表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/46

11話 相澤、相澤琴音だ

 あの日は教室掃除があって機嫌悪かった。午後の授業が終わったらすぐ家に帰りたいのに、教室の掃除が終わるまで帰れないからイライラしていた。でも早く終わらせばいいだろう、と思って放課後の掃除に向かった。だが、教室にいるのはほとんど話したことのない女の子一人だけだった。

 あの時は名前を知らなかったが、今考えると多分鈴木さんだったと思う。


「俺たち二人だけ?」

「そうみたい」

「他のやつは?」

「用事があるって先に帰っちゃった」


 それ絶対嘘だろ。と言いたかったが、別に鈴木さんのせいではないし、何より気まずい空気のせいで言えなかった。言ったところで何も変わらないし。


 っつかマジか。二人で掃除を。


 サボった連中に腹が立ったが、名前すらわからないやつらだったので、言いつけることもできなかった。

 この時は入学してまだ一ヶ月も経っていなく、クラス全員の名前を覚えきれていなかった。


 これ、今日中に終わるのか。


 俺はチラっと鈴木さんを見た。鈴木さんはいつの間にか静かに箒を持って掃除を始めていた。


 あいつ、文句ひとつ言わないな。


 普通なら文句を言うはずなのに、鈴木さんは黙々と掃除をしていた。そんな鈴木さんを見て自分を反省する・・・わけもなく、悪いのはサボったやつらなのに、なんで俺が被害をすなきゃいけないんだ。

 どうしても納得いかなかった。しかし、だからって掃除がなくなるわけではないので、俺は箒を手に取った。


 会話もなく、俺と鈴木さんは静かに床を掃き、黒板を抜いた。こんなに静かな教室掃除は初めてだった。でも、この静けさは嫌いじゃなかった。むしろ良かった。話しかけられることもないし、無理に相槌を打つ必要もないし、会話を続けなきゃいけないプレーシャーもない。ただ黙々と掃除すれべいい。それは俺にとってすごく心地いい空気だった。


 しばらくして、教室掃除は一段落したが、まだ一つだけ仕事が残っていた。ゴミ捨てだった。


「これは俺が捨てるね」


 ゴミ袋も一つだけだったし、早く捨てて帰りたかった。


「じゃあ捨て場まで一緒にーー」

「いいよ。一人でやるから、君は先に帰って」


 一緒に行く方より、一人の方が気楽だった。


「・・・ありがとう」


 少し迷った鈴木さんは感謝して、鞄を持って教室を出ていった。一人残った俺は大きくため息をつき、ゴミ袋の前に歩いていった。

 俺は片手でゴミ袋を持ち上げた。重いだと思ったのに、結構軽かった。余裕で振り回せるくらいだった。俺はゴミ袋を持って学校の外へ出た。

 ゴミ捨て場は学校の裏にあった。早足で歩くのは疲れるし、早く帰るのも諦めていた。だって、二人で掃除したから思ったより時間がかかってしまった。外も日も暮れていて結構暗くなっていた。この時間まで学校にいるのは初めてだった。そのため、俺は全て諦めてゴミ捨て場にのんびり歩いて向かった。


「諦めると楽だな」


 朝から気分が沈んでいたけど、早く帰るのを諦めたら、意外と気持ちが軽くなった。だからか、焦りもなくなったし、自然と足取りもゆっくりになったいた。


「ここに捨てればいいんだろう」


 俺捨て場にゴミ袋を投げ捨てて手を払った。これで掃除は終わり。もう教室に戻って鞄を取って帰るだけだ。


「早くかーー」

「うるさい。このバカァ!」


 突然、鋭い声が聞こえた。驚いて周りを見回したが、誰もいなかった。


 空耳かな。


 気にせず戻ろうと思ったが、また同じ声が聞こえてきた。


「お前が言っただろ。責任取って買ってきなよ」


 今度は空耳じゃなかった。はっきり聞こえた。誰がこんなところで怒鳴っているのか、少し気になった。今、確認しないと寝る時まで気になって寝れなさそうだった。それだけはいけない。俺はこの疑問を晴らすため、声のした方へ足音を忍ばせて歩いていった。

 ゴミ捨て場から少し離れた、学校の裏。人通りが少なくて雑草が足首まで伸びているところだった。


「確かこの辺から」


 周囲を見回しても人影はなかった。もうどっかへ行っちゃったのか、と思って引き返そうとした刹那ーー


「死ね、このクソお兄ちゃん」


 また声がした。今度は逃さず、声のした方へ静かに近づいてみた。やがて、黒い人影がひとつ見えてきた。距離があってはっきり見えないので、さらに近づいた。十歩ほど進と、顔がぼんやりと見えてきた。俺は目を細めて見た。


「あれ、あの人は・・・?!」


 見覚えのある顔だった。確か同じクラスのはずだが、名前が思い出せない。

 入学式の頃からかわいいと有名で、よく名前を聞いていた。確かに、あい、あ! 相澤、相澤琴音だ。


 ってことは、あの声の持ち主は相澤さんか。信じられない。


 相澤さんと親しいわけではないが、何度か軽く話したことはあった。「次の授業、移動教室だよ」とか、朝の挨拶とか、その程度の簡単な会話しか交わさなかった。でも、人と話すときはさっきの鋭い声とは違って、優しくて柔らかい声で接してくれた。だから、信じがたかった。さっきの声と普段の声のギャプがすごいから。


 いイメージと全然違うな。

 そういや、顔つきもいつもと違うような・・・。


「そこ、誰!」


 突然、相澤さんがこっちを見て叫んだ。


 やばい。逃げないと。


 ここで見つかったらすごいめんどうくさいことになってしまう気がした。それだけは遠慮だったから、俺はすぐ逃げようと思った。けど、その計画は一秒も経たず崩れてしまった。

 地面を蹴った瞬間、相澤さんと目が合ってしまったからだ。

読んでいただきありがとうございます。

ブクマや評価をしていただければ嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ