
「そ、それが」
俺は視線を逸らした。しかし相澤さんは俺を逃してくれなかった。
「昨日ここで私と目会ったでしょ。私が呼んだのに逃げたし」
「昨日は・・・それが、えーと」
「もういい。答えなくても」
答えなくてもいい・・・だと?
「sの反応で十分答えになった。やっぱり昨日ここにいたのは樽井くんだったんだ」
相澤さんは頷きながら勝手に俺とだと決めつけていた。もちろん、昨日ここにいたのは俺だけど・・・。
どうやら昨日ここで会った人は不幸にも相澤さんだったようだ。違うって相澤さんじゃないって信じたかったのに、結局相澤さんだった。
「で、樽井くん」
相澤さんはニコッと笑いながら俺の手を掴んだ。
「お願いがある。昨日見たことはみんなに内緒にしてて。もし他のやつに言ったら・・・」
相澤さんは急に俺の肩を掴んだ。
「殺すよ。悲鳴も出せないくらい苦しく」
さっきまで笑っていた相澤さんの顔が一瞬で冷たくなった。背筋が冷えるほどの濃い殺気を放っていた。
「わ、わかった」
「ありがとう」
俺の返事に、相澤さんはすぐまたニコニコした顔に戻った。
「それじゃ教室に戻ろか」
「ん? ちょ、ちょっと待って。戻るって? 授業は?」
移動教室のために、外に出たわけじゃなかったのか。
「それはもちろん嘘よ。あと、今は昼休みよ」
「はあぁ?! なにっ」
今が昼休みだと? 昼休みまでまだ一時間残ってなかったっけ。
俺はスマホを取り出して時刻を確認した。十二時四十分。昼休みだった。
「樽井くん混乱してる? まあ樽井くん二時間を連続で寝ちゃったんだし。今は昼休みだよ」
俺が二限目も寝ていたって? 確かに一限目の授業中に寝ちゃった記憶はある。けど、起きた時にはちゃんと先生に礼をした。本当はそれが二限目の授業が終わった後だったってことか。
すごく混乱した。
待て、じゃ相澤さんが俺をこっちに連れてきたのは・・・。
「まさか、それ言うためにここまで連れてきたわけ?」
「うん。樽井くんが昨日のことを学校に言いふらすと困るから。口止めしないと」
「そんなことしないよ。あと、そんなこと言ったって誰も信じないと思う」
「まあそかもしれないけど、事前防止っていうか。変な噂が広まると面倒臭いから」
それは俺も同意するが。
「他の人に知られちゃいけない理由でもある?」
「ん?」
相澤さんはきょとんとした。
「昨日のあれ、他の人に内緒にする理由が気になって」
最初から誰かに言うつもりはなかったけど、突然当事者から「言わないで」と言われると、理由が気になった。今じゃないと、あとでこのことが思い出すたびに「なんで内緒にしないといけないんだ」って気になりそうだった。あと、今じゃないと聞けないし。
「樽井くん、どうしてそんあ当たり前なこと聞くの? こんなじゃみんなに嫌われうからに決まってるでしょ」
「嫌われるって?」
相澤さんは深くため息をついた。
「まあ樽井くんには全部見られちゃったからいいっか」
相澤さんは小さく呟いた。そして顔を上げてまっすぐに俺を見ながら話を続けた。
「実は昨日見たのがあたしの本当の性格だよ。あたし性格悪いんだ。口が悪いし、すぐ怒るし、わがままで短気だよ。でもこんな性格じゃ誰もあたしのこと好いてくれない。だから、学校では猫被ってるのよ。優しい人のふり」
・・・今まで演じてたって?! 驚いた。今までのあれが全部演技だったら、役者と呼んでも差し支えないくらだった。いつも優しくて生まれつきからそういう人だと思ってたのに。昨日のあれが本性だったなんて、夢にも思わなかった。
「今まで誰にもバレずに完璧に演じてきたのに、あのクソに兄ちゃんのせいで」
相澤さんはイライラした様子で地面を蹴った。そして相澤さんは俺を指さして言った。
「とにかく他の人には内緒だから」
「嫌われないために?」
「もちろん」
「ふーん、ありのままでもいいと思うけど」
相澤さんなら性格悪くても、周りに好かれると思う。だって、誰にでもすぐ好かれる顔なんだから。
まあ女子たちに嫉妬されるかもしれないが、男子たちにはモテモテだと思う。
「え、樽井くん、今なんて」
「ん?」
顔を上げて相澤さんを見つめた。相澤さんは驚いたように目を丸くしていた。ただでさえ大きい目が二倍は大きくなっていた。
ちょっと、まさか俺さっき考えてたことを口に出しちゃった?
急に恥ずかしくなってきた。俺は慌てて弁解した。
「だ、だからさっきのあれは」
「言葉はありがたいけど、好きになってくれる人なんていないよ」
相澤さんの声がきっぱりしていた。
「私もそれをわかってるから、この性格を隠して生きてるのよ」
「ごめん」
なんか、何もわからないのに勝手なことを言っちゃった形になってしまった。
「大丈夫。これで用も済んだし、あたし教室に戻るね。一緒にお昼食べる約束をして。あれ内緒にするの忘れないで、言っちゃ本当に殺しちまうから」
「・・・わかった」
相澤さんはゆっくり校舎の方へ歩いていった。俺はぼーっと立って遠ざかっていく彼女の姿を見つめた。やがて、視界から完全に消えると、俺も教室へ戻った。
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