10話 猫被り上手いね
教室で付き合っているって宣言してから二週間が経った。そしてあの宣言は予想外にどんでもない効果をもたらした。
「正直あの時は信じなかったが、まさか本当に相澤さんの言う通りになったな」
二週間前までは、これが効果があるのか、相澤さんを信じてもいいのか、こんなことして逆に面倒臭いことになってしまうのではないか不安だった。けれど、予想に反して意外と効果があった。
俺を煩わせたやつらも、「付き合ってる」っていう質問と、あの宣言以来、魔法みたいに綺麗さっぱり消えた。
あ、二人いた。宣言してから相澤さんとガチで付き合ってるって聞いた人。
雛と聡樹だった。昼休みの後、授業が終わるや否や、あの二人はすごく慌てた様子でうちのクラスに来て「いきなり付き合うってどういうことだ!」って聞いていた。その問いに、俺は簡単に答えた。
「そういうことになった」
その日はあまりにも多くの人と話して、エネルギーが底をついていた。そのため、事情をいちいち説明するのがめんどうくさくてああ言っていた。まあ別に嘘をついたわけでもないから、いいだろう。
反応は完全に両極端だった。聡樹はびっくりして目を丸くし「樽井に彼女ができるなんて。しかもあの相澤と・・・やべぇ」と独り言を呟いた。それに反して雛は「このばかやろ」と言った。そして俺の肩を強く叩いてイライラいした様子で教室を出ていった。
結構痛かったな、あれ。
あの時、雛に叩かれたことを思い出すと、雛に叩かれた右肩がズキズキ痛くなった。俺は左手で肩をさすった。
でも、あの二人を除けば、相澤さんと付き合ってるのかと聞かれることはなかった。
相澤さんが言っていた通り、はっきりした答えを出して、もう気にしないのか。
まあ、理由がなんであれ、俺にとってはありがたいことだった。もちろん、関心が完全に亡くなったわけではなかった。廊下を歩くたびに視線を感じるし、嫉妬して睨みつけるやつもいたけど、それは無視すれば済むものだった。そして、たまに知らない奴が来て「相澤さんとうまくやれ」とか言われたりした。でも、わざわざ「うん」とか「ありがとう」と返す人ようもないし、一貫して無視した。
あと、意外と相澤さんの彼氏役も思っていたより楽だった。恋愛といって定期的に連絡を取り合ったり、デートしたり、そういう面倒臭いことがあると思って心配だったけど、別にそんなこともなかった。そもそもお互いの連絡先も知らないから連絡もできないし、二人きりになることなくてデートの話もしたことなかった。
まあ俺としてはいいことだが。
デートのために休日を返上したくなかった。休日は部屋のベッドでゴロゴロしているのが一番だ。
「えっ、マジ?』
相澤さんの声が教室の前のドアの方から聞こえてきた。友達と一緒に教室に入ってきていた。
「昨日ショート動画で見たんだ。サイの角は実は毛が集まってできたもんだって」
「マジで? 知らなかった」
あんな適当に流してもいい話題にも、優しい笑顔と上品な仕草、柔らかい声で相槌を打ってくれる相澤さん。そんな彼女を見つめながら、俺は小さく独り言を呟いた。
「相澤さん、ほんと猫被り上手いね」
俺といる時はまるで別人だった。俺には聞こえてくれない柔らかい声と優しい態度。
入学した頃は、俺にも優しかったのに。
高校に入学して間もない頃は、俺にもあんなふうに接してくれた。優しくて親切だった。だが、あの日を境に、相澤さんの俺に対する態度は百八十度変わってしまった。
そういや、あの日が初めてだったな。相澤さんとちゃんと話したの。
猫被ってる相澤さんを見ていると、自然にあの日のことが思い出した。相澤さんと初めて話し、相澤琴音という人の真の姿を目撃したあの日の記憶が静かに頭の中で再生されていった。
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