閑話6 もう一つの母子
お母様は、こう言いました。
「アメリ。貴女は特別な力を持った精霊の愛し子」
私の額には、生まれた時から精霊の愛し子の印があったとお母様から聞きました。
「貴女は誰よりも尊い子なの」
その言葉は、私を力付けてくれました。私は特別な子。他の有象無象とは違うのです。
「でもね、気を付けなさい。貴女の力に嫉妬して、貴女を傷つけようとする人が必ず現れるわ。そう、あのフィオナとアイリーンのように」
お母様が言うには、アイリーンもその母も、屋敷の隅で大人しくしているけれど、そのうちに私たちの障害になるとのことでした。
この家の正統な後継は私とお母様です。この家に、子供は二人も必要ありません。
お母様に言われるまでもなく、異母姉であるアイリーンは存在するだけで目障りだったので、お父様にお願いして屋敷から追い出してもらいました。
そんなある日、
「貴女にこの力をあげるわ」
とお母様は私の額に触れ、何か不思議な言葉を唱えました。愛し子の印がある辺りが、とても温かくなりました。お母様の指から、何か不思議な力が流れ込んでくるのを感じました。
「貴女を傷つけようとする者がいたら、額に意識を向けて願いなさい」
お母様の言うとおりにすると、黒い獣が私の前に現れました。少し怖い気配をまとっていたけれど、とても私に従順ないい子たちでした。
その子たちは、私の言うことを聞かない人たちを、こっそりと排除してくれました。
精霊の愛し子は、怖い魔獣をも従えることができるのだと、誇らしく思いました。やはり私は選ばれた人間に間違いはないと。
そんな私に、お母様は言いました。
「その力は、王家の人たちの前では使ってはだめよ」
何故だろうと思いました。こんなに素晴らしい力なのだから、存分に見せつけてあげればいいのに。そうすれば王家の人たちは、もっと私たちを敬うはずなのに。
(特に王妃様は、私たちを蔑んだような目で見つめてくる)
いくら先代の精霊の愛し子とはいえ、現任者を尊重しないのは無礼だと思うのです。
「王家の奴らに知れたら、便利に使われてしまうわ。これは歴代の精霊の愛し子にもない、貴女だけの特別な力なのだから」
お母様の言うことは、もっともだと思いました。この素晴らしい力は、私たちだけで占有すればいい。この力を駆使すれば、私は今以上に国民の敬意と畏怖を浴びることになるでしょう。
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謁見の間はしんと静まり返っていた。やがて、顔面を蒼白にしたアメリが震えながら訴えた。
「私が精霊の愛し子の印を持っているのよ!? あの子が精霊の愛し子のはずがない!」
しかしアメリが何を言っても、事実を変えることはできない。隠された王子であるルイスが精霊の祝福を持つ者であり、その彼の力を御することができる者が、アイリーンだ。
ではーーあの娘が精霊の愛し子であるのなら、このアメリという娘は一体何なのだろうか。その場にいた誰もが、そんな猜疑心に満ちた瞳でアメリを見つめている。
彼女が精霊の愛し子であるからこそ、皆、彼女の横暴な振る舞いにも我慢してきたのだ。しかも、精霊の愛し子を騙ることは大罪だ。
冷たく、そして恨みを含んだ視線が、アメリに注がれる。
……もし彼女が、人々に親切に、寛容に振る舞っていたのであれば、許される部分もあっただろう。しかし、今、彼女を擁護する者は誰もいなかった。
衛兵がアメリに迫ってくる。
「いや……やめて……!」
アメリが恐怖に歪んだ顔で後ずさる。
「来ないで…っ!!」
その悲鳴と共に、禍々しい黒い霧がアメリを包み込む。
やがて霧が消えた時、アメリの姿は忽然と消えていた。
「消え、…た……?」
謁見の間は不安のざわめきに包まれた。
「探せ!」
衛兵の長が鋭い声でアメリ捜索の号令をかける。忙しない軍靴の足音が、城中に響き渡っていた。




