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私から全てを奪っていく義妹から逃れたい  作者: しののめ


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24-1

 アメリを追って大半の衛兵が出払った謁見の間には、王と少数の護衛だけが残っていた。

 気まずい沈黙が落ちるその床に、不意に奇妙な影が広がった。


 影が少しずつ盛り上がり、立体的な「何か」を作り上げる。そして。


「あーあ。失敗しちゃったのね」


 その影が、嗤った。


 影は人の姿を象り、やがて輪郭を表した。己の子であるアメリを「精霊の愛し子」だと喧伝した女、カーラだった。


 その尋常ならざる出現の仕方に、王は思わずといったように立ち上がる。


「そなたは……」


 カーラはおどけたように肩をすくめると、


「もう少しで王家を乗っ取れると思ったのに、台無し」


と言って、次にゆっくりと手を上げた。その手の平から揺らめく黒い炎が出現し、それが長く伸びる。伸びた黒炎は形を作り、やがて巨大な獣の姿を取った。


「魔獣……!」


 その瞬間、この場にいる誰もが彼女の正体を知った。魔獣を従える禁忌の邪法。それを使いこなす彼女こそが、ルラ教団教主だと。


「王をお守りしろ!」


 王を守らんと立ち塞がった護衛たちを、しかし獰猛な魔獣が容赦なく襲う。


「ぐ……っ」


 今まで衛兵たちが対峙してきた魔獣とは段違いの強さを持つ獣は、硬い皮膚で覆われており、剣を弾く。一方でその鋭い爪は、人の皮膚を紙切れのように引き裂いた。


 なす術もなく薙ぎ倒され、切り裂かれた護衛たちは、断末魔の悲鳴を上げ倒れ伏す。床に血溜まりが広がった。


 ーー護衛が全て動かなくなると、役目を終えた魔獣は黒い霧となって消えていった。


 最早、この場で立っている人間は王とカーラの二人のみだ。


 ……不気味な静寂が、この場を支配していた。


 カーラは、凄惨な光景を目の当たりにして恐れ慄くよう立ち尽くしている王の元へ歩いて行き、その耳元で囁く。


「もうお前は用済みね」


 嘲るように唇の端を釣り上げた。


「でも王様。お前は今まで、私たちに楽しい思いをさせてくれたから、お前は最後にしておくわ」


 そう言って嫣然と微笑むと、彼女は霧のように、その姿を消した。



⭐︎



 一人残され、全てを失った王は、力を失い膝をつく。


「私は……一体どうすれば……」


 その言葉に答える者はいないかと思われた。が、


「これは……」


と声がした。

 そこに現れたのは一人の女性だった。騒ぎを聞きつけ駆けつけた彼女は、この惨状を目にして、一瞬、言葉を失った様子だった。しかしすぐに動揺から立ち直ると、死体が転がり血の匂いが充満するこの場所を、気丈な表情で歩き進めた。

 やがて彼女はうなだれている王の前に立ち、


「貴方は一体、何をしているのです」


と言い放った。

 王は俯いたまま、その女性ーーかつての精霊の愛し子であり王妃である妻に悔いを告げた。


「そなたの言うとおりだった。精霊の愛し子だからといって特別扱いをするべきではない。力を持つからこそ自分を律するよう導くべきだと、さんざん忠告されていたのにな」


 王は、アメリとその母カーラひいてはリオーネ家に、言われるがまま特別な処遇を与え続けた。それがルラ教団という、王家と国民にとっての敵勢力に驕りと力を与えてしまったのだった。


「今、それを言っても仕方のないことです」


 王妃は知っている。ここで反省の弁を垂れ流したとて、何の役にも立たないことを。だから彼女は夫にこう告げた。


「貴方は王としての使命を果たして来なかった。そして私も、生まれた子には罪はないのに、疎んで、手放してしまいました。だからせめて最後の仕事として、この事態の後始末をしなければならないのでしょう。お立ちなさい」

 

 そのまま王妃は王に、決して手を差し伸べることなく踵を返した。


 王は、立ち去っていく王妃の背中を視線で追ったのち、玉座を支えにして何とか自力で立ち上がる。それが彼の、王としての最後の矜持だった。そして王は、よろめくようにして謁見の間を後にしたのだった。

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