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私から全てを奪っていく義妹から逃れたい  作者: しののめ


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26-1

 私たちは目的地である屋内訓練場に辿り着いた。玉座の間より広いこの場所でカーラを迎え撃つつもりだけれど。


「カーラは、本当に来るのかしら」

「来ますよ。絶対に……今が一番警備が薄いんですから」


とルイスが断言したその時、ぞわり、と総毛立つような寒気がした。


 入り口から、歪な気配を孕んだ空気が流れ込んできているのが分かる。ーールイスと二人でそちらを見やれば、そこに人の姿があった。


「アメリ……」


 入り口に立っていたのは、玉座の間から逃げ出していたアメリだった。彼女は、得体の知れない黒い影を全身にまとわせている。


「幸せそうじゃない」


 私を見た彼女は、皮肉げに唇を歪めた。


(何だろうーー普通じゃない)


 その手には、どこから手に入れたのだろうか、短剣が握られている。


 黒い影に包まれたアメリは、ゆらりゆらりと体を左右に揺らしながら私に近づいてくる。そう、私「たち」ではなく「私に」だ。彼女の瞳には私しか映っていなかった。


「お前のせいだ……」


 アメリは私に近づこうとする。けれど、私を庇うようにして立つルイスの神気に当てられて、一定の距離より近付くことができなかった。

 彼女はもどかしげに歯噛みする。


「お前のせいで、私は全てを失った。お前がいるせいで……っ!」


 地団駄を踏むアメリに、ルイスが冷静に反論した。


「それは違う。君が全てを失ったのはアイリーンのせいじゃない。君が周りの人々に優しくなかったからだ」

「は……?」

「だって君が精霊の愛し子を騙ったのは、君の意思じゃない。母親に吹き込まれたせいだ。だからーーもし君が、精霊の愛し子としての自覚をもって周囲の人々のため、ひいては国民のために尽くしていたなら、きっと人は君に同情しただろう」

「……うるさいうるさいうるさい!!」


 アメリが吠えた。


「私は精霊の愛し子で、私は特別だったの! 誰もが私を無条件に愛し、敬い、尊敬するのだとお母様が言った! なのにお前如きに……!」


 そう叫んだアメリは、唐突に目を見開き、短剣を取り落とした。


「……っ! 額が、痛ーーっ!」


 彼女の額に印が浮かび上がる。精霊の愛し子の証に偽装されていたルラ教団の印だ。


 アメリは額を押さえながら、両膝を床につく。両手で耳を塞ぎ、頭を激しく振った。様子がおかしい、と思った時、不意にアメリの影が長く伸びた。


 影は不自然なほど太く広がり、やがてその中から「何か」が実体化する。闇を纏った影は、やがて人の形を取り……アイリーンとルイスがよく知る人物の姿を取った。

 屈んだ姿勢を取っていたその影は、むくり、と起き上がると、床に座り込んで苦しんでいるアメリに、醒めた視線を投げかけた。


「本当に、使えない子」

「お、母……さま……」


 影から現れ出たのはカーラだった。彼女はアメリの顎を指でくいと持ち上げる。情の欠片もない母親の瞳を直視したアメリが、絶望の表情を浮かべた。


「忠実な手駒が欲しくて、お腹を痛めて産んでみたのに、ちっとも役に立ちはしなかった。本当にーー産んで損したわ」


 その言いようは、いくら相手がアメリであっても聞くに耐えないもので、反論したくなる。けれど、ルイスが私を制するように首を横に振った。


「アイリーン。彼女は私たちとは違う世界で生きています。ーー親子の情なんて、ないんですよ」


 ルイスの緊迫した声が、その正体を確認するよう口ずさむ。


「人であって人ではない。ルラ教団の教主とは、そういうものなんです」


 その言葉と同時に、カーラの体が闇を孕んで膨らんだ。その体は周囲の闇と同化し、巨大化する。その場にいるアメリまでもを飲み込んで。


「アメリ。使えないなりに私の力になるがいい」

「ああっ、お母様…! なぜ………」


 アメリは取り込まれまいと必死にもがくけれど、抵抗虚しくその体は闇の中に沈み込んでいく。助けを求めるように伸ばされた手は空を切り、やがて完全に闇と同化した。

 闇は、咀嚼するようにうごめき、少しずつ形を変えていく。そしてーー。


「ふふっ、久しぶりの人の生気はやっぱり違うわね」


 現れたのは、今まで遭遇したどんな魔獣より禍々しい魔獣だった。

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