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私は、精霊の愛し子を害しようとしたというアメリの訴えにより、身柄を拘束され、王城に連行された。
ーーと表現すると深刻そうに聞こえるけれど、決して最悪の事態ではない。
(もし、人気のない場所で捕まっていたら……)
秘密裏に殺された可能性も否定できない。そうしかねない切羽詰まった印象が、アメリにはあったから。
そんな状況にならずに済んだのは、密かに護衛してくれていたフェルナンとステラのおかげだ。
そして、フェルナンが私を王城に連れて行くと私兵たちに告げた時、彼らの思惑を察した。
もう、この隠し事を終わらせようとしているのだ。だから、この機会に私を王に謁見させるべく、敢えて引き立てたることにしたのだろう。
王城に囚われたけれど、決して手荒なことはされていないのが、その証拠だ。
常識的に考えれば、いち個人の争いに国王が関知するはずもないだろうけれど、長年、精霊の愛し子の座についているアメリの訴えを無視できなかったのだろう。
私はフェルナンに伴われ、王様の前に連れ出された。
広々とした謁見の間には、これ見よがしに包帯を巻いた肩を出した装いのアメリ、そして重臣たち、衛兵が居並んでいた。そして一番奥の豪奢な玉座に王様が座っている。初めてその姿を見た第一印象は、
(何だか想像と違う……)
というものだった。
私の中で王様というのは、威風堂々としていて、何者をも恐れないイメージがある。実際、学園に飾られていた肖像画は、自信に満ち溢れた姿で描かれていた。
でも、目の前で玉座に力無く腰掛けている王様は痩せこけていて、覇気が欠けている。
(これがーー王様?)
重臣たちと共に並んでいたアメリが、玉座に駆け寄り、王様に訴えかけた。
「この者が私を亡き者にしようとしたのです」
事実無根の訴えを起こすアメリに、王様は疲れたような目で私を見る。
「そうなのか?」
面倒そうな表情に、この方は考えることを放棄しているのだと思った。
「精霊の愛し子がそのように言うのなら、そうなのであろうが……一応、聞いておこう。其方、何か申し開きは?」
不思議だ。こんな状況なのに、心は凪いだように落ち着いている。
「違います」
私はきっぱりと否定した。
「私には、彼女を亡き者にする理由がありません」
ざわめきが広がる。
周囲の人間も、決して盲目的にアメリの言動を信じているわけではなさそうだ。そんな空気を嗅ぎ取ったのだろう、アメリが肩を押さえながら言葉を挟んできた。
「口では何とでも言えるわ。私は現に、負傷しているでしょう!? お前がけしかけた魔獣にやられたの!」
そして指をさす。
「お前はルラ教団でしょう!?」
ありえない訴えを私は静かな声で否定した。
「アメリ。私はルラ教団とは何の関わりもないわ。私には魔獣を操る力なんてない」
するとアメリは低く唸るように、
「気安く呼ばないで。負け犬が!」
と威嚇する。けれど何故だろう、今までのように自信満々ではなく、虚勢を張っているような響きを感じた。
どちらにせよ、私はもう、決して怯まない。
「アメリ。ありもしない罪をでっち上げて、人を罪に陥れようとする貴女は、精霊の愛し子として相応しくない」
精霊の祝福を受けた者も、精霊の愛し子も、国の安寧を守るための存在だ。だからこそ、偽りを主張し、争いの種を蒔くのであれば、たとえ精霊の祝福を受けた者だとしても、国家の統治に関わらせるべきではないはずだ。
「精霊の愛し子を否定するの!? やはりお前は国家に仇なす重罪人だわ!」
アメリは、したり顔で私を糾弾する。でも私も、一歩も引くつもりはない。
「私は精霊の愛し子を否定したわけではありません。貴女に苦言を呈したのです」
私の言葉を聞いたアメリが、かっと顔を赤く染める。怒りに震える指で、私を指差した。
「衛兵! 何をしているの!? 早くこの子を捕らえなさい! 危険分子は、早く処刑するのです」
ほとんどの衛兵が動かない中で、しかし幾人かの盲目的に精霊の愛し子の存在を信じる者が、私に向かってくる。
(ううん、そうじゃない)
あれは衛兵なんかじゃない。学園の時と同様、王宮に入り込んだ反乱分子ーールラ教団の一味だろう。
ならば今、私はどうするべきか。
それを私は本能的に理解していた。




